お金と仕事
たかまつななさんが、EXIT兼近さんの「極貧話」から受け取ったもの
たかまつななさんは、お嬢様芸人としてデビューし、現在は「笑いで世直し」をするための株式会社「笑下村塾」を立ち上げ活動を続けています。そんな、たかまつさんが、EXITの兼近大樹さん、りんたろー。さんとYouTubeで対談をしました。幼いころ極貧生活を送っていた兼近さん。コンビ名「EXIT」には、人を笑わせ、自分たちが誰かのはけ口や出口になってほしいという思いがあると言います。対談を通して見えたこと、困っている当事者に届けるための言葉について、たかまつさんにつづってもらいました。
人は生まれた環境を変えられない。明日の食事に困っている人がいる一方で、両親の愛情たっぷりにすくすくと育ち塾にも通わせてもらった私のような人間もいる。
頑張れば報われ、誰かに褒めてもらえた。こんな私だから貧困について語っても説得力がないかもしれない。それでも声は上げなければいけない。
先日、YouTubeでEXITさんとコラボした。
EXITさんは渋谷系漫才師で、チャラ男キャラで大ブレークした。
「ポンポーン」とチャラく登場するが、実は兼近大樹さんは、めちゃくちゃ貧しい家庭で育った。空腹時にはティッシュにマヨネーズをかけて食べていたこともあったという。
中学生の時から新聞配達をし、家計を支えた。極貧生活を送る中で、大きな過ちを犯し、それに対するバッシングも受けた。
もちろん、犯罪はいけない。しかし、私は違和感を覚えた。是枝監督の『万引き家族』を見て感動するのに、なぜ『リアル万引き家族』を見たら、たたくのか。日本で貧困に困っている人に思いをはせるきっかけとなる映画だったはずなのに、現実に似たようなことが起きたらたたく。なんか矛盾している気がしてしまう。
人間誰しも過ちはある。それを過剰にまで反応する「偽の正義感」を感じてしまった。
芸能人の薬物依存症だってそう。薬物をした芸能人をめちゃくちゃたたく。もちろん薬物に手を出しては絶対にダメ。だけど、どうやったら治療して、そこから抜け出せるのか。薬物に手を染めないために予防できることとは何かとかを考えることが抜け落ちていないか。
取材をしている中で思うのは、人は誰しも被害者にも加害者にもなり得る可能性があるということだ。加害者と同じ環境にいたら、自分が同じ罪を犯す可能性があるのではないか。ニュースを見て恐怖すら覚える。だから、そのような環境を作らないように未然に防ぐ努力が社会には必要なはずだ。
犯罪に走ってしまうような環境から、脱するにはどうすればいいか。兼近さんにYouTubeで聞いた。
兼近さんは、他の家庭をうらやむことは昔はよくあり、親の金で習い事をしていると聞くと嫉妬でむしずが走っていたと、率直に語ってくれた。
そんな兼近さんが人生を変えられたきっかけは、自分に「ない」ものを探す作業から、「ある」ものを探す作業に切り替えられからだという。「親に愛されている」「友達がいる」などと思えたことで、自分の存在価値を少しずつ認めることができたと話してくれた。
それまでは、勉強もスポーツもできない中、誰よりもイカれたやつでいれば、皆が自分を求めてくれると思っていたそうだ。不良が仲間のためにけんかするのは、誰かに求められるその承認欲求なのだと聞き、驚いた。
貧困はけっして外国の話ではない。日本だって、子どもの7人に1人が貧困状態にある。1日1食、給食しか食べられない子どもたちもいるのだ。
その子たちに同情することはできる。でも、私は正直、当事者としての苦悩にまではたどりつけない。兼近さんはたどりつけるし、その子に届く言葉を持っている。だから、兼近さんをたたくのではなく、その言葉に耳を傾けてほしい。揚げ足をとらないでほしい。そのことで、困っている子との架け橋をなくしたくない。
兼近さんは、過去の過ちを反省している。そのことを含め、自分にしかできないことだと考え、話してくれた。だから、私はそれをインターネット上の無料でアクセスできる場所であるYouTubeに残しておくことが大事だと考えている。
忘れてはいけないのが、相方のりんたろー。さんのまなざしだ。
兼近さんの過去のことを全部知った上でコンビを組んだ。それは、「今を見たいと思った」からだという。
「これから、自分の過去に負い目をもって、僕は犯罪者だからこの恋は諦めようと思うのは、めちゃくちゃ悲しいことだなと思って。それだったら僕は認めてあげられる人なんだから、問題が起きた時は一緒に乗り越えようと。それよりも、もっとこいつとお笑いをやってみたいって気持ちが強くなった」
兼近さんの更正につながった小説がある。友人からもらった、ピースの又吉直樹さんの『第2図書係補佐』に感銘し、それまでの考えた方が変わったという。
芸事や芸術にできることはたくさんある。人の想像力をかき立てることができる。日本に生まれたという幸運。他の困っている国の人に思いをはせられること。なかなか難しい。それを芸術で乗り越えられるかもしれない。私が社会風刺ネタでやりたいことは、まさにそういうことだ。
お二人のコンビ名は「EXIT」。人を笑わせ、自分たちが誰かのはけ口や出口になってほしいと。素敵すぎる。売れっ子なのに、二人の腰の低さや思い、人としての考え方、行動力――。笑いで世直しをしたいと考える私にとって、すごくワクワクするお時間だった。
慶応大学に入学した時に、先生から「君たちは日本の中でも恵まれた上位数%。経済的にも明らかに恵まれている。だから社会に貢献してほしい」と言われた。その言葉を今でも時折、思い出す。
私が苦手ながらも、政治や社会問題を勉強する理由はそこにある。勉強した上で、取材した上で、さらにお笑いという武器で、翻訳して分かりやすく伝えることができる人はあまりいない。いろんな社会問題を自分ごと化してもらう。そうすることで、個人や会社での意識や行動が変革することを信じている。
恵まれた環境に生まれたのなら、そのことを自覚し、一生懸命学び続けることが大事だと考えたい。
「何か悪いところ探したいですね」
EXITさんとの対談の帰り道、性格がひねくれている私は、番組の構成作家さんに漏らした。でも一つも見つからなかった。自分が売れなかった理由を突きつけられたようで、とても辛かった。でも、それ以上に2人の魅力や、それを伝えることで社会が少しでも良くなるというワクワクが上回り、気分は高揚していた。
2人の力強い言葉を動画からも受け取ってほしい。
たかまつなな 1993年、横浜市生まれ。フェリス女学院中学・高校を経て、慶応大へ。株式会社「笑下村塾」を設立し、若者の投票率を上げる活動などを続ける。2月16日には、ふかわりょうさんやせやろがいおじさんと「表現の自由を考えるお笑いライブ」を開催予定。申し込みはこちら(https://takamatsunana12.peatix.com/)。
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