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連載

#45 #となりの外国人

大好きな日本で仲居に、フランス人男性の問い「日本らしさって何?」

働いた旅館での時間を「人生の宝物」と振り返る、フランス人の話です

フランスで出会った日本語も関西弁も使いこなす「ケロちゃん」
フランスで出会った日本語も関西弁も使いこなす「ケロちゃん」 出典: ケロちゃん提供

目次

コンビニやカフェで働く外国人店員さんを最近よく見かけます。その光景は当たり前のようになりました。温泉地の旅館で仲居をした外国人は、まだ珍しいかもしれません。「日本文化に触れる仕事がしたい」と飛び込んだ職場。「日本人の接客がよかった」と言われたこともありましたが、旅館での時間を「人生の宝物」と振り返ります。ケロちゃんと呼ばれる彼の言葉から、ますます身近になる外国人と作る社会について考えます。

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フランスで出会った日本語ガイド

仲居をしていたのはフランス人のオリヴィエさん(25)です。2016年の夏、岐阜県の有名な温泉地、飛騨高山の旅館で働いていたと言います。

私がオリヴィエさんと出会ったのは、2018年。フランスのアルザス地方にある都市、コルマールです。ハウルの動く城や美女と野獣の舞台になったとも言われる美しい景色が有名なコルマールをひとり旅で訪れようとしていた私に、コルマールを既に訪れたことがある友人がお世話になったガイドを勧めてくれました。インスタグラムのアカウントを教えてもらい、おそるおそるメッセージを送りました。

送信して間もなく、丁寧な日本語で返信がきました。コルマールの駅で待ち合わせをすると、サンタの帽子を被って明らかに目立っている男性が……。季節はクリスマスでしたが、キリスト教徒が多いフランスでも、街中でサンタ帽を被っている人は一人もいません。オリヴィエさんは目印に、と被ってきてくれたのです。

「よろしくお願いします。ケロって呼んでください!」

オリヴィエさんのファミリーネームは「モナケロ」。そこで後の二文字をとってあだ名はケロちゃんです。持っていたかばんには、カエルのマスコットがぶら下がっていました。

サンタの帽子を被って現れたケロちゃん。クリスマスマーケットの時期で、美味しいグリューワイン(ホットワイン)を教えてくれました
サンタの帽子を被って現れたケロちゃん。クリスマスマーケットの時期で、美味しいグリューワイン(ホットワイン)を教えてくれました

ここからは親しみをもって「ケロちゃん」と呼びたいと思います。

コルマールはケロちゃんの生まれ故郷です。特徴あるカラフルな木骨組みの家々が有名ですが、ドイツとの国境近くにあり、かつては何度も領土争いが繰り広げられた場所でもあります。フランスとドイツの文化が織り交ざった人気の観光都市のひとつです。

コルマールのカラフルな家々
コルマールのカラフルな家々

ケロちゃんは2014年から、コルマールを訪れる日本人観光客のために日本語でガイドをしています。魅力の詰まった故郷を多くの人に知ってほしいという願いと、自分の日本語能力を生かす活動がしたいとの思いからはじめました。

ガイドでは、コルマールの歴史や名物料理をたくさん紹介してくれました。ガイドをしているケロちゃんは街でも有名で、ケロちゃんといることで地元の人々と交流することもできました。

日本語が驚くほど流暢なケロちゃん。たまに関西弁も飛び出します。「実は、日本の温泉旅館で働いていたこともあるよ!」と、日本での思い出を話してくれました。

「ケロガイド」の名でガイドをしているケロちゃん。日本の雑誌で紹介されたこともあるそう
「ケロガイド」の名でガイドをしているケロちゃん。日本の雑誌で紹介されたこともあるそう 出典: ケロちゃん提供

日本との出会い

ケロちゃんが日本に興味を持ち始めたのは7歳の時だといいます。フランスで偶然見たテレビ番組で茶道を知りました。

「フランスにはない文化で、日本っておもしろそうって思ったんだ」

そこから日本のマンガ、日本に関する映画を観るようになったそうです。

「最初にはまったのはドラゴンボールだったよ。映画は『ラストサムライ』を観たんだけど、侍たちがちょーかっこよくて興奮した!」

マンガや映画を通してケロちゃんは日本語を学び始めました。その意欲はどんどん高まり、日本人が指導をしている日本語塾に通うことを決めました。しかし、家庭の事情でその費用は自分で稼がなければなりませんでした。フランスでは原則16歳から働くことができるため、ケロちゃんは16歳になるとウエイターの仕事をはじめ、本格的に日本語学習を始めました。

憧れの日本はやさしかった

ケロちゃんが初めて日本を訪れたのは18歳のときでした。

日本に向かう飛行機の中で、はやる気持ちからケロちゃんは一睡もできなかったといいます。そして飛行機の窓から日本が見えたとき、涙が出るほど嬉しかったそうです。

1か月間、東京近郊と、富士山を目指して静岡を旅行したといいます。そのときの旅費も、レストランで働いて貯めたお金で工面しました。

初めての日本では、日本人のやさしさに触れる体験をしたといいます。ケロちゃんがポケットから1万円を落とし、気づかずに歩いて行ってしまった時のことです。一人の女性が後から走ってきてくれて、1万円を渡してくれたそうです。

「日本、優しすぎるよ!」

大好きな日本がさらに好きになった出来事だと教えてくれました。

鎌倉を観光したときの写真
鎌倉を観光したときの写真 出典: ケロちゃん提供

日本での滞在はわずか1か月でしたが、ケロちゃんの日本語能力はめざましく上達しました。日本語を本格的に学び始めて2年しか経っていないにも関わらず、日本語塾では10年以上の学習歴がある人と同じコースに飛び級しました。

モデルから仲居さんに

2015年、ケロちゃんは再び日本を訪れました。今度は観光ではなく、ワーキングホリデーのビザを取得しました。ワーキングホリデーは、1年間、日本に滞在しながら、働けるビザです。2カ国間での取り決めが必要で、日本はいま欧州や韓国など23カ国・地域との間でワーキングホリデーを認めています。国によって条件は変わってきますが、18~30歳の人が対象で、働く職種は風俗営業以外の幅広い仕事が認められています。


ワーキングホリデーのビザを取得するためには、来日前に、日本で生活できる資金を用意しておくことも必要です。ケロちゃんは約13000ユーロ(約160万円)を貯金しました。

日本に到着し、まず向かったのは大阪です。大阪では主に観光をしたといいます。その後東京に移動し、フランスで出会った日本人の友人が勧めてくれたモデルの仕事をしました。1回の撮影で約4000円もらえたそうです。

東京に残ってアルバイトをする選択肢もありましたが、ケロちゃんはどこか満足することができませんでした。

「日本文化に触れる仕事がしたい!」

茶道や侍映画に刺激を受け、日本の伝統文化に強い興味を抱いていたケロちゃんは、友人に相談してスキー場やホテルなどリゾートで住み込みで働くアルバイトを紹介するサイトを教えてもらいました。

「着物を着て働くことができる旅館に興味があったよ。そのとき見つけたのが、岐阜県にある旅館だった」

人生の宝物になった

旅館でのアルバイトは3か月程度でしたが、ケロちゃんはその期間を「人生の宝物」のような時間だったと振り返ります。

「毎日美味しい料理が食べられるのもよかったけど、何より、みんな本当に優しい人たちだった。日本で一番楽しい時間だった」

旅館で働いていたときのケロちゃん
旅館で働いていたときのケロちゃん 出典: ケロちゃん提供

ケロちゃんはその旅館で働く唯一の外国人でした。地方の旅館で仲居さんとして働くフランス人を見かけたら、その珍しさに驚く人も多いでしょう。それでもケロちゃんは持ち前の明るさと英語の能力を生かし、外国人のお客さんの接客もこなしていきました。

同僚たちと過ごす日々もとても楽しかったといいます。住み込みで働いていたケロちゃんの隣の部屋には、和歌山県出身のしげさんという男性が住んでいました。

「しげさんとは毎日会ってたから、関西弁も覚えたんだよね」

日本人の接客がいい

ケロちゃんが働いていた旅館には、外国人のお客さんが多かったといいます。ある日、一人の外国からきたお客さんに言われた一言が、ケロちゃんの心には深く残っています。

「日本人に接客してもらいたい」

旅館は、畳、懐石料理、着物、といった日本の文化を味わえる場所です。雰囲気を味わいたい海外からの旅行者にとって、外国人の仲居さんがいることは想定外だったのかもしれません。

ほかの仲居さんと遜色ないサービスを必死でしようとしていたケロちゃんは「僕は何も悪いことしてないのに……」と落ち込みました。それでもそのお客さんの気持ちも分かりました。その時は日本人の仲居さんに任せ、対応したといいます。

ケロちゃんにとって励みになる言葉もありました。日本人のお客さんたちに言われた「日本を好きになってくれてありがとう」という言葉です。ケロちゃんが日本への愛を伝えると、喜んでくれる日本人のお客さんが多かったといいます。

いずれは日本へ……

すでに、人手不足が進んでいる地方の町では、観光など幅広い職種で活躍する外国人を見かけるようになりました。今後、日本のあらゆる場所で働く外国人を見る機会は増えていくでしょう。

街中や観光地で見かける、働く外国人にはそれぞれに日本で働く理由や思いがあります。

同時に、サービスを受ける側にもニーズがあるのも事実です。

「日本人の接客がいい」という言葉に傷ついたというケロちゃんの話を聞きながら、では、本当の「日本らしさ」って何なのか、考える自分がいました。

その時のお客さんの気持ちも理解はできます。でも、「日本文化」を象徴するような仕事が、日本人だけで支えられるものではなくなりつつあるという現実があることも否定できません。

だったら、むしろ、ケロちゃんのような色んな人が働いていることを「日本らしい」と思ってもらいたい。

フランスに戻ったケロちゃんは今、再びガイドをしながらレストランで働いています。

将来の夢を聞くと、こう答えてくれました。

「いずれは日本に引っ越したいと思っています」

 

 日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。でも、その暮らしぶりや本音はなかなか見えません。近くにいるのに、よくわからない。そんな思いに応えたくて、この企画は始まりました。あなたの「#となりの外国人」のこと、教えて下さい。

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