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連載

#53 #父親のモヤモヤ

妻に先立たれ、子育てと親の介護の「ダブルケア」 ひとり親の10年

「幸いなことに、子どもたちは元気に育ってくれました」と話す男性。スマホには、子どもの写真が入っている
「幸いなことに、子どもたちは元気に育ってくれました」と話す男性。スマホには、子どもの写真が入っている

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
仕事に、子育てと親の介護の「ダブルケア」、それに地域活動も。すべてに滞りなく関わることは、きわめて難しいことです。中部地方に住む会社員の男性(48)は、そう痛感する1人です。10年前に同い年の妻をがんで亡くし、いまは、長男(15)と次男(12)の子育て中。ひとつ歯車が狂えば生活が破綻する。この10年は、そんな感覚を味わっています。
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仕事人間、妻の病気で一変

男性は、知的財産を扱う部門で管理職として働いています。会社の「虎の子」を守り、権利が侵されれば時に闘う。技術の理解はもとより、海外の弁護士との交渉もあるハードな職場です。

かつては「仕事人間」でした。「残業をして日付が変わった午前0時過ぎに帰ることも当たり前。当然に寝不足で、不機嫌な表情のまま朝食をとって仕事に出かける日々でした」。子どもと話をする時間もなかったと言います。

妻にがんが見つかり、生活が一変します。朝は子どもを保育園に送り、定時には帰宅するように。「極限まで仕事の無駄を省きました」。帰宅後は、療養中だった妻用の食事と、子どもたちの食事を別々に料理。夕食をとれば、お風呂に、寝かしつけと続きます。こうした生活が1年2カ月続きました。

妻は、旅立ちました。

「子どもに寂しい思いをさせたくない。その一心でした」。保育園の帽子に刺繡(ししゅう)をしたり、きれいに飾り付けをした「キャラ弁」を作ったり。休みには、海や山へ。長い休暇には、北海道を一周する旅行もしました。

ただ、公園など家族連れが集まるところには行けませんでした。めまいがして気持ちがすぐれなくなったと言います。「人が少なく、自然がある。そんなところばかりに出かけました」

「子どもに寂しい思いをさせたくない」。その一心でキャラ弁も作ったという男性(写真はイメージです)=PIXTA
「子どもに寂しい思いをさせたくない」。その一心でキャラ弁も作ったという男性(写真はイメージです)=PIXTA

業務を効率化すると、また仕事が……

一方、仕事は多忙を極めました。「喪中」こそ一定の配慮がありましたが、次第に任される仕事量が増えました。「業務を効率化して早く終わらせると余裕があると思われ、また仕事を振られる。そしてさらに効率化して……の悪循環。働いた時間ばかりが評価の対象でした」。やむを得ず残業する場合、買っておいた弁当を子どもたちだけで食べさせましたが、心が痛んだと言います。

「男は仕事、女は家庭」のような考え方は社会に根強く残っています。「職場では、子育て中の女性への配慮はありますが、子どものいる男性は仕事をして当然と思われています」。男性はこう話します。「夫側へも子育ての配慮がなければ、女性が多い子育て社会にはなじめない。これでは、シングルファザーは孤立します」

父母も介護、きょうだいには頼れず

頼れる親族はいませんでした。むしろ、ケアが必要な状況でした。

妻が亡くなった当時、父親は脳卒中の後遺症で入院中でした。

同居していた母親は、要介護認定こそ受けていなかったものの、昼夜逆転の生活が続いていました。料理を任せれば毎回のように鍋を焦がすため、食事は男性が用意していました。日中、起きている時はテレビをみて過ごしているようでした。男性が帰宅すると、介護用のおむつが散乱した状態でした。5年ほど前に、要介護認定を受けました。介護保険サービスを使って自宅で生活していましたが、数年前から高齢者施設で暮らしています。

2人のきょうだいがいます。しかし、仕事に就いていなかったり、仕事で海外赴任をしたりしていて、頼れる状況ではありませんでした。

こうした医療や介護の負担が重くのしかかりました。月に20万円近くを支払う時期もありました。父母の年金だけではやりくりできず、男性が同居する母親の生活費を工面しました。

ひとり親を経済的に支える制度としては、遺族年金があります。ただ、妻を亡くした夫が支給対象となったのは、2014年。男性の妻はそれ以前に亡くなっていて、対象とはなりませんでした。

きょうだいには頼れず、子育てと介護の「ダブルケア」を一人で背負った男性(写真はイメージです)=PIXTA
きょうだいには頼れず、子育てと介護の「ダブルケア」を一人で背負った男性(写真はイメージです)=PIXTA

地域活動関わった理由は……

男性は、学校のPTAや学童保育、自治会が行う「子ども会」にも携わっていました。学童はNPO法人の運営で保護者が携わっていました。役員が回ってきた時は深夜まで打ち合わせをすることがありました。

「ダブルケア」と仕事で手いっぱいの男性は、なぜ地域活動にも関わったのでしょうか。

「小さい町です。何かと関係を断つと悪影響がでると思いました」

男性の予感は的中します。体力的にも、時間的にも限界。地域活動のひとつである子ども会の役員は受けられないと伝えました。子ども会は土日にイベントをしていましたが、男性の家族は3人で出かけていたため、そもそも参加していませんでした。

ところが、別の親から「ずるい」と言われました。今度は、メンバーの重なるPTAのイベントで子どもがジュースをもらえないことがありました。「本当は任意なのに、暗黙の全員参加なんです。子ども会の退会について、別組織でメンバーの重なるPTAで『報復』した。陰湿です」

男性が自家用車を買い替えた時は、「よくお金があるわね」と言われることもありました。「これだけ無理をして生活していて、『ずるい』と言われることに、悔しい気持ちでした」。男性は、地域の目にうんざりしています。

子どもたちの成長が支え

「幸いなことに、子どもたちは元気に育ってくれました」。長男は勉強に水泳にと励み、小さい頃にドラムを始めた次男の腕前は、大人顔負けだそうです。「子どもたちの成長が支えです」

妻が元気なときは2人で晩酌を楽しみました。闘病中は「治ったら一緒に飲もう」とともに禁酒。以来10年、一滴のお酒も飲んでいません。

父親のモヤモヤ、お寄せください

記事に関する感想をお寄せください。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして、政府が小中高校や特別支援学校の休校を要請しました。ネット上では、判断の是非だけでなく、しわ寄せが「母親」に集中しているとの批判もみられました。一方、こうした状況について、子育てに深く関わる父親はどう感じたのでしょうか。ご意見を募ります。

いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。

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