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#42 #となりの外国人

ヒジャブのこと聞かなかった店長 となりの外国人の日常、聞いてみた

街で見かける「留学生アルバイト」の本音に迫りました

カフェバイトをしているエジプト人留学生サラさん
カフェバイトをしているエジプト人留学生サラさん

目次

コンビニやカフェで、アルバイトしている外国人の姿を見ることは珍しくなくなりました。でも、目の前にいる外国人の店員が、なぜ日本に来たのか、どんな思いで働いているのか、知らないままでいることがほとんどです。ヒジャブ(イスラム教徒の女性が使うスカーフ)姿で、太宰治について研究しているというエジプト人留学生、サラさんは今、あこがれの「カフェバイト」に挑戦しています。ヒジャブについて一切、聞かれなかった面接。それでも外国人扱いされる時の戸惑い。「となりの外国人」に日常を聞きました。

エジプトでは「折り紙」バイト

エジプト人のサラさん(23)です。都内の大学の修士1年生。専門は日本の近現代文学で、主に太宰治について研究しているといいます。

「日本語を学び始めたのは本当にたまたまなんです(笑)」

おそらく、多くの人はサラさんの流暢な日本語に驚くはずです。そんなサラさんが日本語を学びはじめたのは「偶然」でした。

サラさんの出身地であるエジプトでは、学力によって大学の学部が決まるといいます。美術学部に進みたかったサラさんでしたが、人気の高い学部で競争率も高く、希望順位が低かった文学部に進むことになります。そして四つ年上のお姉さんが勉強していたという理由で日本語を専攻しました。

「まさか文学部になるとは……」

最初は戸惑ったそうですが、そこから約6年間も日本語・日本文学の勉強を続けることになります。

エジプトでは子どもたちに「折り紙」を教えるアルバイトをしていたというサラさん。美術大学を目指していただけあり、将来は「折り紙デザイナー」になりたかったそうです。

エジプト・カイロであった日本語弁論大会の出場者、審査員、運営に当たった人たち=2016年、翁長忠雄撮影
エジプト・カイロであった日本語弁論大会の出場者、審査員、運営に当たった人たち=2016年、翁長忠雄撮影
国際交流基金によると、世界各地で日本語を学んでいる人の数は約400万人。このうち東南アジアと東アジアの人たちが8割余を占める。残念ながら私が担当する中東やアフリカは全体の1%に満たない。中東やアフリカが多くの日本人にとっては遠くてあまりなじみのない地域であるように、逆もそうなのかもしれない。日本から遠いが故に日本語教師の不足、教材の不足など、学習にとって不利な面があるのは確かだが、学んでいる人たちに接すると、驚くほど熱心に日本語を勉強している。
朝日新聞デジタル

日本語能力の需要

サラさんが日本に来たのは今回で2回目です。前回は4年前の2015年。学部の中で成績が1番だったサラさんはチャンスを与えられて、1年間交換留学をしました。

そしてもう1度、奨学金をもらうことができ、一昨年10月に来日して研究生として学びはじめました。猛勉強の末、大学院の試験に無事合格し、昨年4月から大学院生として修士論文の執筆に向けて取り組んでいます。

「朝から研究室が閉まる23時まで、ずっと研究室にこもる生活です……」


日本文学のおもしろさに気づいたサラさんの日本語能力はめきめきと上達し、その能力を見込んだ依頼も来るようになりました。通訳です。シリア難民の方に付き添い、日本の病院で通訳をしたり、日本の教育現場を視察に来たエジプトの教師に同行して、福井の大学などを巡ったと言います。

「通訳は役者みたいです」

仕事内容に合わせて必要な知識を学び、その時の人の言葉や、場の状況に合わせて話す通訳の仕事を、サラさんはこう表現しました。

はまったホームカフェ

そんな多才なサラさんですが、カフェで働くことに憧れて、昨年、まったく経験のなかった飲食業のアルバイトに応募しました。

きっかけは、「ホームカフェ」にはまったこと。ホームカフェとは、「インスタ映え」するカフェのようなドリンクを、家で作って楽しむことだそうです。

「折り紙デザイナー」を目指すくらいデザインに関心のあったサラさんも、夢中になりました。初めて動画で撮った「作品」は、ぶっつけ本番で、1分ぴったりに収めました。

サラさんが作ったドリンク。ケーキも手作りで、おいしそう!!
サラさんが作ったドリンク。ケーキも手作りで、おいしそう!!

「ホームカフェ」をきっかけに、「カフェで働こう」と思ったというサラさんは、すぐ行動に移します。

日本のカフェで働いているアメリカ人の友人に話を聞き、ウェブサイトから直接応募しました。サラさんは日本語が堪能なため、応募や面接の過程で言葉の問題はありませんでした。

「外国人扱い」されない職場

奨学金をもらっているサラさんは、生活もそれでやりくりできます。それでも、忙しい研究の合間を縫ってでもカフェで働きたいのは、「大切な居場所だから」。

「いまの職場では、外国人扱いされることがありません。私の大切な居場所です」

初めてそれを感じたのは、店に面接に行った時でした。

当時の店長はサラさんが毎日被っているヒジャブについては一切触れませんでした。何も言われないことが逆に不安になり、サラさんの方からヒジャブを着用することについて尋ねたと言います。

すると店長は、「制服になじむ色であれば何でも良いですよ」とだけ答えました。店にはほかに外国人のアルバイトはいませんでした。それでも店長はサラさんを特別扱いしなかったのです。

なぜ、店長はヒジャブについて柔軟に対応できたのでしょうか? サラさんが働くカフェの本社に聞いたところ「会社としてはヒジャブについて特に着用の可否を規定していません。異物が混入する可能性のある飾りなどがなければ大丈夫です」との回答でした。

サラさんが持っている色とりどりのヒジャブ。アルバイトの時は、制服になじむ白かベージュのヒジャーブを身に付けて働いています
サラさんが持っている色とりどりのヒジャブ。アルバイトの時は、制服になじむ白かベージュのヒジャーブを身に付けて働いています

「みんなと同じ」

同僚たちも大切な存在です。

「職場ではスタッフを『パートナー』と呼びます。上下関係がない呼び方で気に入っています」

年齢や立場、そして国籍も関係なく、全員が「パートナー」である職場はとても居心地が良いと言います。大学の研究室には日本人が1人で、ほかは全員留学生です。日本人と関わる機会が少ないため、カフェでお客さんを含め、多くの日本人と関わることができるアルバイトが楽しみになっていると教えてくれました。

それでも時には外国人であることを意識させられることはあるといいます。

混雑時にドリンクの提供が遅くなってしまうと、「大丈夫だよ」「日本語大変だと思うけど……」とお客さんや同僚に気を遣われることがあるそうです。
うれしい反面、サラさんは、自分が外国人だから心配されているのかもしれないと、やりきれない思いをします。

「焦ったり、ミスしたりするのは、日本語のせいじゃなくて、自分の性格なのにな……」

失敗したのは外国人だからじゃないのに……(写真はイメージ)
失敗したのは外国人だからじゃないのに……(写真はイメージ) 出典: PIXTA

もやもやを抱えていた時、店長がかけてくれた言葉がうれしかったそうです。

「サラさんはみんなと同じ。優しさに頼ってはいけないよ」

外国人である前にひとりの人間である。もちろんミスをすることもあるし、仕事の厳しさも知らなければならない。店長はサラさんの悔しさを理解してくれていました。

目の前の人を知る

日本で暮らし、働く外国人が増え、日常で外国人と関わる機会も増えました。

職場や地域の行事などで初めて外国人と接すると、言葉は通じるか、どう接したらいいかと、不安に思う人もいるかもしれません。

サラさんと話しながら、私が心掛けたいと思ったことは「目の前のその人を知ろうとすること」です。

サラさんのように、すでに日本語も流暢で、日本文化にも精通している人に対して、「外国人であること」を理由にした特別扱いは、むしろ傷つけてしまうことになるかもしれない。

サラさんは、日本人の同僚と同じレベルで働くことを求められ、それを実現しようとしているからこそ、働くことにやりがいを感じています。

見た目の違い、話している言葉の違いこそあっても、その人は、サラさんのように日本文化を良く知っているかもしれないし、日本に来たばかりで困っているかもしれません。

サラさんが教えてくれた「となりの外国人」の日常。「外国人だから」という思い込みやフィルターを取っ払い、「この人はどういう人なのだろう」と相手に興味をもつことから始めたい、そう思いました。

 

 日本で働き、学ぶ「外国人」は増えています。でも、その暮らしぶりや本音はなかなか見えません。近くにいるのに、よくわからない。そんな思いに応えたくて、この企画は始まりました。あなたの「#となりの外国人」のこと、教えて下さい。

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