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#6 #カミサマに満ちたセカイ

伝道の合間に買った下着…親を拒めない宗教団体の子、砕かれた自尊心

「2世信者」の生きづらさとは?

親子問題、自尊心の否定……。実は普遍的な「2世信者」の生きづらさに迫りました。※画像はイメージです
親子問題、自尊心の否定……。実は普遍的な「2世信者」の生きづらさに迫りました。※画像はイメージです

目次

宗教団体の信者として生きることを、親に選ばされた子どもたちがいます。いわゆる「2世信者」です。伝道活動を優先させられ、下着すら自由に買えない。教義を守ろうとして、進学先の選択肢を狭めてしまう。あらゆる行動を、組織の考え方と、その代弁者である親に決められる毎日。成長の過程で自尊心を砕かれ、生活に支障をきたす人も少なくありません。彼ら・彼女らはどういった課題を抱え、自らの人生を歩もうとする上で、どんな支えが必要になるのか? 当事者・専門家双方の言葉から、「生きづらさ」との向き合い方について考えます。(withnews編集部・神戸郁人)

カミサマに満ちたセカイ

「自分らしさがわからない」という課題

「宗教団体の考え方に影響されることで、自分らしさがわからなくなってしまう。2世信者の悩みを考えていくと、そうした課題に行き着きます」。匿名を条件に対応した、脱会者の精神的サポートに関わる臨床心理士の女性は、そう話します。

女性によると、親世代に当たる「1世信者」は、成人後に入信するケースがほとんどです。つまり、自我が確立された状態で教義を受け入れています。一方で2世信者の場合、自身の核を十分に形作れないまま、組織の方針に染まってしまう事情があります。

「1世信者」である親の意向で、思春期世代のうちに「入信」させられる人たちは少なくない(画像はイメージ)
「1世信者」である親の意向で、思春期世代のうちに「入信」させられる人たちは少なくない(画像はイメージ) 出典: PIXTA

人生に存在するのは「親」と「神」だけ

「私の人生には『親』と『神』しかいませんでした」。キリスト教系の組織「エホバの証人(JW)」の2世信者であるAさん(20代女性)は、これまでの生活について、そう振り返ります。

母親は1980年代、JWに入信。父親もAさんが10歳の頃に信者となりました。「パパ、ママ、エホバ」。父母の呼び方に加え、聖書に登場する唯一神の名を教わりながら育ちました。

彼女には、忘れられない出来事があります。小学3年の秋、運動会の出し物として山形県の民謡「花笠音頭」を練習していたときのこと。自宅を訪れていた「巡回監督」と呼ばれる組織関係者の前で披露すると、強い拒否感を示されたのです。歌詞に仏教関連の単語が含まれていたからでした。

母に促され、担任の教諭に「歌えません」と告げました。「あなた、可哀想にね」。寂しげな表情でつぶやかれたことを、今も覚えているといいます。「他人から、私は哀れに見えていたんだなって。すごくショックでしたね」

「人生には『親』と『神』しかいなかった」と語るAさん
「人生には『親』と『神』しかいなかった」と語るAさん

日常から消えた「自主性」の3文字

Aさんは高校入学後、16歳で正式に入信しました。「『神の者』として生きる。組織の人々の前で、そう宣言しました」。暮らしは、ますます宗教一色に染まりました。

組織の集会に参加するときは、いつも母に服装を決められてしまう。下着一枚買うことさえ、家々を巡る伝道活動の合間でなければ許されない。気付くと「自主性」という3文字が日常から消えていたのです。

Aさんの一家は、家族全員が信者である「神権家族」と呼ばれ、組織内で高く評価されていました。「あなたは神からの授かり物だ」。優しく語りかけてくる両親の瞳には、信者としての自分しか映っていない。そう感じていました。

18歳のとき、双極性障害を発症。精神的な不調が続いたことなどから、現在は宗教活動から距離を置いています。正式な脱会手続きは経ていませんが、これ以上信者を続けるのは難しいと思っているそうです。

女性は組織で、エホバを愛し、また愛されることこそが幸せと教え込まれました。しかし、その名誉は「信者である」という条件付きで与えられるもの。当人自身が尊ばれていたのかはわかりません。そのためか、他人と関わる中で、今なお「もっと私を見て」という感情を抱くことが度々だといいます。

両親への思いも複雑です。「まだ愛情が欲しいと考えてしまうんですよね。本来であれば、もう誰かに与えるべき年齢なのに」。もっと自分の気持ちに寄り添ってもらいたかった。そんな本心を父母に打ち明けましたが、分かり合えた印象はありません。

女性は、現状を受け止めるほかないと考えています。

成人して時間が経っても、両親からの愛を求めてしまう。Aさんの根源的な苦しみだ(画像はイメージ)
成人して時間が経っても、両親からの愛を求めてしまう。Aさんの根源的な苦しみだ(画像はイメージ) 出典: PIXTA

「義務」果たす日々を経て、諦めの境地に

2世信者たちが経験する、自己肯定感の剝奪(はくだつ)。当事者にとっては、将来を見据える過程で、大きな障害にもなりえます。

母親がJW信者というMさん(40代男性)は、週3日は集会に参加するといった宗教上の「義務」を、幼少期から実践してきました。「争いを避けよ」という教義を守るため、柔剣道の授業に参加しなくても単位がもらえる高校に進みました。

一時は、列車の運転手や、救急隊員を志したことも。しかし信者の中には、成人後も実家にとどまり、アルバイトをしながら宗教活動を続ける人がいました。「夢を描くどころか、大学進学さえ考えづらい環境です。私自身も、いつしか諦めの境地に至ってしまいました」

高校時代は平日2時間、週末5時間、伝道に従事。そして18歳のとき、1カ月の伝道時間が90時間を超える「正規開拓者」となります(現在は月に70時間以上伝道すれば認定)。以来、信者の前で聖書について講演するなど、信仰に身を捧げてきました。

やがて組織で出会った女性と結婚し、子どもが生まれると、価値観は一転します。輸血を禁じる教義や、トップの意向一つで聖書の解釈が変わる状況に対し、矛盾を感じるように。ブログに組織への疑問を書き込むと、同じ気持ちを持つ2世信者から、共感のコメントやメッセージが寄せられました。

現在は、積極的には組織の活動に参加することなく、家族と共に身の振り方を考えています。「組織の求める通りに生きるうちに、自ら思考したり、判断したりする力を奪われてきた。思い返してみれば、そのように感じられてなりません」

家族を持ったことで、Mさんの中に組織への不信感が芽生えた(画像はイメージ)
家族を持ったことで、Mさんの中に組織への不信感が芽生えた(画像はイメージ) 出典: PIXTA

孤立する母親の味方でいたかった

一方、Cさん(40代女性)は、キリスト教系教団「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)の元2世信者です。教団の集会に通っていた母親から勧められ、17歳で入信しました。1995年には、信者同士の「合同結婚式」に参加。韓国人男性と結ばれました。

合同結婚式では、開祖・文鮮明氏(2012年に死去)が選んだとされる人物との婚姻を求められます。Cさんも、全く面識がない人物と引き合わされたそうです。子どもを授かったものの、夫婦間でうまく愛情を育めず、家庭内暴力にも悩まされるように。2年ほどで破局を迎えました。

その後、別の男性信者と再婚。親戚たちの反対を押し切り、相手の出身地・韓国で10年間生活しました。そこでも、夫の金銭トラブルに巻き込まれるなど、多難な日々を経たといい、最終的にはわが子だけを連れて帰国します。

これまでCさんは、幾度となく脱会を考えたそうです。それでも踏み切れなかった背景には、母親への思いがありました。

「私の父は酒が大好きで、酔うと母に暴力を振るっていました。彼女には頼れるものが何もなかったんです。そのため、自分だけは『いい子』でいてあげないといけない、と考えていた」

「私が教団に入ったのも、信者と結婚し韓国に渡ったのも、母を喜ばせたかったから。脱会により失望させてしまうことを、何より恐れていましたね」

Cさんは帰国後、しばらくの間、母親と一緒に住んでいました。しかし、「孫にまで信仰を強要しようとした」ことから悩んだ末に別居を決意。ひそかに賃貸物件を借り、母親には住所を告げないまま引っ越しました。それ以来、連絡を取り合っていません。

現在は教団や二人目の夫とも縁を切り、静かな日々を送っています。

母となったCさんは、親や教団と縁を切り、静かに暮らす(画像はイメージ)
母となったCさんは、親や教団と縁を切り、静かに暮らす(画像はイメージ) 出典: PIXTA

「この世界に生きていてもいい」と思える大切さ

臨床心理士の女性によると、親世代にあたる1世信者の中には、家族関係に配慮し、子どもに信仰を伝えることをためらう人もいるといいます。その一方、閉鎖的な環境で暮らす2世信者が、健全な自我を育めなくなりがちであるという問題は、依然として深刻です。

こうした状況について、女性は次のように分析します。

「1世信者たちもまた、宗教団体の思想に取り込まれている。すると『教義に適(かな)っているか』という基準で、わが子を評価するようになります。だから2世信者は『そのままの私でいいのだ』という感覚を持ちづらいのです」

「結果的に、彼ら・彼女らの中では、組織の一員としての自分と、本来的な自分との境目が曖昧(あいまい)になってしまいます。自らの価値観に基づき行動することも難しくなる。この点に、問題の根深さがあるように思います」

本来的な自分がわからないことは、2世信者の生きづらさの象徴だ(画像はイメージ)
本来的な自分がわからないことは、2世信者の生きづらさの象徴だ(画像はイメージ) 出典: PIXTA

2世信者が生き直す上で、不可欠な要素とは? 女性は「したいこと・すべきことを、自分の意思で決めること。したくないこと、すべきでないことを理解するのも重要です。『この世界に生きていてもいい』という認識を持つ必要があるでしょう」。女性は、そう指摘します。

足がかりになるものとしては、居場所づくりが挙げられます。具体的には、脱会者本人や家族でつくる「相談会」、信者同士で催す「オフ会」などです。そうしたグループに参加せずとも、定期的に会って語らえる人がいるだけで、自己肯定感の回復につながる場合もあります。

先に登場したMさんは、ブログを通じ知り合った2世信者たちと、居酒屋などでオフ会を開いてきた一人です。信仰を巡り家族と衝突した末、孤立してしまった人。組織から追放されたり、役職を奪われたりした人。参加者と苦悩を分かち合うことで、「つらいのは自分だけではなかったのだ」と実感できました。

面識のある2世信者の中には、脱会を考える人が少なくありません。しかし社会のしきたりになじめなければ、孤独に耐えかね、再び戻ってしまうことになります。Mさん自身、組織を飛び出た人から「これから何を頼ればいいのか」といった相談を受けることがあるそうです。そうした人々同士がつながれるよう、今も不定期でオフ会を続けています。

「学生時代の私に勉強を教えるといった形で、本当に良くしてくれた信者もいます。組織に属する人たちは、基本的には真面目で愛情深い。自分の本音と、組織の意向との間で板挟みになっている人には、これからも手を差し伸べていきたいです」

居酒屋などでの「オフ会」は、多くの2世信者にとって支えになっている(画像はイメージ)
居酒屋などでの「オフ会」は、多くの2世信者にとって支えになっている(画像はイメージ) 出典: PIXTA

組織の外で得られた、生きる手応え

親子の葛藤について語ったAさんは、高校を卒業後、宗教活動と並行し、地元のスーパーなどで接客の仕事をしてきました。その経験を生かしたいと、約3年前の冬、レジ打ちの技術を競うコンテストに出場。腕に覚えがある参加者がそろう中、上位入賞という好成績を収めました。

「それまでは、どれほど伝道活動で成果をあげても、『エホバのおかげ』という一言で片付けられてきました。このとき初めて、努力への正当な対価を得られたんです。自尊心を自ら賄ったことで、独り立ちするだけの力がある、と実感しました」

昨冬以降は、社会福祉法人の正職員として、障害がある通所者たちのケアに当たっています。最近、七夕など「異教」由来のイベントの企画も任されるようになりました。

利用者と同じ時間を過ごし、無条件に楽しさを分かち合う。ささやかながらも、掛け替えのない体験を通じ、豊かな感情を養っています。

「私は幸い、私自身を、そのまま肯定してくれる人たちに囲まれました。通所者の皆さんの人生をサポートできることは、大きな誇りです。懸命に取り組んだ結果、小さい頃から求めてきたものを、少しでも取り戻せるならうれしい。今は、そう思います」

組織の外側で得られた、生きる手応えが、今も彼女の背中を押しています。

※配信当初の記事中、特定の宗教団体に対する不適切な表現があったため、表現を一部修正しています。

Aさんを救ったのは、社会福祉法人で得た「生きる手応え」だった(画像はイメージ)
Aさんを救ったのは、社会福祉法人で得た「生きる手応え」だった(画像はイメージ) 出典: PIXTA
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