WORLD
「恋愛の時間なんてなかった」中国人留学生「一人っ子」世代の現実
14億人という世界一の人口を持つ中国ですが、晩婚化や非婚化が進んでいます。「一人っ子」政策が実質的に廃止されて4年。「一人っ子」政策時代に生まれた20代の中国の女性たちは、どんな恋愛観と結婚観を持っているのでしょうか? 留学生に集まってもらい本音トークをしてもらいました。
話を聞いたのは、来日して2年程度の中国人留学生4人です。全員20代の女性で、キキスさん(Kikis、四川省楽山市出身、28歳)、アインさん(ayin、湖南省衡陽市出身、23歳)、クラシュさん(Crush、福建省アモイ市出身、23歳)、チンチーさん(qingqi 、浙江省金華市出身、22歳)。日本語学校のビザで来日し、大学院受験のため準備中です。
キキスさんは結婚をしていますが、他の3人は独身です。そして、独身の3人が口にしたのは、「恋愛に憧れていない」「恋愛する時間がない」という言葉でした。
22歳のチンチーさんは「これまでいい男性と出会えなかった。恋愛や結婚に対し興味がないし、希望も持っていません」。
23歳のクラシュさんはよりリアルな話をしました。
「これまで恋愛しなかったのは、勉強がとても忙しかったから。中学校や高校では恋愛禁止ですし、いきなり大学に入り自由になっても、恋愛の仕方が分からない」
クラシュさんの言葉にアインさんもうなずきます。
さらに、クラシュさんが気にしたのはDVの問題です。現在、中国ではDVが社会問題となり、「結婚恐怖症」(中国語:恐婚症)が増えていると言われています。
2019年11月25日、「女性に対する暴力撤廃国際デー」の日に、中国の有名なメイクのインフルエンサー「@宇芽YUYAMIKA」が、かつての交際相手からひどいDVを受けてきたことを中国版ツイッターの微博で告発して話題になりました。
また、中国人俳優の蒋勁夫(ジャン・ジンフー)氏が交際相手の日本人女性へのDV容疑で逮捕されたことも中国で大きく報道されています。
「DVが怖いし、結婚のリスクも高いと思います。結婚は全くしたくないです」(クラシュさん)
一方、アインさんは最近、両親のことを考えるようになったそうです。
親が年を取り、病気になったら、親の面倒を1人ですべて見ることは自信がないと打ち明けます。兄弟がいない分、パートナーが分担してくれたり、話を聞いてくれたりすることは、必要だと感じています。
「自分が年を取ったら、1人で生きていくのは悲しいから、一人っ子たちにとって結婚は必須かも」
キキスさんもお正月に中国に戻り、おばあちゃんのお見舞いをしました。80歳の自分のおばあちゃんの病床は賑やかでしたが、隣のベッドのおばあちゃんには見舞いの人がいなく、さみしそうだと感じたそうです。
4人は全員「一人っ子」世代です。介護や自分の老後の話になると、一瞬、沈黙してしまいました。
「結婚はしたくないが、子どもがほしい」(チンチーさん)
「これまで子どものことをあまり考えなかったが、老後のことを考えれば、子どもの意味を改めて考えないといけない」(キキスさん)
その悩みは、日本の女性にも通じるものがあるかもしれません。
【中国に詳しいジャーナリスト・中島恵さんの話】
かつて中国では、誰もが結婚し、子どもを産み育て、家族に囲まれて生活することが当たり前でしたが、社会環境が激変した結果、そうとは限らなくなり、「結婚すれば幸せになれる」という価値観は崩れつつあります。
また、ネットの普及により、中国人の情報量は劇的に増えましたが、一人ひとりの人生経験は、日本人と比較してもまだとても乏しいといえます。親世代と子ども世代の社会環境があまりにも違い過ぎて、家族でも同じ価値観が共有できないという悩みや孤独は、日本人以上に大きいでしょう。
受験重視で、クラブ活動や生徒会活動があまりない中国の学校教育の中で、恋愛が身近な存在ではないということも、このような悩みや不安を持つ一つの原因だと思います。
日本人も同様ですが、個人が優先され、相手の気持ちを思いやったり、相手を尊重しなければならない恋愛や結婚は面倒なものであり、二の次になってしまうという現象は、今後も増え続けていくと思います。
1/17枚