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連載

#43 #となりの外国人

留学生のバイト探しに密着 求人サイトを駆使、ゆずらなかった条件

街で見かける「留学生アルバイト」の本音に迫りました

初めてのバイト探しに挑戦したウクライナ出身のイリナさん
初めてのバイト探しに挑戦したウクライナ出身のイリナさん

目次

コンビニや飲食店で、働く留学生アルバイトの姿をよく見ます。見慣れた光景になっていて、あまり気に留めなかったけれど、暮らしも文化にもまだ慣れない異国の地で、留学生がどうやって職探しをして、どんな気持ちで働いているのか、実は分からないことだらけ。今回、これからアルバイトを探すという留学生に密着。必要な手続きや書類、仕事に求めることなど、留学生の本音に迫りました。

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仕送りは○○に

まず、どうやって仕事探しをしているのだろう。そんな疑問に答えてくれたのはウクライナ出身のイリナさん(23)です。日本にやってきたのは2019年9月上旬。もともとチェコの大学で2年間「日本学」を専攻していました。日本語の発音や、漢字がおもしろいと思ったことがきっかけと言います。初めて覚えた漢字は「道」だそうです。今年9月まで、1年間、都内の国立大学で日本語を学んでいます。

率直な疑問をぶつけました。「なぜ日本でバイトをしようと思ったんですか?」

「旅行をするためにお金を貯めたいんです」

チェコで共に日本語を勉強していた友人たちも日本各地に留学しています。彼らの元を訪れるためにも、今は節約を頑張っていると言います。

母国のウクライナや大学のあるチェコと比較すると日本の物価は高いといいます。

左はチェコのスーパーに売られているりんごです。イリナさんの友人がチェコから写真を送ってくれました。1キロで27.90コルナ。1コルナ=4.7円で約130円です。右は日本のスーパーで売られているりんご。1個で168円、1キロに換算すると、だいたい500円でしょうか。果物や野菜はチェコの価格の方が断然安いとイリナさんは言います。

「実は、食費用に仕送りをもらったんだけど、漫画に使っちゃったの」

そう笑うイリナさんですが、遠い異国の地でやりくりする苦労はたいへんそうです。

外食も高くつくため、毎日自炊をしています。約3000円で買った炊飯器で炊く日本のお米がとってもおいしいと笑顔で教えてくれました。

休みより「バイト」の理由

イリナさんの授業はみっちり詰まっています。週に10コマ、予習・復習もする忙しい毎日です。バイトする余裕があるのか、心配になりますが、「金曜の午後と土日は時間があるから」と事も無げに答えます。

実は、イリナさんのような留学生にとってアルバイトは、お金のためだけではないのだそう。「日本語を上達させるためにもやりたい。だから休みの時間はバイトに費やす」と話しました。

イリナさんはチェコで大学に通っている時もバイトをしていました。

「学生寮の受付です。1時間で107コルナ(日本円で約500円)です」

日本の時給と比べるとかなり安いですが、チェコでは平均的だそうです。仕事内容は多岐にわたっています。新寮生の案内から、寮に宿泊する人の対応もしていたといいます。その他にも水泳のインストラクターやピザ屋でのバイトもやっていました。チェコでのバイト経験は豊富です。

情報の探し方

イリナさんの日本でのバイト探しが始まりました。

取り出したのはスマホです。求人情報の収集にイリナさんがまず利用したのは、日本人も良く使うバイト探しのためのWebサイト。周りの留学生から探し方として聞いていました。

イリナさんは「マイナビ」、「ハローワーク」、「バイトル」を閲覧しました。全て日本語での情報収集です。

バイトの情報を探すイリナさん
バイトの情報を探すイリナさん

チェコにも似たような求人サイトがあるそうです。時給は日本の方が平均して高いですが、物価の違いを考えると待遇は似ているといいます。チェコでは求人サイトを見るだけじゃなくて、レストランやファストフード店に直談判をしに行くこともよくあるのだそう。履歴書、面接の手順を踏むことなく採用されることもあるといいます。

イリナさんには「やりたい仕事」が明確にありました。英語教師の資格をチェコで取得しており、英語が堪能です。加えて母国語のウクライナ語、ロシア語、チェコ語、日本語も操るマルチリンガルです。「自分の能力を生かせる仕事がしたい」。その思いから英語を教えるバイトを探していました。

勉強と両立させるため、大学から近いことも条件に探しました。

母国で得た「バイト」の知恵

ところが、仕事を調べ始めると、応募のために日本の電話番号や銀行口座が必要であることが分かりました。イリナさんの留学生の友人は既にコンビニでのアルバイトを始めています。コンビニで働く場合、留学生は電話番号や銀行口座が求められないこともあるといいます。

できるだけ早く働き始めたいイリナさんはコンビニも検討しましたが、第一希望を変えず、英語教師にチャレンジすることにしました。

思いたったら即行動のイリナさん。銀行口座の開設、携帯の契約はスムーズに済ませることができました。

「留学生が日本でアルバイトするには、『資格外活動』の許可も必要です」とイリナさん。

資格外活動は、留学や家族帯同など、就労以外の理由で日本にやってきた人に与えられる、働く許可です。原則、働けるのは週28時間までと、上限が設けられています。学生の場合は、長期休暇中は1日8時間まで働くことができます。

日本で働く外国人の数は2018年10月末時点で、146万463人だった。1年前と比べて約18万人(14.2%)増え、6年連続で過去最多を更新した。在留資格別で最も多いのは、永住権を持つ人や日本人と結婚した人などの「永住者ら」の約49万5千人で、前年同時期より8.0%増えた。アルバイトをする留学生などの「資格外活動」が約34万3千人(15.7%増)、「外国人技能実習」が約30万8千人(19.7%増)で続き、それぞれ全体に占める割合が2割を超えた。
朝日新聞デジタル

資格外活動についてイリナさんが詳しく知っていたのは、「留学前にチェコの大学で先生が教えてくれたから」だそうです。

日本の大学から海外留学をするとき、日本の大学が留学先でのアルバイトのことまで心配してくれるでしょうか。生活の細かな情報については、自分で調べるか留学先で友人に聞いて教えてもらうことが多いように思います。「サポートが手厚い」と驚きました。

「空港で申請すると手続きがよりスムーズに済むと教えてもらってきました」

資格外活動の申請をするには、居住地の地方出入国在留管理官署で申請する方法と、初めて入国する留学生の場合は、空港で申請する方法があります。空港で申請すると、その場で、在留カードをもらうのと同時に資格外活動の許可がもらえます。でも一度入国すると、出入国在留管理官署に出向き、さらに許可に2週間ぐらいかかってしまうとのこと。イリナさんはそれを知っていたので、空港で申請しスムーズに仕事探しを始めることができました。

ハードルを越える力

仕事探しから2カ月。イリナさんから無事、「都内の中学や高校で母国の文化について講義をするバイトに採用が決まりました!」と連絡をもらいました。

研修を重ねて、4月には生徒たちを前に、ウクライナの伝統楽器を披露するイリナさんが見られそうです。

外国人を巡っては、ネット上で偏った意見や考えが広がりがちです。でも、多くの外国人労働者は、物価など暮らしが異なる国で、携帯電話の契約や銀行口座の開設から始めるなど、日本に生活基盤がある人にとっては気づかないようないくつものハードルを乗り越えて、仕事をしています。

日本に愛着を持ってバイト探しをするイリナさんの姿を通じて、自分が暮らす日本という国が、たくさんの人の力によって成り立っていることを、あらためて実感することができました。

 

 日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。でも、その暮らしぶりや本音はなかなか見えません。近くにいるのに、よくわからない。そんな思いに応えたくて、この企画は始まりました。あなたの「#となりの外国人」のこと、教えて下さい。

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