連載
「恋愛」を禁じられた家庭 親になった元2世信者が向き合う性の話題
"恋バナ"さえ許されなかった私が、母になり考えたこと
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"恋バナ"さえ許されなかった私が、母になり考えたこと
漫画家のたもさんには、キリスト教系の宗教団体信者の母がいます。恋愛を禁じる教義を深く信じ、たもさんがパートナーと交際すると、厳しく叱りました。性的な話題については、口にすることすらできません。青春時代に傷ついた経験から、年頃の息子と、オープンに語らえる関係を築きたいと思っているという、たもさん。子どもに心を開いてもらうため、必要なことについて、描き下ろし作品から考えます。
キリスト教系の宗教団体の一員である母。たもさんも幼少期に入信し、成人後に脱会するまで、信仰を中心とした生活を送ってきました。
教義の中には、自由な恋愛を禁止する項目があります。そのため、母は娘である、たもさんの行動には敏感でした。
母はある日、たもさんのかばんの中から、パートナーと撮った写真を見つけます。問いただすと、こう反論してきました。「やましい事がなければ見せられるはず」「この世はもうすぐ終わるというのに、男の人と付き合っている場合じゃないでしょう!」
青春時代に、親子で”恋バナ”ができない……。そんな状況に心を痛めた、たもさん。小学生の息子「ちはる」には、どんなことでも打ち明けて欲しい。一人、決意を新たにするのでした。
最近、特に気になっているのは、性にまつわる話題です。娘であれば、生理の話や、婦人科の選び方などについて語らえるかもしれない。でも、異性である息子が悩みを抱えても、スマートに話せる自信がありません。
悩みながら調べると、こんな情報に行き着きました。
「幼いうちは、親の性別より信頼関係が大切」
「性教育とは、大人の性行為について話すことではなく、日常の何げない会話の流れなどで、性にまつわるマナーやからだの変化などを含め段階的に教えるもの」
たとえば、電車の中で妊婦に席を譲った後、「あなたがお腹にいたときも同じことをしてもらった」と話してみる。生理痛で起き上がれないとき、女性の体の仕組みについて伝える。そのような方法なら、自然に会話できるかも……。たもさんは、手応えを感じます。
「パパにも関わって欲しい」。そう思い、仕事から帰宅した夫「カンちゃん」に相談します。
「仕事が忙しくて、あと5年くらいすれば落ち着くかも……」。返答を聞き、たもさんはこう迫ります。
「5年後、ちはるは15歳……」「15歳の男の子が、いきなり距離を縮めてきた父親に心を開くとでも……?」
その後、月に一度は、父と子で出掛ける時間をつくるように。「いつか、自分か夫、どちらかでも相談相手になればいいな」。そんなモノローグで、漫画は締めくくられます。
たもさんはこれまで、母と性について語らった経験が、ほとんどありませんでした。「男性はあなたを食い物にしようとしている。近づいちゃだめ」。そのような、偏った考え方を伝えられることも、少なくなかったといいます。
適切に意見交換できないことで、息苦しさを感じたこともあったそうです。
「20歳くらいのとき、発熱が続いたせいで、『腟(ちつ)カンジダ』という病気になりました。疲れやストレスなどにより、抵抗力が落ちることで発症し、女性なら誰でもかかる可能性があります」
「でも、母に『ふしだらなことをした』と思われたくなくて。一人で婦人科を探し、こっそり受診しました」
母が男女交際に反対したのも、「結婚を前提に付き合う」という、組織の教えを信じていたから。娘を守りたいという一心でなされた「教育」が、結果的にたもさんを苦しめたのです。
たもさんは今、性教育について「自分や他人を傷付けないためのもの」であると感じています。
「お付き合いしてるの? いいわね。素敵な人なんでしょうね。お互いを守るために経験を焦らなくていいし、将来気持ちが通じあったときには、コンドームを着けてね」
かつての自分にそう言ってあげられたらよかった、という思いが、募るばかりといいます。
だからこそ、まずは「傷付けない、傷付かないための性教育」から始めてみたい。そう考えているそうです。
「最近、息子が『ママせいり? 寝といてね!』と言ってくれるようになりました。息子の未来のパートナーは、きっと幸せ者ですね」
【執筆協力・NPO法人ピルコンのアドバイス】
性教育と聞いて、「コンドームや性行為の話をしないといけないの?」と身構える人もいるかもしれません。しかし性教育は、体や健康、安全のこと、自分らしくあることも含まれる広いテーマのものです。
また、一度話せば終わるものではありません。普段の生活の中で、命の誕生に関する子どもの疑問や、体が大人へと変化することを受け止めたり、性にまつわるマナーや、あらゆる性別の平等性について繰り返し伝えたりすることも、大切な性教育です。
子どもが思春期を迎えると、性に関する話題に限らず、特に異性の親に対して話しづらさを感じやくすなります。これは、ごく自然な反応です。
幼少期のうちから性について語りかけることで、「保護者は信頼できる情報源や相談相手である」と示すことができます。また、幼児期は性に対して先入観がなく、教えられたことを素直に受け止め吸収していく時期であるからこそ、話しやすい側面もあります。
そして何より、性教育は母親だけがすることではありません。パートナーとも話し合い、ときに分担をしながら、「誰でも性について話していいし、学び合える」と子どもに伝えられるとよいでしょう。
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