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#44 #父親のモヤモヤ

育休明け、妻が単身赴任 「おかーちゃんいなくて寂しい」に父親は…

妻が単身赴任し、4歳の娘と暮らす男性。大事にしているのは、絵本の読み聞かせの時間だという(写真はイメージです)=PIXTA
妻が単身赴任し、4歳の娘と暮らす男性。大事にしているのは、絵本の読み聞かせの時間だという(写真はイメージです)=PIXTA

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
夫の転勤に妻が帯同したり、家族を残して夫が単身赴任したり。いまも変わらぬ人事異動の季節の光景です。でも、夫婦共働きの家庭が増えるなか、選択肢は多様化しています。夫婦がともに転勤族のある家庭。夫婦で話し合い、妻が単身赴任し、父子が家に残るという道を選びました。夫は「手探りのなかでの生活です」と話します。その暮らしぶりとは? 話を聞きました。
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さまざまな事情を検討し、決断

北海道に住む団体職員の40代男性。同じく団体職員の妻が単身赴任中で、4歳の長女と2人暮らしです。

もともと転勤が多かった夫婦は、結婚してからも別居婚でした。長女の誕生から3年間は妻が育休中だったこともあり、家族3人で生活できました。しかし、妻の職場復帰とともに、また離ればなれになることに。夫婦の職場はそれぞれちがう自治体にあり、同居しながら仕事を続けるのは難しいといいます。

どうしようか? 夫婦で話し合い、夫である男性が長女と同居し、妻が単身赴任することを決めました。もともと、男性のほうが料理が得意で食事を担当していたこと。平日に子どもが発熱するなど緊急時には男性のほうが休みをとりやすかったこと。妻に比べ夫の親のほうが比較的近くに住んでいること。医療機関や保育園の充実具合……。さまざまな事情を検討し、決断したといいます。

どちらかがこれを機に仕事を辞めるという選択については「考えなかったわけではありません。でも、いますぐに辞めるという決断をすることはできませんでした」。

さまざまな事情を検討し、妻が単身赴任することを決断した(写真はイメージです)=PIXTA
さまざまな事情を検討し、妻が単身赴任することを決断した(写真はイメージです)=PIXTA

単身赴任「とりあえず、やってみよう」

妻は当時のことを、こう振り返ります。

「最初は私が子どもを連れて一緒に行くものだ、と考えていました。母親と子どもが一緒にいるのがあたりまえだ、という世間一般の考え方に無意識に影響を受けていたのかもしれません。でも、夫と相談していくなかで、3年間は私が育休をとって子どもとずっと一緒にいた。バトンタッチをしていいのかも、と思うようになりました」

仕事を辞めるという選択肢については?

「もともと結婚、出産しても、仕事を続けたいと思って就職活動をしていました。それでも今回、『辞めたほうが家族にとっていいのかな』と頭をかすめることがありました。でもお互いに何かあって働けなくなったときのことを考えると、職を手放す不安をぬぐい去ることもできませんでした」。とりあえず、やってみよう。だめだったら、そのときに考えたらいい。そう心を決めました。

大事にした「絵本の時間」

こうして始まった父子2人暮らし。

週1回は車で1時間半~2時間ほどかけて妻が帰ってきて、育児家事を交代しますが、日々の暮らしをまわすのは想像以上に大変でした。仕事から帰ると、長女を寝かせる時間から逆算し、ご飯をつくり、お風呂に入れさせて……。料理中も相手にしてほしい長女から、あれこれ要望が飛んできます。母親がいなくて「寂しい」と泣かれることもありました。

「寂しい思いをさせてしまっているという罪悪感はないわけではないのですが、毎日、どうやって寝かせるところまでもっていくか。それを考えるのに必死で、それ以外のことを考える余裕もありませんでした」

そのなかで男性が大事にしていたのは、絵本の読み聞かせの時間です。保育園の登園前と寝かしつけの前、絵本を読み聞かせることを決めていました。絵本は図書館から毎週、借りられる上限までどっさりと借りてきます。

男性はこんなエピソードも紹介してくれました。風呂に入る前、歯磨きをしようとひざに寝かせたとたん、「おかーちゃんがいなくて寂しい」と泣き始めた長女。湯船に入っても、ちょっとお湯がかかっただけで泣き叫びます。なんとかなだめすかしながら体を洗っているとき、男性は長女に声をかけました。

「『さばくのくいしんぼ』じゃなくて、『お風呂のさびしんぼ』だね。どこにチャックがついているの?」

「さばくのくいしんぼ」は、砂漠に住む「くいしんぼの悪魔」が登場する絵本です。でも、悪魔のおなかにはチャックがついていて、そのチャックを開くと……。意外な展開が待っていて、父子で楽しく読んだ絵本でした。

父子で楽しく読んだ「さばくのくいしんぼ」
父子で楽しく読んだ「さばくのくいしんぼ」

チャックがどこについているか? 男性の質問に、長女は泣きながら答えました。「せなか……」

男性 「背中のチャックを開けたら、何が出てくるの?」

長女 「なみだ……」

男性は長女の背中のチャックを閉めるしぐさをしながら、さらに声をかけました。「ほら、もう大丈夫だよ。ちゃんと閉めておいたから」

すると、長女は涙声で言いました。「でも、しみ出ちゃうのお」

当時、長女は3歳。3歳なりに一生懸命に胸のうちを伝えようとする姿に、男性は胸をつかれたと言います。父子で共有している絵本の世界。泣きながらでも、その世界を持ち出して会話ができることがうれしかった、と振り返ります。

転勤「必ずしも悪いと思わない。でも……」

ふだんは母親がいなくても、楽しそうに笑っている長女。でも心の奥底では寂しくて、ふだんはそれを押し殺している頑張っているんだなあ……。「いとおしく、切なくなりました」

転勤について、どう思いますか?

男性は「私もこれまでたくさん転勤してきましたが、違う環境の職場をみることは貴重な経験でした。同じところにいると視野も狭くなるし、必ずしも転勤が悪いこととは思いません。でも、育児や介護など、家庭への影響を考えると、転勤はとても厳しいものでもあると感じます」。

また家族3人で、早く一緒に暮らせますように。そう願いながら、いまは妻のほうが夫の職場に近い場所へ、転勤の希望を出しているところです。

父親のモヤモヤ、お寄せください

記事に関する感想をお寄せください。「転勤」というキーワードで、モヤモヤや体験を募ります。

いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。

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