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連載

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#13 教えて!マニアさん

「芋虫の沼」に注ぐ愛 マニア集まる「いきもにあ」で見た幸せな風景

毛虫のグッズを手にする前畑真実さん
毛虫のグッズを手にする前畑真実さん 出典: 朝日新聞

目次

見つけてしまいました。キノコ、虫、無脊椎動物、粘菌……といった「生き物」に異常な愛を注ぐ人たちの祭典。その名も「いきもにあ」。生き物をモチーフにしたグッズ販売あり、一線の研究者の講演ありと大変濃い内容。全身、キノコになりきった人。毛虫愛を語ると止まらないユニット。会場で見たのは生き物への真摯な気持ちと、好奇心が広がる面白さでした。(朝日新聞記者・杉浦奈実)

「メジャーじゃない生き物」好き

ちなみに私、どんぐりが、好きです。秋、気づけばポケットに5、6個入っています。旅先で自分の住む地域にない種に出会うとにやにやしてしまいます。

私と同じように、ペットとは違う、ある意味メジャーではない生き物への愛を胸に秘めている人は多いと勝手に思っていました。

ただ、日常生活でばったり出会うことはなかなかない……。

「いきもにあ」には、そんな人たちが詰めかけていました。
会場につくと、入り口には長蛇の列。子どもからご年配、男女もばらばらで、一見して何のイベントなのか分かりません。しかし、よく見ると帽子についているカラフルなブローチがミジンコをモチーフにしていたり、肩から提げたカバンからハシビロコウが強いまなざしを送ったりしていることに気づきました。期待に胸が高鳴ります。

いざ、入場。会場は1階、中1階、2階とかなり広いのですが、200ほどあるブースにはどこもすぐに多くの人だかりができました。出展者の中には展示物にちなんだコスプレをしている人もいて、目を引きます。

熱気あふれる「いきもにあ」の会場
熱気あふれる「いきもにあ」の会場 出典: 朝日新聞

手作りキノコ衣装で「使えるキノコ」を販売

全身をキノコの衣装に包んだ「りんごきのこ」さん(@kinokomama5)に声をかけてみました。それは、なんというキノコですか?

「キヌガサタケです。『キノコの女王』と呼ばれていて、中国では高級食材なんです。ハエもついてます」

え、ハエ?

「キノコバエといって、キノコが頭から出す臭いにおいに寄ってきて、胞子をつけるんです」

見せてもらうと、確かに頭にプラ板でつくった透明な羽をもつハエが。キノコ部分も含め、全て手作りしたそうです。再現度がすごい。お客さんが「写真撮ってもいいですか」と声をかけてスマートフォンを向けていきます。
りんごきのこさんは、陶器で作ったキノコ型の入れ物やランプなどを売っていました。ランプはこびとが住んでいそうなかわいらしい見た目ですが、もちろんモデルがあります。ソライロタケ、タマゴタケ、ポルチーニと微妙な配色を再現しています。単に置物でなく「生活で使えるキノコ」を目指しているそうです。

趣味で陶芸を始め、何をモチーフにしようと考えた時に「色々な種があって面白い」と「ビジュアルから入った」というりんごきのこさん。10年ほど経った今では山にキノコを探しに行き、キノコに詳しい人からの意見も作品に反映しています。

自身の一番好きなキノコを尋ねると、キノコの傘の下で顔を覆い、うーん、としばらく考えたあと、「アカネアミアシイグチです。富士山に生えている、きれいなキノコです」と教えてくれました。
全身をキノコの衣装に包んだ「りんごきのこ」さん(@kinokomama5)
全身をキノコの衣装に包んだ「りんごきのこ」さん(@kinokomama5) 出典: 朝日新聞

芋虫毛虫「かわいい」からはまり込む沼

会場を見渡すと、万人受けしなさそうなブースに出会いました。

ありとあらゆる芋虫毛虫のグッズを扱う、「芋活.com」(@imokatsucom)。「昆虫エクスプローラ」で、webプロデューサー、写真家の川邊透さん(61)と、普段は伊丹市昆虫館にお勤めの前畑真実さん(49)のユニットです。

「かわいい虫の本」を作るという企画で出会った2人は、共著「癒やしの虫たち」出版後も、毛嫌いされることも多い芋虫毛虫の魅力を広めようとSNSや観察会を通じて活動しているといいます。
かわいい? むむ……と思いながら話を聞くと、川邊さんは本を手に取り、「例えば、これは『ネコ』の一種ですね」とサトキマダラヒカゲの幼虫の写真を示しました。
 
顔に2本の突起があって、確かにネコっぽい。本では「ミャーミャー」というセリフまで与えられています。
 
(……かわいいかもしれない)
 
脱皮を繰り返すごとに顔つきが変わっていく様子も収められています。
 
「これでわなをしかけているわけです」
 
かわいいから入り、キレイ、面白い、とテーマごとに芋虫毛虫たちが紹介されていき、果ては前畑さんによる「手乗り」も登場しました。
 
「入り口から入ってもらったら、そのあと『沼』が待ってるんでね。うんこするところも、擬態するところも面白い。かわいいばかりでなく、飼っていると例えば寄生バチにやられることもある。そういうところも含めて楽しみたい」
 
沼、深すぎます。
普段は伊丹市昆虫館に勤める前畑真実さん
普段は伊丹市昆虫館に勤める前畑真実さん

前畑さんは「最初は興味がなかった」ものの、食べる姿などにはまっていき、「触り心地もいい」とあらゆる種類を手乗りにしているといいます。

「乗せると、手の上で歩くんですよ。腹脚がぴたぴたして、楽しいんです」

お、おう。芋虫はいいとして、毛虫は触って大丈夫なんですか?

「毒があるのは一部です。それだけ覚えたら、それ以外は安全です。例えばこれはリンゴドクガっていうんですけど、毒はないので大丈夫。哺乳類みたいにふわふわのものもいますよ」

お気に入りの芋虫毛虫は「ネコ耳」のトビモンオオエダシャク。普段は「トビオ」と呼んでいるそうで、この日もトビオの形のネックレスをつけてきていました。

芋活.comのブース
芋活.comのブース 出典: 朝日新聞

マニアックすぎる革製品「無かったので作りました」

芋活.comで「芋虫毛虫、大丈夫かも!」という気分になった私は、「あまのじゃくとへそまがり」さん(@amaheso_sp)のブースで全長1メートルはありそうな「シャチホコガ幼虫のBAG」を見て再び固まりました。

革でできているようですが、リアルすぎませんか。他にも、ワレカラ、ヒメマメザトウムシ、カッコウのヒナ(托卵相手の卵を巣の外に押し出そうとしている)と、生き物のチョイスが「なぜそれを選んだのか」というものばかり。全て革製です。
 
ただ、前任地が佐賀だった記者としては、九州北部だけにいるアリアケスジシマドジョウと有明海の泥の中にいるワラスボ(見た目が「エイリアン」然としている魚。佐賀の居酒屋では主に干物を揚げたものが供される)がラインナップされているのはとてもうれしいです。思わず、心の中で「ありがとうございます」という言葉が出てきます。
 
あまのじゃくとへそまがりさんによると、始まりは「ダンゴムシのポーチがほしい」と思ったこと。
 
「無かったので自分でつくりました」
 
以来、独学で加工を学び、モチーフのために採取にも赴いています。「捕まえて感動した」など、出会いがあった生き物たちを作っているといい「不当な扱いを受けていたり、存在を知られていなかったり。人気者がいないんです」と笑います。
 
マニアックだなあと思いつつ、だからこそ、自分の「推し」の生き物がこんな愛のある再現度で作品になっていたら、迷わず買うな、と確信しました。
あまのじゃくとへそまがりさんの作品
あまのじゃくとへそまがりさんの作品 出典: 朝日新聞

キリン30頭を解剖した研究者

会場では第一線の研究者による講演もありました。席は200ほどありましたが、開演前に整理券が配られる盛況ぶりです。

講演内容はシジュウカラからウニまで多彩。その一人が、国立科学博物館の郡司芽久さん(30)です。

郡司さんの専門はキリン。アフリカに行ってフィールドワーク……ではなく、動物園でキリンが死んでしまった時、献体してもらった遺体を解剖して調べています。これまで、10年ほどで30頭以上を解剖してきたそうです。そんなに日本にキリン、いるんですね……。

キリンが死んでしまったという連絡があると、何があろうと予定を全てあけて駆けつけるそうです。

講演のテーマは……キリン!
講演のテーマは……キリン! 出典:https://pixta.jp/

郡司さんが研究に取り組んだのは、キリンの最大の特徴、首。2メートルあり、体重の約1割(平均的な個体では120キロ)を占めるといいます。その上にある頭が30キロくらい。「横綱白鵬関と同じくらいのサイズ感です」。なるほど。

キリンに一番近いといわれるオカピの体のつくりと比べるといった研究を通して、オカピではほとんど動かない、胴体の一部の骨「第一胸椎」が、キリンの場合は動くことを確認。

「胴体の骨であるにも関わらず、首の骨のようによく動く特殊な骨とわかりました。この骨により、他の動物よりも首がよく動くようです」

この機能があるおかげで、高いところの葉も食べられるし、地面の水も飲むことができるとのこと。

ちなみに、郡司さんお薦めの自宅でのキリンの楽しみ方は、Google map。アフリカの国立公園でもストリートビュー機能が使えるようになっており、ピンを打っておくと自分だけの動物園ができるそうです。

キリンの専門家、国立科学博物館の郡司芽久さんの講演
キリンの専門家、国立科学博物館の郡司芽久さんの講演 出典: 朝日新聞

否定せず尊重する幸せ

「いきもにあ」実行委員会によると、イベントは今回で4回目。生き物が好きで、生き物グッズも好きだったことから「集めたら、効率よく買い物ができるじゃないか」と思い立ち、生き物好きの有志に声をかけてはじまったそうです。

運営しているのは作家のほか、主婦や博物館のファン、サラリーマンなど様々。今年は約200ブースが軒を連ねました。 

参加者の熱気を通して学んだのはやっぱり生き物の世界は豊かだなあということです。

「芋虫、毛虫は嫌われがちだけど、よく見るとかわいい。嫌わないでほしいなと思います」

「芋活.com」のお二人の言葉からは、世間のイメージではなく、本物をじっくり観察したからこその実感の深さと、わくわく感を感じます。

出店者さんの多くが、見た目のかわいさ、かっこよさだけではなく、行動や、生態にまで目をこらし、こだわりを作品に反映させていました。対象の多さだけではなく、愛すべきポイントがそれぞれ違い、周りもそれを否定せず尊重するのを見るのは、幸せな時間でした。外来種問題に警鐘を鳴らすような作品もあり、将来にわたって愛する生き物を見るにはどうしたらいいのか、という「好き」から広がる気持ちの大切さも学んだ気がします。

主催者が大切にしていることは、好奇心が満たせるイベントにするということ。アートとしてのグッズを求めて来場したとしても、研究者の講演会などを通じて興味を広げてほしいといいます。

「来場者も出展者も『生き物好き』の気持ちを共有できる場所にしたいです」

2020年の「いきもにあ」は11月21、22両日に神戸で開かれる予定です。

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