連載
#13 教えて!マニアさん
「芋虫の沼」に注ぐ愛 マニア集まる「いきもにあ」で見た幸せな風景
見つけてしまいました。キノコ、虫、無脊椎動物、粘菌……といった「生き物」に異常な愛を注ぐ人たちの祭典。その名も「いきもにあ」。生き物をモチーフにしたグッズ販売あり、一線の研究者の講演ありと大変濃い内容。全身、キノコになりきった人。毛虫愛を語ると止まらないユニット。会場で見たのは生き物への真摯な気持ちと、好奇心が広がる面白さでした。(朝日新聞記者・杉浦奈実)
ちなみに私、どんぐりが、好きです。秋、気づけばポケットに5、6個入っています。旅先で自分の住む地域にない種に出会うとにやにやしてしまいます。
私と同じように、ペットとは違う、ある意味メジャーではない生き物への愛を胸に秘めている人は多いと勝手に思っていました。
ただ、日常生活でばったり出会うことはなかなかない……。
「いきもにあ」には、そんな人たちが詰めかけていました。
会場につくと、入り口には長蛇の列。子どもからご年配、男女もばらばらで、一見して何のイベントなのか分かりません。しかし、よく見ると帽子についているカラフルなブローチがミジンコをモチーフにしていたり、肩から提げたカバンからハシビロコウが強いまなざしを送ったりしていることに気づきました。期待に胸が高鳴ります。
いざ、入場。会場は1階、中1階、2階とかなり広いのですが、200ほどあるブースにはどこもすぐに多くの人だかりができました。出展者の中には展示物にちなんだコスプレをしている人もいて、目を引きます。
いきもにあー♡♡
— りんごきのこ (@kinokomama5) December 2, 2019
私思い切ってコスプした。誰も来なかったらどうしようと思ったのにクレバに吸い寄せられて沢山の方が見に来てくれました。笑顔になってくれました。着たいと言ってくれました。
ありがとう神戸。
テーブルのサイズ申し込み間違えたけど、私めちゃんこ楽しかったしん#いきもにあ2019 pic.twitter.com/aZURSnwl6o
近所のスーパーに買い出しに行く途中、道の真ん中にうずくまっているハマオモトヨトウ(Brithys crini)を見つけました。顔もかわいいけど、顔によく似たお尻が両生類っぽくてなごむ。まさか大みそかに #芋活 できるなんて…😊(エンチョー)#いもむしのおしり pic.twitter.com/u9Xx5FRgXL
— 芋活.com【公式】 (@imokatsucom) December 31, 2019
前畑さんは「最初は興味がなかった」ものの、食べる姿などにはまっていき、「触り心地もいい」とあらゆる種類を手乗りにしているといいます。
「乗せると、手の上で歩くんですよ。腹脚がぴたぴたして、楽しいんです」
お、おう。芋虫はいいとして、毛虫は触って大丈夫なんですか?
「毒があるのは一部です。それだけ覚えたら、それ以外は安全です。例えばこれはリンゴドクガっていうんですけど、毒はないので大丈夫。哺乳類みたいにふわふわのものもいますよ」
お気に入りの芋虫毛虫は「ネコ耳」のトビモンオオエダシャク。普段は「トビオ」と呼んでいるそうで、この日もトビオの形のネックレスをつけてきていました。
会場では第一線の研究者による講演もありました。席は200ほどありましたが、開演前に整理券が配られる盛況ぶりです。
講演内容はシジュウカラからウニまで多彩。その一人が、国立科学博物館の郡司芽久さん(30)です。
郡司さんの専門はキリン。アフリカに行ってフィールドワーク……ではなく、動物園でキリンが死んでしまった時、献体してもらった遺体を解剖して調べています。これまで、10年ほどで30頭以上を解剖してきたそうです。そんなに日本にキリン、いるんですね……。
キリンが死んでしまったという連絡があると、何があろうと予定を全てあけて駆けつけるそうです。
郡司さんが研究に取り組んだのは、キリンの最大の特徴、首。2メートルあり、体重の約1割(平均的な個体では120キロ)を占めるといいます。その上にある頭が30キロくらい。「横綱白鵬関と同じくらいのサイズ感です」。なるほど。
キリンに一番近いといわれるオカピの体のつくりと比べるといった研究を通して、オカピではほとんど動かない、胴体の一部の骨「第一胸椎」が、キリンの場合は動くことを確認。
「胴体の骨であるにも関わらず、首の骨のようによく動く特殊な骨とわかりました。この骨により、他の動物よりも首がよく動くようです」
この機能があるおかげで、高いところの葉も食べられるし、地面の水も飲むことができるとのこと。
ちなみに、郡司さんお薦めの自宅でのキリンの楽しみ方は、Google map。アフリカの国立公園でもストリートビュー機能が使えるようになっており、ピンを打っておくと自分だけの動物園ができるそうです。
「いきもにあ」実行委員会によると、イベントは今回で4回目。生き物が好きで、生き物グッズも好きだったことから「集めたら、効率よく買い物ができるじゃないか」と思い立ち、生き物好きの有志に声をかけてはじまったそうです。
運営しているのは作家のほか、主婦や博物館のファン、サラリーマンなど様々。今年は約200ブースが軒を連ねました。
参加者の熱気を通して学んだのはやっぱり生き物の世界は豊かだなあということです。
「芋虫、毛虫は嫌われがちだけど、よく見るとかわいい。嫌わないでほしいなと思います」
「芋活.com」のお二人の言葉からは、世間のイメージではなく、本物をじっくり観察したからこその実感の深さと、わくわく感を感じます。
スカシドクガ(Arctornis kumatai)は、成虫も幼虫もおまけに蛹までなんとなくクリスマスっぽくないでしょうか!??(エンチョー)#クリスマスっぽい虫#芋活 pic.twitter.com/DZmF1mzFUw
— 芋活.com【公式】 (@imokatsucom) December 24, 2019
出店者さんの多くが、見た目のかわいさ、かっこよさだけではなく、行動や、生態にまで目をこらし、こだわりを作品に反映させていました。対象の多さだけではなく、愛すべきポイントがそれぞれ違い、周りもそれを否定せず尊重するのを見るのは、幸せな時間でした。外来種問題に警鐘を鳴らすような作品もあり、将来にわたって愛する生き物を見るにはどうしたらいいのか、という「好き」から広がる気持ちの大切さも学んだ気がします。
主催者が大切にしていることは、好奇心が満たせるイベントにするということ。アートとしてのグッズを求めて来場したとしても、研究者の講演会などを通じて興味を広げてほしいといいます。
「来場者も出展者も『生き物好き』の気持ちを共有できる場所にしたいです」
2020年の「いきもにあ」は11月21、22両日に神戸で開かれる予定です。
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