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「ながらゲーム」の究極、スマホのRPG「中の人」が考える未来
スーパーファミコンやプレイステーションなど家庭用ゲーム機で数々の名作を生んだRPGは、スマートフォンのゲームでも人気のジャンルです。スマホでのヒット作も生まれる中、ゲームを作る側の人たちは、どのような未来を描いているのでしょう? このほど開かれた、国内のトップメーカーのゲームディレクター4人が集まる座談会では、定額課金の将来や、「ながらゲーム」の可能性について語りました。(砂流恵介)
2月6日、「ディレクター座談会 ~スマートフォンRPGのNEXTとは~ 」が都内で開かれました。
登壇者は、株式会社セガ・インタラクティブチーフディレクターの松永純さん。株式会社アカツキモバイルゲーム事業部ディレクターの仲田理樹さん。ミスリル株式会社ディレクターの岩間裕和さん。モデレーターは、ミスリル株式会社代表取締役CEOの孟山嘉起さんです。
孟山さん(以下、敬称略):まずはこのテーマから。「スマートフォンRPGの「現状」や「今」についてどのように考えていますか?」。これは非常に難しいテーマだなと思います。新作ゲームが残らなくなってきましたよね。1カ月目、2カ月目はわりとセールスランキングが高いけれども、3カ月目くらいから一気に下がっていくタイトルをこの数年多く見るようになったなと思います。
松永:残らないですよね。新作が本当に……。
岩間:新作ゲームをつくるときに、5年運用しているゲームと比較されると「いやいや、そんなに工数かけられないよ」みたいな話によくなります。
松永:長期間運営しているタイトルはとんでもない工数をかけていますからね。
岩間:あと、IP以外のオリジナルコンテンツのRPGはだいぶ苦戦していますよね。単純に見た目のクオリティーだけじゃ差別化できなくなって、オリジナルコンテンツのRPGが大変な状況である、というのが現状かなと。
松永:ユーザーにとってのファーストゲームにならないと生き残れなくなってきたなと思います。最近は、「ゲームサイクルでキープする」「まったく新しいゲーム体験」の2択なのかな、と考えているんです。
松永:『荒野行動』などのバトルロイヤルゲームは、既存のゲームサイクルをぶち壊しているじゃないですか。そもそも課金構造でもないし。バトルロイヤルゲームのヒットでもう1回、スマホゲームについて勉強し直すみたいな感じになったと思うんですよね。あそこまでゲーム体験にオリジナリティーがあると、実はゲームサイクルは関係ないのかなとか。とはいえ、それもすぐフォーマットになっていく時代ですけどね。
松永:ちょっとテーマが変わっちゃうんですけど、皆さんは新しいゲームとか、ランキング上位のゲームサイクルは全部把握されています? 例えば、『荒野行動』のゲームサイクルってどういうふうに完成しているんだろうとか。
仲田:僕はスマホゲームは基本把握しています。日本と中国と韓国と北米のトップ100のゲームを常にやり続ける、というのを3、4年やっています。
岩間:僕は聞くことが多いですね。一つのゲームのボリューム感が半端ないので、全て同時にやり込むところまではいけないので、一通りやって、あとは詳しい人間に聞いてインプットしています。
孟山:では、次のテーマです。「コンソールRPG(家庭用ゲーム機で発売されているRPG)とスマートフォンRPGで求められるモノやコトの差異はあると思いますか」です。もちろんたくさんの差異はあるのですが、具体的にどの部分というのがあればうかがいたいと思います。
松永:スマートフォンRPGはコンソールRPGと比べてプレー時間が圧倒的に長いので、それに耐えられないといけない、というのがあります。あと、感動をさせるという部分だと、スマートフォンはファーストタッチのタイミング、最初に感動がないとダメで、極端な話、1分くらいでお客さんをつかまないといけないけど、コンソールRPGは10時間くらいプレーしたところで感動させればいいんじゃない、みたいな感じでつくられているところもあります。なので、構造が正反対の部分が多いな、という感じでしょうか。
松永:なんですけど、個人的にはもっと融和してほしいなと思っています。スマートフォンRPGももっと深いところに感動があってもいいし、コンソールRPGにも利便性欲しいよね、と。この後に、プラットフォームの差がなくなっていって全部がつながるような未来があるんだとすると、この差がどういうふうに埋まっていくかには興味があります。
孟山:物理ボタンとタッチパネルの違いといったハードの差という点ではどうでしょうか。
松永:『beatmania』という音ゲーがありますが、音ゲーというジャンルがはやりだした頃ってユーザーは全員「ボタンじゃないとダメだ」と言っていたんですけど、あるときから音ゲーはタッチパネルになっているんです。もうタッチパネルでのプレーが当たり前になっていますが、それはそれで気持ちいいんですよね。
僕は両方触っていて、ボタンのほうが気持ちいいって思いますけど、没入していたらボタンかタッチパネルかだったり、画面の大きさだったりの差は埋まり得るのかなと思います。
仲田:なるほど。
岩間:タッチパネルに最適化したようなゲーム性であれば、没入感は生まれますよね。スマートフォンでもめちゃめちゃ熱中するときはありますし。あとは、世代なのかもしれないですけど、自分はスマートフォンでバトルロイヤルゲームを遊ぶ子はすごいなと思っちゃうんですけど、今の若い子だったらコントローラーよりタッチパネルのほうが操作しやすいみたいなのもあるのかなと。どうなんですかね?
松永:コントローラーを触ったことない人が多いですよね(笑)。この前、子どもに「スティックって何?」って言われて、「スティックっていうのは棒があってさ」「なんで棒が必要なの? せめて十字キーで良くない?」みたいな話をしたんですけど、それもそうだな、と。
岩間:デバイスの差というよりも、どういう空間でプレーするかの差かもな、と思っています。ベッドでゴロンとなってスマートフォンでゲームを遊んでいるときに、すごい集中していて気づいたら5時間経っていた、みたいなことがけっこうあるんです。なので、隙間時間にやる体験性のゲームか、家でがっつりやる体験性のゲームか、という感じかもしれないですね。
孟山:ハードウェアの差というもの以上に、ユーザーが没入を求めてスマホでゲームしているかどうか、みたいなユーザーの意識というのはあるかもしれないですね。
孟山:では最後に、今日の本題のままなのですが「スマートフォンRPGのNEXTとは」。というところで、岩間さんいかがでしょうか。
岩間:もうすでに遊んでいるゲームだったり、コミュニケーションツールがいろいろ忙しかったりとかするので、ながらでできるものがより増えてくるんじゃないかと思います。ながらとか、放置はすでにきていますけど、動画を見ながら同時にプレーするゲーム、みたいなのはあるかもなと。
仲田:ながらは本当にあると思います。
松永:僕は今の日本のスマートフォンRPGは、あまりにもガチャ文化が根付いていて、業界の中からNEXTをつくる、文化レベルで変わるものをつくるのはかなり難易度が高いと思っています。そういう意味では、動画のプラットフォームとか、ほかのプラットフォームとか、隣接している文化との融和で大きく変わるのかなと。
松永:それに、スマートフォン単体でできることってけっこうやりきったと思うんですよ。次は、ハードの進化というか、スマートフォンの使い方自体が変わるタイミングで大きく動くんでしょうね。
孟山:テクノロジーとか、ビジネスモデルの変化とかで変わる。
松永:そうですね。だから、新しい技術がスマートフォンと関わってきたときに何ができるかを考えていくことがすごく大事なんだろうなと思います。
仲田:そうですね。今来るかはわからないけど、いつか来るという心持ちでいるのは大事ですよね。
松永:あとは、技術に関係なくユーザーのスマートフォンの使い方が変わったりするとそこにチャンスはあるかなと思います。若い人とかのそういう変化って何かあります?
孟山:若い子はボイチャをすごく使っていますね。Nintendo Switchで『フォートナイト』を遊んでいたら、ボイチャ越しに小学生がおかんに怒られているのが聞こえるんです。めっちゃ怒られてるやん、って思ったんですけど、小学生はそれに抵抗がないんだなという。僕らの世代だと、そういうの聞かれるのはめちゃくちゃ嫌じゃないですか。でも、それを平気で流している子たちにニュージェネレーションを感じました。
孟山:あとビジネスモデルとしては、去年流行語にもなりましたけど、サブスクという定額課金がかなり根付いてきているかなと思っているんですけど、例えばサブスクがスマートフォンのゲームにも影響をおよぼすかどうかについてはどうでしょうか?
岩間:Apple Arcadeとか。
孟山:そうですね。
松永:サブスクは、正直わからないんですよね。というか、触ってみて、まだ来ないなと思ったので、いったんそっと置いたんです。可能性はあるとは思うんですけど、どうかなと。
岩間:フリー・トゥ・プレー(基本プレー無料)ではなくなるので、コンソールRPGとかの文脈に近い感じなのかなとか。とはいえ、最初のつかみがだいぶ必要なんでしょうけど。
松永:日本人に多いのかなと思うんですけど、コンテンツを応援する気持ち、みたいなのあるじゃないですか。いろいろなものが遊びたいというよりは、自分の気に入ったものを探したい、そこに対してお金を払っていきたい、というようなコンテンツの楽しみ方。それと、サブスクは少し方向が違うのかなと思うので、だからこそ、サブスクがどう動いていくかは興味深いです。
岩間:マーケットの全体に対してのサブスクじゃなくて、オンラインサロンとか、有料チャンネルみたいな、特定のディベロッパーとか個人のクリエーターの人に向けたサブスクのほうがほうがしっくりはきますね。
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