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日常で語られぬ生理「なぜタブーなのか」 男性映画監督が出した答え

映画の一場面。朴さんのインタビューに答える女性(朴さん提供)
映画の一場面。朴さんのインタビューに答える女性(朴さん提供)

目次

「生理とは何か」「なぜオープンに語られないのか」。そんな疑問を抱いた男性が、一本のドキュメンタリー映画を完成させました。制作したのは、兵庫県在住の朴基浩(パク・キホ)さん(32)。撮影では「あなたにとって生理とは」「なぜ隠すのか」と女性たちに問い続けました。取材を進めるにつれ、男性中心の社会が背景にあることを感じ、「自分の男性性に嫌悪感を抱いた」という朴さんに、作品について聞きました。

日常で語られぬ生理

映画のタイトルは『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』。約60分のドキュメンタリー映画です。女子大生、ピルの服用者、セックスワーカー、病気で子宮を摘出した女性、閉経した女性など様々な背景を持つ15人が登場します。彼女たちの多くもまた、生理について日常では語らず、パートナーにも経血量や体調の変化など詳しい情報は伝えていませんでした。

彼女たちの言葉に耳を傾けた朴さんは、ある一つの考えにたどり着きます。男性中心の社会が生理に対し、勝手に性的なイメージを膨らませ、「語りづらさ」を生み出してきたのではないかと。

取材に答える朴基浩さん
取材に答える朴基浩さん

母や姉が言う「アレ」とは? 疑問だった幼少期

――制作のきっかけは

生理は、僕にとって、ずっとわからないものだったんです。性に対してオープンな家庭で育ちました。それでも家族で銭湯に行くとき、母や姉が「きょうは『アレ』やから」と断ることがありました。「アレ」って何だろうと、子どものときは疑問でした。

「女の子の日」などと表現されることもありますが、「生理」や「月経」との言葉さえ恥ずかしくて口にできない空気が日本にはあります。男女の間だけでなく、女性同士、家族、職場などでも話題にしづらい。その空気がどこから生まれてきているのか。生理は女性にとって何なのか、ずっと知りたかった。

また、僕は自分の国籍のこともあって、人と人の間にある「隔たり」に強い関心を持っています。生理も意識の隔たりがあり、男と女の間に壁をつくっています。

今までこの話は封印していたのですが、僕が19歳のとき、外国から来られていた女性に性行為を無理やり求められたんです。その方が生理中でした。「生理中は心身ともにしんどいから、性欲がなくなる」とのイメージがあったので、僕は混乱しました。また、無理やりだったから、とても嫌だったけど、僕の体も反応してしまった。

一方で、この体験を同性である男性に話すと「本当はまぁいっかと思っていたんでしょ」と言われて、何でそういうとらえ方になるんだろうと。この体験が、ずっと心の中にひっかかっていて、折り合いをつけるためにも、今回カメラを手にしました。

映画の一場面。生理について会話する女性たち(朴さん提供)
映画の一場面。生理について会話する女性たち(朴さん提供)

取材で語られた「半分家政婦 半分風俗嬢」

――撮影前に生理の疑似体験もしたそうですが

トマトジュースを、量を変えながらナプキンに垂らして、7日間生活しました。数時間ごとにナプキンを替えました。ごわごわして不快。しかも、替えるのが面倒くさい。これに、腹痛のような痛みや、精神的な不調も加わるとなると、男性が想像できないほど大変だろうなと感じました。

――「どうして隠すのですか」とインタビューで聞いたとき、女性たちの反応は?

「確かに……」と言いよどんで考え込む人が多かったです。僕に問われるまで考えたこともなかったと言うんです。生理について語らないのが当然という意識が、女性たちの中にもあると思います。

ある女性にはっきり言われたのは「男性に言ってもわからないし、わかってほしいとも思っていない。男性に期待していないから」とのこと。根深いですよね。生理のしんどさについて、男性にはわかってもらえるとさえ思われていないのですから。

――取材の中で印象に残った言葉はありますか

セックスワーカーの女性が発した「半分家政婦 半分風俗嬢」との言葉です。男性にとっての「都合のいい女性観」を象徴した表現だと受け止めました。家事洗濯といった身のまわりの世話をしてくれ、好きなときにセックスをさせてくれる女性を望むのであれば、生理は男性にとって不都合ですから。

こうした見方に全面的に賛同しているわけではないけど、ある程度は認めざるえないところがあると思いました。僕の中にもそういう面がある。そう思うと、自分の男性性が嫌になってしまった。実は撮影中、そうした嫌悪感から、性欲がなくなりました。こうした僕の反応も、非常に男性中心的なものだとは思います。

映画の一場面。生理の症状が重くて悩む妻と、その夫(朴さん提供)
映画の一場面。生理の症状が重くて悩む妻と、その夫(朴さん提供)

背景に男性中心の社会

――映画では、生理と性が密接に結びついてしまっていることも指摘しています。

生理についてきちんと理解しないまま、歪曲された性的なイメージに結びつけてしまっていると思います。たとえば、生理不順の治療のためにピルを服用しているにもかかわらず、知識不足から「セックス好きの女性」とレッテルを貼る人たちがいる。その根底には、女性が性に自由で奔放だと困るという男性側の都合が隠されている。セックスの主導権は男性がとるべきであり、女性は受け身であるべきという思い込みを、男性の多くは持っているし、女性も無意識にあるような気がします。

生理は結局、出産のための準備です。それ以上でもそれ以下でもない。生理をオープンにすることと、性的嗜好について語ることはまったく別のことです。

そもそも女性の性器にかかわることがすべてタブー視されている。男性の性器には「おちんちん」と人前でも口に出せる呼び名があるけど、女性には該当する言葉がありません。

――生理の語りづらさに、男性中心の社会が背景にあると指摘しています。どういうことですか。

今の社会は男性が中心になってつくりあげたものです。だから、女性の性をコントロールすることが重要になっているのではないでしょうか。

セックスワーカーの言葉にもありましたが、身のまわりのお世話をしてくれて、セックスもさせてくれる存在として女性を見れば、男性側は生理を詳しく知る必要はありません。また、男性がセックスの主導権を握るためにも、女性が生理や性について語ることに恥じらいを持ってもらったほうが何かと都合がいい。

男性が関心を持たないから、女性側としても「どうせ男性には、わかってもらえない」とあきらめてしまっている面があると思います。

――生理がタブー視されることの歴史的背景として、平安時代に生理を「恐れ」「けがれ」と認識する「月経禁忌(きんき)」があるとされています。今回の映画ではこういった視点はありませんでした。

もちろん知っていました。メディアの報道では、そうした面を強調するでしょうね。でも、私はあえて触れませんでした。今、目の前にいる女性たちの言葉を紡ぐことで見えてくるものを描きたいと思いました。

映画の一場面。朴さんが重ねて取材した女性(朴さん提供)
映画の一場面。朴さんが重ねて取材した女性(朴さん提供)

女性との「隔たり」 小さくするために

――男性側も女性の生理を知るべきだということでしょうか

パートナーと楽しい時間を過ごすには、生理について知っておいて損はないと思います。

まずは、パートナーの生理日を知って「きょうは生理だから優しくしよう」というところから始めればよいかと思います。さらに一歩進んで、「生理中はイライラする」といった漠然としたイメージで判断するのではなく、「体調・心理の両面でどういった変化があるのか」をパートナーに尋ね、知っておくとよい。生理がもたらす症状は、個人差が非常に大きいものですから。

パートナーにどう聞くかは互いの関係性次第だとは思いますが、もし可能なら「僕が君の生理について知っておいたほうがいいことはある?」「きょうは君は生理でつらいんだね。何かできることはない?」と尋ねたらどうでしょうか。何となく「機嫌が悪そうだな」と空気を読むだけでなく、具体的なコミュニケーションをとれるようになれば、よりよい関係が築けると思います。

――生理について、オープンに語れる社会になったほうがよいと考えますか

誰もがオープンに語るべきだとは思っていません。「恥ずかしい」「隠したい」との思いは尊重すべきです。ナプキンのテレビCMでも、爽快さを強調していますが、そういった明るい表現やイメージを好む女性もいますから。そうした思いは否定していません。

ただし、オープンにできる選択肢は大事です。語りたい人が何の気兼ねもなく、語れる社会です。そういう意味で言えば、最近の生理ムーブメントはよいと思っています。タンポン、月経カップといった選択肢も増えていくことが大切です。

生理を深く知ることで、私も周囲の女性たちと気軽に語れるようになりました。女性との間にあった「隔たり」が小さくなって楽しいし、「女はわからん」みたいな思いがなくなることにつながると思います。

上映依頼受け付け中

ドキュメンタリー映画『LOOKING FOR THAT-アレを探して-』の上映依頼を受け付けている。また、次回作のテーマ「包茎とビジネス」に取材協力者も募集している。問い合わせ・申し込みは、朴さん(@kihopa07)。

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