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バレンタイン前に伝えたい、ガーナで食べた「生カカオ」のエグさ

ガーナで出会ったカカオ農家の人たち
ガーナで出会ったカカオ農家の人たち

目次

女子校時代、友チョコのために30人分作ったチョコブラウニー。試験勉強中に集中力が高まると信じてとりあえず食べたGAVA。私の青春から切っても切れない関係にあったのが「チョコレート」です。原料であるカカオは、日本で栽培が難しくほぼ全てを輸入に頼っています。輸入量は年間5万8617トン。そのうち、74%のカカオがガーナ産です。バレンタインを前に、もっとガーナを知りたいと思い約30時間かけて1人現地へ飛びました。現地で純度100%のカカオの味は……。農園で目の当たりにした「児童労働」現実、それに立ち向かう支援団体の取り組みを紹介します。(笑下村塾代表・相川美菜子)

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自給自足の村へ

ガーナは西アフリカにある人口約3000万人程度の国です。大きさは日本の本土と同じくらいで、公用語は英語。主な産業は農業(カカオ豆)と鉱業(貴金属等)です。

ガーナへの直行便はありません。行き方はいくつかありますが、私はまず日本からエジプトのカイロへ飛び、そこからガーナの首都アクラにあるコトカ空港へ。カイロ発アクラ 行きの便は、すでにアジア人や欧米人はおらず、ガーナ人と思われる人たちばかりでした。

ガーナの首都アクラにあるコトカ国際空港の雰囲気は想像以上に綺麗(きれい)でびっくりしました。2018年に新しく建てられたそうです。

アクラから国内線に乗り、さらにクマシ 空港へ行きます。空港からは車でガタガタの道を数時間走り、ようやくカカオを生産する村に到着です。自給自足のいかにも“アフリカの村”という感じの場所です。

カカオ農園のある村
カカオ農園のある村

「酸っぱくてエグい謎の粘液」

農園に到着すると早速、村のおじちゃんがおもむろにカカオの実をパカッと割り、まずはカカオ豆を食べてみなさいと差し出してきます。

おじちゃんが食べたのを確認し、恐る恐る口に入れます。

「うーむ、生のカカオ豆は……まずい!!」

白いトロッとした液でコーティングされているカカオ豆。

よく言えば甘くて酸味のあるソースがかかっている生の硬い豆という感じですが、実際は、酸っぱくてエグい謎の粘液がかかった苦い豆という感じ。

ここからチョコレートを生み出した過去の人々に人類は感謝すべきだと思いました。

微妙な味だった生のカカオ豆
微妙な味だった生のカカオ豆

乾燥すると「まあまあいける」

農園ではチョコレートができるまでを教えてもらいました。

まず、カカオの実から種を取り出し、積み上げて発酵させます。

私もちらっと見せていただきました。1週間程度、置いておくことで例の「微妙な味」の粘液は消え、茶色くなります。

次は、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下、1週間程度豆を乾燥させます。乾燥中の豆を食べてみると、コーヒー豆のように固くて苦いのですが、カカオ風味がするので「まあまあいける」感じです。

その後、地域ごとの買い取り所に持っていき、全国一律で決められたカカオの価格に基づき豆は買い取られます。

バナナの葉で包んで発酵させられるカカオ豆
バナナの葉で包んで発酵させられるカカオ豆

児童労働が新たな児童労働を生む

ガーナのカカオ生産には、大きな問題が起きています。「児童労働」や「人身売買」です。

小規模で家庭経営の農家では、子どもに教育を受けさせることができず、親世代も学校に通った経験がない家が少なくありません。

子どものうちから貴重な労働力としてカカオ栽培に駆り出されるため、学校で新しい知識や経営を学ぶ機会も得られません。農園経営の知識やスキルが限られ、大人の労働者を雇ったり新しい肥料や機械を購入したりすることができない。経営状況は長年改善されず、結果、子どもの労働力に頼らざるを得ないのです。

児童労働が新たな児童労働を生むという負のスパイラルに陥っています。

人身売買の問題もあります。

農業条件が悪く貧しい北部から、カカオ農園が多くある中部に人が売られるということがいまだにあるそうです。

強制結婚させられ暴力を振るわれながら過酷な労働や家事、育児を行う少女。食事もろくに与えられず炎天下で農園の仕事や家畜の世話をさせられる少年……。

それが、私たちが実際に口にしているチョコレートが生まれるまでに起きている現実です。

滅多に見ない外国人に興味津々の子どもたち。色の違う筆者の肌やストレートの髪の毛を興味深そうに触ってきました
滅多に見ない外国人に興味津々の子どもたち。色の違う筆者の肌やストレートの髪の毛を興味深そうに触ってきました

いいことの「利益」も説明する

今回、農園を案内してくれたのは、ガーナの子どもの権利を守るために約20年前、現地で設立された支援団体「CRADA」です。インドやアフリカの児童労働問題に取り組む日本のNGO「ACE」と一緒にガーナで活動を行っています。

「CRADA」は、山奥にある農園に何度も通い、村の人と信頼関係を築きながら、効率的なカカオの育て方や、子どもの人身売買および児童労働をなくすことの意義を伝えています。

ただ、お金も労働力も不足している状態での改善は簡単なことではありません。まずは違法な労働がなくても経済が成り立つような仕組みを整えることが重要です。

「CRADA」代表のナナさんは「児童労働が法律で禁止されていることも知らないくらいの閉鎖的な家族経営の農家も多いので、最初に行うのはコミュニティー作りだ」と言います。

「CRADA」のメンバーと筆者(右から2人目)
「CRADA」のメンバーと筆者(右から2人目)

コミュニティーがあれば、カカオ栽培のノウハウを共有したり、困ったときには助け合ったりできます。また、不作の時期でも子どもが学校に必要な教材や文房具を買えるように、少額融資制度も活用できます。また農家同士のコミュニケーションが生まれることは、何より児童労働の再発防止につながります。

大人たちだけで効率的にカカオの生産ができると、農園は今より収穫高を上げ、収入を伸ばすことができます。子どもたちは高校や大学に進学でき、そこで新しい知識を得て、農園の生産性を上げ、さらにお金を稼げるようになります。

ナナさんたちは、単純に「児童労働は悪いことだからやめるべきだ」と言うのではなく、自分たちの「利益」になると説くことで、子どもを学校に通わせようとしています。

「きれいごと」だけでは、現実は動かない。日本にも解決が難しい社会問題がたくさんあります。何かを変えようとする時、「CRADA」の活動は大事な姿勢として心に残りました。


     ◇

〈認定NPO法人ACE〉1997年に設立。児童労働をなくすため、貧困家庭の自立支援や、消費者への啓発活動などの活動を続けている。ガーナでの活動紹介や寄付金の窓口はこちら(http://acejapan.org/choco/)。


     ◇

〈笑下村塾〉大学時代からお笑い芸人として活躍するたかまつさんが設立。若者の投票率を上げる出張授業などを行っている(https://www.shoukasonjuku.com/)。

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