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中国、一斉休校でメガヒットしたアプリ「釘釘」BAT勢力図、揺さぶる
新型コロナウイルスの影響で、中国では学校が休校し、企業でもリモートワークが推奨されています。リモートワークとオンライン授業は、中国のIT業界の勢力図にも影響を与えています。最近、中国のSNSで「釘釘(ディンディン)」というアプリが話題になりました。中国版LINEの「微信(WeChat=ウィーチャット)」に迫る勢いの「釘釘」。いったい何が起きているのでしょうか?
3月10日に、中国版ツイッターの微博では、「釘釘崩了(釘釘が崩壊した)」がホットな話題としてランクインし、3.4億のビューと6.9万のコメントが集めました。
「釘釘」はアリババ傘下の企業と学校向けの「ワークアプリ」ですが、機能の多くは「微信」と似ています。「釘釘」には、「微信」にはない「未読」「既読」の表示があります。
「釘釘」が存在感を出しているのは学校現場です。休校に合わせ、多くのオンライン授業が行われている中、「釘釘」を使う学校が増えているのです。
そして、コロナウイルスによって想像以上のアクセスが発生したため、サービスがダウンする事態になり、SNSで話題になりました。
「ライブ授業が受けられなくなりました」
「スクリーンが真っ黒です」
「先生が消えた…」
などの意見が多数寄せられ、「微博」にある「釘釘オフィシャルアカウント」も、「かなりがんばてきましたが、結局、こんなところででつまずいてしました。予想外です」とメッセージを投稿しました。
そしてネット上では「釘釘が崩壊した」というトピックがたちまちホットな話題にランクインしました。
「釘釘が崩壊した」という情報を受けて、学生たちからは喜びの声が起きました。
「崩壊した。やっと崩壊した!」
「急がないでね、修復はゆっくりでいいです。プログラマーにプレッシャーを与えないで」
「ゆっくり修復してね。修復も段階的にやればいいですね。もし修復できなければ、五つ星をあげる」
「われわれは急いでいないので、ゆっくり修復してくださいね…」
「釘釘」が使えない間は、勉強をしなくていい理由になるため、「修復してほしくない」という本音が次々と投稿されたのです。
また、アリババへの辛口なコメントも。
「独身の日(ダブル11)のプレッシャーにも完璧に対応してきたアリババのクラウド、学生の力には及びませんでした。」
「釘釘は自分の最大の敵はテンセントだと思ったが、結局小中学生たちだった」
中国の学生たちにとっては、休校でも「釘釘のせいで授業を受けさせられた」という気持ちがあふれ、アプリストアのランキングに、最低評価の「一つ星」を連打した、というエピソードも伝えられています。
中国では、百度(Baidu=バイドゥ)、阿里巴巴(Alibaba=アリババ)、騰訊(Tencent=テンセント)がBATと呼ばれる巨大IT企業として知られています。
その中で、騰訊が運営する中国版「微信」が圧倒的な存在感を持ち、利用者数は11億人を超えていると言われています。
新型コロナウイルスの影響を受け、中国の調査会社「艾媒諮詢」(アイメイ=iiMedia Research)が報告書『2020年中国新春遠隔勤務業界ホットトピック報告』をまとめました。報告書によると、中国全土で1800万社以上、3億人以上がリモートワークをしている、また2020年のリモートワーク市場は375億元(約6375億円)規模に達すると分析。IT業界としても、リモートワークとオンライン授業が新しいビジネスチャンスとして注目されています。
そんな中、中国IT企業は次々のリモートワーク関連のアプリ(グループウエアやビデオ会議ソリューション)を展開しています。
「騰訊」は新たに「企業微信」(ワーク・ウィーチャット)を開発。TikTokの運営会社であるバイトダンスは「飛書(Feishu=フェイスウ)」、華為技術(ファーウェイ)は「WeLink」(ウィーリンク)をリリースしています。
特に注目されているのが、「釘釘」です。「釘釘」は、コロナウイルス前から政府部門や、企業、学校に営業を重ね、認知度を上げてきたました。アリババの本社がある浙江省では、数年前から、学校などで「釘釘」が使われていました。
実は、「釘釘」は日本でも使われています。
東京にある日本語学校「COSMO学園」は「釘釘」を使い、リモート教育を始めました。微博では「釘釘火到日本了」(釘釘は日本でもブーム)という話題が、3000万を超えるビューと10000近くのコメントが集めました。
「釘釘火到日本了」は、日中両国の学生たちがオンライン授業を受けないといけない「同じ運命」を感嘆する意味が込められています。中国のSNSではさっそく「山川異域、風月同『釘』」、「豈曰無課、与子同『釘』」など、「暮らしている場所が違うが、同じ『釘釘』を使っている」「肩を並べて一緒に『釘釘』と戦っている」という意味の漢詩が投稿されました。これらの「元ネタ」は、日本から中国へ送った救援物資に書かれた漢詩です。
学生が「望んで」いた「釘釘」の不調ですが、3月10日のお昼頃、オフィシャルアカウントが「満血復活」と宣言。コメント欄には、「早すぎる」「涙」「やはり一つ星だ」などの悲鳴が上がりました。
一方、3月11日午前、「釘釘がまた崩壊した」というニュースが流れるなど、今も安定はしていないようです。
在宅勤務なども増える中、巨大なデータを扱う現在の状況を乗り越えられた時、「釘釘」のさらなる成長が望めそうです。14日に、新型コロナウイルスをめぐって、UNESCOが世界各国にオンライン授業を呼びかけ、そして推薦したアプリに「釘釘」が首位になっていることから、「釘釘」はさらに注目が集まっています。巨大ソーシャルメディア「微信」への挑戦と、中国のIT業界勢力図の変化は、一斉休校がきっかけで動きつつあります。
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