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五味太郎さん、不自由さへの直言「自由なんてのは存在しない」

「自由なんて、あると思うから意識しちゃう」

仕事机に座る五味太郎さん。「娘たちも、本当に相談がある時は仕事場に来てたよ」=北村玲奈撮影
仕事机に座る五味太郎さん。「娘たちも、本当に相談がある時は仕事場に来てたよ」=北村玲奈撮影

目次

新型コロナウイルスで休校がさらに延長される判断も相次ぎ、多くの子どもや親が振り回されるなか、不安定な社会にどう向き合えばいいのでしょうか。絵本作家の五味太郎さん(74)に聞くと、これは、むしろ「学校化社会」を問い直すきっかけになる、と言います。五味さんの話の後編は「お風呂が熱い」と言う子どもに我慢させるか否かという比喩から展開していきました。子育て、そして仕事に、「不自由が前提」と話す五味さんのヒントが満載です。

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熱いお風呂、なぜがまん?

ーー新型コロナウイルスによって、学校が一斉休校になり、これまで「当たり前」だったことが崩れています。でも、そのコロナ前の「当たり前」の社会が、子どもにとって良い社会だったのかと、五味さんは問いかけています。五味さんの娘さん2人は、途中から学校に行かない選択をされていますね。

学校に行きたくない子どもに親が行きなさいというのは、子どもが「お風呂が熱い」って言ってるのに、親が「肩までつかって100まで数えなさい」というようなもので、人類は進化してるはずなのに、いまだに根拠のない根性論が……。


ーー「お風呂が熱い」と思っても、私も含め、素直に「熱いから出よう」と言える大人がまれな気がします。


熱さに意味はないけど、この熱さに耐えれば卒業証書、修了証書、そして退職金……と続いていく。で、疲れちゃって、考えるのをやめていく。考えるのって面白いはずなのに。それを繰り返してるうちに、自分が何がしたいかわからなくなっちゃってる。誰かに見てもらって点数つけてもらって休みもお金ももらう。おれは「学校化社会」って名づけたよ。

仕事は体を使ってするもので、しんどい・しんどくないは体で判断すればいいのに、その素直な感覚を無視してしまう。

「仕事は体が先に出て頭は後からついてくるもの」=北村玲奈撮影
「仕事は体が先に出て頭は後からついてくるもの」=北村玲奈撮影

この社会の不安って、好きなことで仕事をやってる人がとても少ないこと。「好きなことで食べていくなんて甘いよ」なんて子どもの頃に言われちゃうこともあるのかな。

おれ、もしかしたら異常かもしれない。起きて絵の続き描くのも、色塗るのも、大変だけど、毎日わくわくする。わくわくしながら仕事に行ってる人ってどれぐらいいるのかな。

親がやりがちなミス

ーー学校が休みになり子どもと過ごす時間が増えた人が多くなりました。子どもの邪魔をしないように、大人が気をつけることって何でしょうか。


それを問う以前に、つくづくこの社会には、子どもに人権なんてものはないなと思ってる。

たとえば、子どもが絵を描いてるわきに行って「なに描いてるの?上手ね」なんて言うのは失礼なことだとおれは思う。それはその子が描いてる絵なんだから。ピカソに対してはそう言わないでしょう。いっぱい来られると子どもはめんどくさくなって、「お花、かわいいわね」と言われたりして、ウケるものを描いてしまう。大人がやりがちなミスです。ガキに「礼儀正しく」という割にはガキに礼儀正しくない。

五味太郎さんのアトリエに並ぶ画材。「毎日、起きて、絵の具のふたをあけて、昨日の続きの色を塗るのがわくわくする」と五味さん。=北村玲奈撮影
五味太郎さんのアトリエに並ぶ画材。「毎日、起きて、絵の具のふたをあけて、昨日の続きの色を塗るのがわくわくする」と五味さん。=北村玲奈撮影

子どもの「そんたく」、切ない

ーーなぜミスしてしまうんでしょう?


大人の未完成度じゃないかな。自分の完成度がここまでだと思えば、後ろを振り向くんだよね。そうすると、不幸なことに、幼いガキがいる。無意識に、自分の大きな空白をそれで埋めようとする。

今の親たちはすごく子どもに向かってる。子どもに対する責任が社会的に親に持たされちゃってるから。子どもの幸せを考えているよね。でもそれはやっぱり甘いんだと思う。だって、そいつらはそいつらなんだもの。

子どもは子どもで、親を一生懸命「そんたく」しちゃう生き物。命がまだ弱いから、先生やお母さんお父さんに喜んでほしいと反射的に顔色を見る。

ーー切ないです。


うん。だから、親は、そうさせないようにがんばんなくちゃいけない。

「この前ガルシア=マルケスを読んでて、自分の父親のことを考えるとき自分の息子のように感じることがある、みたいな一節があって、おれも亡くなった親父のこと考えるとき、ほんとにそうだなーってしみじみしたよ」=北村玲奈撮影
「この前ガルシア=マルケスを読んでて、自分の父親のことを考えるとき自分の息子のように感じることがある、みたいな一節があって、おれも亡くなった親父のこと考えるとき、ほんとにそうだなーってしみじみしたよ」=北村玲奈撮影

十分悩みましょうよ

ーー一斉休校や外出自粛など、これまで自由だったことができない状況が生まれていますが、コロナウイルス前から、子どもたちの選択肢を大人が阻んでいたのでしょうか?


それは違うと思う。自由なんてのは存在しなくて、あると思うから不自由を意識しちゃう。誰でも引力や天気にあらがって生きてるわけだし、鳥は自由でいいななんて言うのは、鳥の大変さ、不自由さをわかってない人。不自由なのは前提だもん。限られた材料や選択肢の中で、悩むしかない。大人も子どもも。これを機に、十分悩みましょうよ。

人生って自分の居場所を見つけることかも、って娘が言ってたけど、こればかりは子どもも大人も自分で見つけるしかない。

五味太郎さんのアトリエにあるオブジェ=北村玲奈撮影
五味太郎さんのアトリエにあるオブジェ=北村玲奈撮影

子どもにばんばん相談を

ーー親個人ができることってないでしょうか。

一つ、知恵としては、子どもにもばんばん相談すること。

だいぶ前のことだけど、ある女性から「夫とうまくってないんだけど、子どものために別れられない」と相談を受けて、「それ、自分のためでしょ。子どもに相談した?」と聞いたら、してない、って。それで彼女が中高生の息子に相談したら、「早く言えよ~」って言われて、拍子抜けしたそうです。で、別居してそれぞれ会いに行ってもらうことにしたそうで、ずっと悩んでたのはなんだったんだろうって。

親はガキより立派でも強くもないし、むしろ弱いぐらいなんだから、それを認めて、一人の人間として相談したらいいんじゃないかな。

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