連載
#15 ざんねんじゃない!マンボウの世界
マンボウ、驚きの潜水能力 「最弱伝説」を否定する新たな事実が!
実は深海魚?
2004年5月、海洋資源調査などを行う深田サルベージ建設が所有する有人潜水艇「はくよう」が、鹿児島県喜界島沖の水深220mの深海で「ある魚」を撮影しました。写っているのは、マンボウ……?
「はくよう」の写真の個体は推定全長120~130cm。このサイズのウシマンボウはマンボウと形態がよく似ているため、当初「マンボウ」だと考えられていたそうです。澤井さんは「当時は日本近海にウシマンボウが出現すること自体が知られていなかったので、マンボウと間違われたのは無理もないです」と言います。
深海のウシマンボウが有人潜水艇で撮影されるのは、「はくよう」が初めてとのこと。澤井さんは、「ウシマンボウが深海にいたところを、人の目で直接確認されているという点がとても面白い」と話します。
550mの深海からウシマンボウを釣り上げた人もいます。東京都に住む高橋一郎さん(69)は、2012年4月に沖縄県与那国島南沖で釣りをしていました。
狙っていたのは、沖縄周辺の海では水深450~600mあたりに生息するというメカジキです。シマガツオ(エチオピア)を餌に待っていたところ、「オナガザメのようなもの」がかかった感覚があったといいます。
高橋さんはIGFA(インターナショナル・ゲームフィッシュ協会)のルールに則って釣りをしているため、電動リールは使いません。3時間以上かけて550mの深海から釣り上げたころには、辺りも暗くなっていたと振り返ります。
水面付近に現れた姿を見て初めて、マンボウを釣ったのだと気付いた高橋さん。こちらもウシマンボウで370kgというビッグサイズ。珍しい魚の登場に周囲は驚いたといいます。しかし目的の魚ではなかったため、高橋さん自身は「時間をかけたのに、がっくりでしたね」。
ウシマンボウは漁協の人たちがさばいて持ち帰ったそうですが、高橋さんはその後、近くの居酒屋で料理となったウシマンボウに再会することになったそうです。
しかし、太陽の光が届かないような深海に、どうしてウシマンボウがいるのでしょうか。澤井さんは「マンボウ類は日常的に深海域まで潜っていますよ」。
生物に記録計をつける「バイオロギング」という調査手法によって、マンボウたちは昼の間に、水面から深海まで何度も潜水・浮上を繰り返していることがわかってきました。最も深くまで潜ったマンボウ科の記録は、ガラパゴス沖のウシマンボウで、1112メートルという驚異的な深さです。
「マンボウは昼行性とされており、昼間にクラゲなどのエサが豊富な深海に潜っているようです。一方で、夜は水面付近にいてあまり動きません。『はくよう』がウシマンボウを撮影したのも昼間(11時)だったので、エサを食べるために深海にいたと考えています」
マンボウといえば、水面で横になってぷかぷか浮かんでいる「昼寝姿」も有名です。マンボウの穏やかさを印象づける行動ですが、実はこの「昼寝」は「深海に潜って冷えた体を温めるため」という説が現在最も有力視されているそうです。他には、実際の観察から、海鳥に体表についた寄生虫をとってもらうためなどの説も考えられています。
昨今注目されることも多い深海魚ですが、「深海魚」とは水深200m以深の海に生息している魚類の総称とされています。深海魚の代表格であるリュウグウノツカイが表層でも目撃されていることを引き合いに、澤井さんは「逆説的に捉えると、深海に潜るマンボウ類も深海魚と言えるのではないでしょうか」と提案しています。
水族館の水槽は深さに限界があるため、マンボウ類が深海まで潜るということは一般の方にはまだあまり広まっていません。深海で撮影された1枚の写真は、自然界の生き物が、私たちの想像を超える生態を持っていることを改めて実感させてくれました。
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