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#11 #カミサマに満ちたセカイ

「服の選び方わからない」カルト信者の生きづらさは「異常」ですか?

「対岸の火事」で済ませてよいのでしょうか?

幼い頃、親からカルト宗教のメンバーにされた「2世信者」たち。その生きづらさの根源を見据えると、普遍的な問題が浮かび上がります(画像はイメージ)
幼い頃、親からカルト宗教のメンバーにされた「2世信者」たち。その生きづらさの根源を見据えると、普遍的な問題が浮かび上がります(画像はイメージ) 出典: PIXTA

目次

「カルト」という言葉から、どんな印象を受けるでしょうか? 異常な価値観に支配された、危険なグループ……。そういったイメージを抱くかもしれません。しかし私は、元信者たちの取材を続けるうちに、むしろ「ごく普通の人々の集まり」と思うようになりました。彼ら・彼女らの歩みを振り返りながら、決して人ごとではない、カルトがはらむ根深い問題について考えます。(withnews編集部・神戸郁人)

実は日常と地続きの問題ではないか

「#カミサマに満ちたセカイ」という連載を始めてから、2カ月ほどが経ちました。この企画のテーマは、その名が示す通り「宗教」です。特に「何者かにすがりたい」と思う気持ちの出どころを探してみよう、という気持ちで取り組んでいます。

中でもカルト宗教は、自分にとって、最も縁遠い世界の一つ。そのただ中で生きている人々の思いを知りたいという、ある種の好奇心に突き動かされた、というのが正直なところかもしれません。

元信者とのやり取りから気付いたのは、「カルトをめぐる様々な課題が、私たちが営んでいる日常生活と地続きである」という事実です。
カミサマに満ちたセカイ

「何のために生きる?」に対する回答

カルト集団と聞いて、地下鉄サリン事件(1995年)を起こした「オウム真理教」を思い浮かべる人もいるかもしれません。

公安調査庁によると、化学物質のサリンによって13人が亡くなり、負傷者は5800人以上に上りました。事件に関わったメンバーの中には、有名大学で学んだ後に入信した、という人が少なくありません。

真面目で賢く、社会的地位も得ながら、前例がないような大事件を起こす--。こうした事実は、社会に衝撃をもって受け止められました。教団関係者を取材してきたジャーナリストの江川紹子さんは、背景について次のようにつづっています。

彼らは、教祖の麻原彰晃こと松本智津夫(記者註:2018年に死刑執行)のどこに魅力を感じたのだろうか。私は、一時期それを信者や元信者に聞いて回ったが、圧倒的に多かったのは、「どんな疑問にも、たちどころに答えを出してくれる」というものだった。

とりわけ、生きがいや生きる意味などのように、容易に答えが見つからない問題について、麻原はすぐさま答えを出してみせた。それは、「オウムで修行すれば、解脱悟りに至る」「オウムの人類救済活動の手伝いをすることこそ、生きる道だ」といった、私から見ればワンパターンに終始するのだが、確信に満ちた物言いと自信たっぷりの態度は、悩みの中にいる者にとっては、力強く、信頼ができるものに感じられたようだ。
彼はどのようにして地下鉄サリンの実行犯になったか

「私は何のために生きているのか」。誰しもが一度は抱くであろう、根源的な問いに対し、明確な回答を与えてくれる。悩みのるつぼに投げ込まれたとき、そんな存在がいてくれれば、どれだけ心強いか。

こうした信者たちの胸の内は、私が話を聞いてきた人々の声と共通しています。

地下鉄サリン事件で、営団地下鉄霞が関駅構内の毒ガス除去作業を終えて、構内から出る消防庁化学機動中隊=1995年3月20日撮影
地下鉄サリン事件で、営団地下鉄霞が関駅構内の毒ガス除去作業を終えて、構内から出る消防庁化学機動中隊=1995年3月20日撮影 出典: 朝日新聞

「寄る辺無さ」の中に滑り込んでくる

「2世信者」と呼ばれる人々は、自分の意思で入信した親(=1世信者)から、信仰を引き継いでいます。物心ついた頃から、教義に基づいて生きるよう求められてきた、というケースが少なくありません。

キリスト教系の教団「エホバの証人」(JW)の元2世信者の女性は、母親から組織に入るよう促されました。信心深さゆえに、その教育方針は厳しかったそうです。学生時代は部活動を禁じられ、友人が住む地域で「伝道」することもしばしばだったといいます。

自由を縛られる日々を越え、子どもを授かった女性。親の立場になってみて、母の気持ちにも理解できる部分がある、と思うようになったそうです。遠方から嫁ぎ、頼れる友人もいない。そうした中で、自分と自分のきょうだいを育ててきた母親の過去を踏まえ、こう語っています。

「従来の生き方を、唯一肯定してくれるものが、宗教だったのかもしれない」

日々の苦悩を忘れさせてくれる、より大きな「何か」にもたれ掛かりたい。いわば「寄る辺無さ」に駆られたとき、心の奥底に滑り込んでくるものこそがカルトなのかもしれない。私は当事者の話を聞くうち、そんな思いを強めていきました。

終わらない育児、頼れる友人の不足……。女性の母親は孤独を抱えた末、カルト宗教に引き寄せられていった(画像はイメージ)
終わらない育児、頼れる友人の不足……。女性の母親は孤独を抱えた末、カルト宗教に引き寄せられていった(画像はイメージ) 出典: PIXTA

困難の大きさに立ちすくんだ

一方で、女性のように自我を抑え込まれた結果、精神の安定を欠いてしまう2世信者が少なくない、という現実は見逃せません。

臨床心理士の鈴木文月さんは、カルト脱会者が、以下のような心理的課題を抱えうると明らかにしています。

(1)抑うつ・不安傾向
(2)自信喪失
(3)自責・後悔
(4)社会化・親密化困難
(5)家族関係不和
(6)フローティング(記者註:何らかのきっかけで信者時代の気持ちに戻ること)
(7)異性との接触恐怖
(8)情緒的不安定
(9)心身症的傾向
(10)隠匿傾向
(11)教団に対する怒り
カルト問題のフロンティア 2 カルトからの回復 ― 心のレジリアンス(北海道大学出版会)

実際、私が関わった元2世信者たちも、一度は心の平穏さを失ったという人が大半でした。

「組織の集会に行く際、信者である親に服装を決められていたので、服の選び方がわからない」

「どれだけよいことをしても、『全て神様のおかげ』と言われ続けてきた結果、自分を認められなくなった」

こうした経験から、統合失調症や双極性障害を患い、苦しみ続けているケースもあります。

肉親と信頼関係を築けず、一人の人間として、十分な愛情が受けられない。そのことが、人生にもたらす困難の大きさを知るにつけ、私は立ちすくまずにいられません。

肉親から愛情を注がれず、心に傷を負う2世信者は少なくない(画像はイメージ)
肉親から愛情を注がれず、心に傷を負う2世信者は少なくない(画像はイメージ) 出典: PIXTA

カルト問題が象徴する「生きづらさ」

当事者の中には、今も信仰を授けてきた親たちに対し、かみ切れぬ思いを抱えている人がいます。

「よかれと思って組織に引き入れた、という親の心遣いもわかる。だからこそ、責めきれない」。ある2世信者の発言は、善意がときに家族の形を崩してしまうことを、端的に示していると言えます。

そういった課題を、「対岸の火事」と片付けることができるでしょうか? わが子への過剰な期待が、「ボタンの掛け違い」につながってしまう。そんな状況は、いわゆる「毒親」問題とも重なるものです。

カルトの思想に絡め取られるきっかけは、暮らしの中に転がっています。人間関係の悪化や、仕事の不振。そういった出来事に「ままならなさ」を感じたとき、何者かに自分自身を委ねたいと考えてしまうことは、誰にでもあり得るのです。

現れ方こそ極端かもしれません。しかしカルトにまつわる様々な事柄は、現代に巣くう「生きづらさ」を象徴しているのではないでしょうか。その本質を見据えることには、大きな意味があると思っています。

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