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コロナウイルス「オンライン生活」の実態 移動制限下の中国
新型コロナウイルスの感染が拡大しているなか、中国政府は外出を控えるよう求めています。都市部では、エリアごとに、管理会社を通して住民の出入りを厳しくチェックしています。まるで「戦時体制」のような状況のなか、一般の人々の生活はどうなっているのでしょう? 自宅で過ごしている家族や友人の生活からは、今や日常生活に欠かせなくなったネットサービスの存在感が見えてきました。
人口14億の中国では、感染力が強い新型コロナウイルス拡大を防ぐために、人々を集まらせない対策を打ち出しています。そのため、中国の地方政府は、人々の移動管理を徹底しています。
都市部の場合、基本はコミュニティ(小区=ショオチウー)単位で管理されています。
「小区」は、日本の団地に似ていますが、不動産開発で出来上がった数棟のマンション周辺を一つの「小区」として、専門の会社(物業=ウーイェー)が管理しています。
上海や浙江省などでは、住民に、1家族に1枚の「通行証」を発行し、2日間ごとに1人だけ買い物などの外出を許可しています。地元政府は体温を測定する温度計を、小区ごとに設置しています。
手続きや検温が面倒で、外出したくない人が頼っているのがネットサービスです。
ネット通販が発達している中国では、家電製品、日用品のほかに、生鮮食品も普通に運送されています。
大手プラットフォームの「京東」(ジンドン)と「天猫」(T-Mall)のほか、出前が有名な「美団」(メイトゥアン)も生鮮食品を宅配しています。大手スーパーでも独自の宅配サービスを提供しているところは少なくありません。
上海の外資系企業に勤務し、現在は「自宅隔離」の状態にあるジュリーさんは、「ネットの宅配サービスが非常に便利で、野菜も新鮮です。唯一の欠点と言えば、人気がありすぎて朝7時ぐらいに予約を入れないとだめなこと。注文する日には早起きしなければならない……」
同じ上海に住んでいる王さんによると、「ネットの宅配サービスはたしかに便利です。配達の枠の確保は一苦労しますが、家まで届いてくれるのが助かります。値段もそんなに変わらないです」
今回の感染拡大に、大きな影響を受けるのは学生たちです。武漢が封鎖された後まもなく、全国の学校の新学期開始の延期が決まりました。
しかし、勉強を完全にストップさせるわけにはいきません。特に小中高の学生に対して、教育部門が「停学不停課」(学校は延期だが、授業は予定通りに進む)という通達がありました。
そこで、オンライン・レッスンが2月10日からスタートしました。授業は、日頃から、保護者と連絡を取るために使っているアプリに追加されたオンライン教室で行われています。
浙江省嘉善県に住む小学生2年生の呂くんの話を聞きました。
「オンライン教室に出た先生は、普段慣れていない先生ですが、内容はまあまあ大丈夫です。でもオンラインなので、友達と一緒に遊べないのは残念です」
呂くんの父親は、「特殊な時期なので、授業がないより、オンラインで受けられることはありがたい」と話しつつ、不安もあるようです。
「集中力が足りなくなり、時々おやつを食べたり、おもちゃを手に取ったりしてビデオを見てしまい、勉強に身が入らないように見えます。また、ずっとテレビや携帯の画面を見るので、子どもの目が心配です」
先生側の感想も聞きました。浙江省の高校で数学を教える山さんは、「普段もオンラインのレッスンを学生たちに提供しており、日頃からIT企業のサポートを受けているので、今回も特に問題を感じていません」と話します。
一方、学生たちにとっては、やはり教室のほうが効率がよいとも感じています。
「生徒の宿題のチェックと添削も不便になりました」
中国の工場などでは操業を再開がはじまっています。一方、大都市の場合、地方から戻ってきた人には、2週間の「隔離」が定められています。そのため、オンラインで業務ができる在宅勤務が増えています。
外資系企業に勤めている上海虹橋(ホンチオ)在住のジュリーさんもその一人です。
会社は在宅勤務を推奨しており、4階分あるフロアは、ごく一部しか稼働していません。アプリを通して300人以上のオンライン会議が簡単に開けるなど、在宅勤務でも仕事に影響はないそうです。
「在宅でも仕事をこなせるが、家に長くいると、効率が落ち、仕事とプライバシーの境界を保つことが難しくなりました」
また、マーケティングやセールスなど、外に出なければならない部署の人には仕事に影響が出ていると言います。
浦東(プートン)在住の王さんは、在宅勤務には、メリットとデメリットが両方あると言います。
「通勤時間がなくなり、子どもと一緒にいる時間が長くなり、親子にとって貴重な時間」と重宝する一方、「家事の時間も長くなるので、夜は残業感覚で仕事をしている」と話します。
2003年のSARSと比べ、今回の新型コロナウイルスの影響がより大きいと言われています。当時は主に広東省と北京市だけで、ほかの地域への広がりは大きくありませんでした。
今回の新型コロナウイルスはSARS以上に猛威をふるい、中国全土へ影響を及ぼしています。その結果、感染拡大を防ぐために、14億人の大半が「自宅隔離」を余儀なくされています。
一方、17年前のSARSの時と比べれば、ネット社会が進みました。人々が直接会わなくても仕事や買い物ができ、授業も受けられるようになりました。
新しい生活、働き方を思わぬ形で体験することになった中国の人々の戸惑いからは、ネット社会の未来のいったんが見えてきます。
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