マンガ
夜泣きで徹夜、疲れ果てた母に「ちょっとあんた」子育てマンガに涙
大阪での出来事。「怒られる」と思ったその時――。
突然始まった1歳の娘の夜泣き。テレビでも音楽でも泣きやまず、抱いてあやすしか手立てががありません。ろくに眠れず徹夜が続いた3日目、すべてが嫌になり、娘と着の身着のまま散歩に出かけます。その姿に虐待を怪しまれないだろうかと不安になっていると、女性に「ちょっとあんた」と呼び止められます。「怒られる」と思ったその時、女性がかけた言葉とは――。育児のプレッシャーで、押しつぶされそうな母に起こった出来事を、描いた漫画が「泣ける」と話題です。
長女の夜泣きの思い出🧸🎀(1/2)#育児 #育児マンガ pic.twitter.com/MJCJIbDncG
— さざなみ (@3MshXcteuuT241U) February 26, 2020
漫画は「大阪に暮らしていた頃 長女が急に夜泣きするようになった」という書き出しから始まります。
寝てもすぐに起きてしまい、ひたすらに泣く娘。眠りはしなくても、抱き上げてゆらゆらすると泣きやむため、座ることも横になることもできません。
徹夜が続いた3日目、自分の中で何かが切れてしまいます。「何もかもいやになった」と、着の身着のまま娘を連れて早朝に散歩。朝日の中、会社や学校に向かう人々とすれ違いながら、行き着いたのは小さな喫茶店でした。
久しぶりに自分以外が作った朝ご飯を前にして、それをよく食べ、アイスティーも飲む娘に後ろめたさを感じます。タバコも吸えるお店で、子ども連れで入りやすいお店ではありません。
「こんなところに連れてきて… なんてひどい親だろう…」
なんと女性が呼びかけていたのは、我が娘でした。そんな口調から一転、母に目を向け「今の子はすぐ抱っこするんやろ? 昔はもっと泣かしとったんや」「この辺子ども多いはずやのに泣き声聞いたことないわ もっと窓開けて泣かして年寄りに声聞かせてやり!」と語りかけます。
帰りには店主のおじさんが持ち帰り弁当のチラシを手渡ししてくれました。漫画は「忘れられない大阪での思い出でした…」と締めくくられています。
ツイートは1.5万回以上のリツイート、6.8万件以上のいいねが集まっています。漫画に自身の子育て経験を重ねて「ボロボロ泣いています」「当時の気持ちが救われた」というコメントや、「お母さんと赤ちゃんにとって、もっともっと優しい社会でありますように」という願いが寄せられています。
この漫画はどんな思いを込めて描かれたのでしょうか。作者のさざなみさんに聞きました。
漫画のエピソードは、さざなみさんの娘が1歳だった頃のことです。パニックのように激しく泣く娘に戸惑い、ネットや育児書で原因を調べる日々。「昨日寝てないからさすがに今日は寝るだろう、という期待が裏切られつづけて疲れていました」と、さざなみさんは振り返ります。
「子どもは日中も機嫌が悪く、離れると大声で泣くのでほぼ一日中抱っこしていました。いつまでそのような状態が続くのか、先行きが見えないのが不安でした」
不機嫌な子どもとふたり、散らかった部屋……何もかもに嫌気がさして出かけた散歩は、「誰に対する抗議というわけではありませんが、家出のような気分だったのかもしれません」といいます。
一方で、出かけたものの目的地はありませんでした。朝の人の流れから逃れた先に、喫茶店を見つけました。「徹夜が続いていて、ずっと気を張りつめて頑張っていて……。いい加減何かの形で報われてもいいはずだろうと考えたのかもしれません」
実は、子どもが産まれてから、一度も外食したことが無かったというさざなみさん。初めての育児で、「完璧に子育てしたい、できるはず」という理想と、うまくいかない現実の狭間で苦しんでいました。
「美味しくモーニングを食べ終わってお腹は満ち足りていましたが、心は思い切りやけ食いをしてしまったあとのように、後ろ暗さがありました」
心の中から消えないのが、周囲の目線。喫茶店でも、店主や他のお客さんの目から「自分と子どもがどう見られているか」という不安が止まりません。
「平日の朝からのんきだな、いい身分だな、朝ご飯くらい家で作ればいいのに、堕落してるな、などという感想がいくらでも想像できて、実際にそのような目で見られたわけでもないのに勝手に肩身を狭くしていました」
「何より、あんな親で子どもが可哀想、と思われるのが一番耐えられませんでした。育児中で仕事をしていなかったので、自分の存在意義は子どもだけだと感じていたのです」
実際に他人から注意を受けた経験は一度もないとしつつも、「常に自分の心の中には厳しい批判の目があった」といいます。
そんなとき、喫茶店で女性に声をかけられました。それも、自分ではなく我が子へ。意外な女性の行動が、さざなみさんの心に大きく響きました。
「子どもをひとりの人間として尊重し、理解できると考えたからこその行動だと思います。我が子を一人前に扱ってくれたということがまず嬉しかったです。掛けた言葉も『お母さんを困らせてはいけない』と間接的に私を労ってくれる内容で嬉しかったです」
そして夜泣きで徹夜が続く、出口が見えない生活の中で「泣かせてもいい」という言葉にも励まされたといいます。「泣いている子を見てすぐに親を責める人ばかりではない」ということが、さざなみさんにとってとても新鮮に感じられました。
当時暮らしていた大阪の土地柄にも、「誰かを孤立させない」ヒントがありました。他の場所に比べて、他人に話し掛けるハードルが低い気がするというさざなみさん。スーパーや電車で自然と始まる世間話。「そのどれもが、その場の気持ちを分け合う、とても気持ちの良い関わりだった」と振り返ります。
「皆が皆大阪のおじちゃんおばちゃんみたいにはなかなかなれないかもしれませんが、そんな風にできたら、もっと色んな人にとって優しい世の中になるかもしれません。私自身、誰かが行き詰まった状態にあるときに、軽やかに声を掛けられる人間でありたいと思っています」
さざなみさんの漫画は拡散され、「涙が出た」「昨日の夜コレでした」と、自分の経験を重ねて共感するコメントが集まっています。また、そういったコメントにもたくさんの「いいね」が寄せられています。
「なんだか、コメント欄がとても優しい空間になっているのが嬉しいです。私にとっての個人的な体験を描いたものですが、コメントをくださった方の中には今まさに寝ない子と格闘中という方もあれば、昔経験した大変さや孤独感をまざまざと思い出したという方もいて、育児の悩みというものは本当に普遍的で解決のないものなのだなと感じました」
実は、さざなみさんが今回のマンガを描くきっかけになったのは、次女が当時の長女と同じように夜泣きをし始めたことでした。「長女のときの苦労を再体験することで当時の記憶が鮮やかに戻り、人に優しくされて嬉しかった出来事を形に残したいと思いました」。そんな思いが伝播して、さざなみさんの漫画が読者の気持ちを楽にしてくれていることが、コメントを読んでいても伝わってきます。
「コメント欄に、育児とは関係のない世代の方も書き込んでくださっているように、『自分もこんな風に誰かが大変な思いをして育ててもらったんだ』という発見や『しんどいときに他人から声を掛けてもらってすごく救われることがある』という発見は、世の中全体を優しくしてくれる気がします」
「そういう意味で、このマンガを描いて良かったと思いますし、今子育てに関わっていない方にも読んでもらえたら嬉しく思います」
続きです(2/2)#育児 #育児マンガ pic.twitter.com/ibBEB80QUd
— さざなみ (@3MshXcteuuT241U) February 26, 2020
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