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選挙のため「世界中から帰郷」する台湾人 学生も社会人も弾丸移動
1月11日、世界中の台湾人が故郷に大移動しました。旧正月の1月24日でもないのになぜ? 実はその日、台湾人にって「最も大事な日」なのです。選挙のたびに投票率の低さが話題になる日本では考えられない「台湾人の大移動」から、政治参加の大切さについて考えます。
1月11日、それは台湾の総統選の投票日です。
台湾の憲法では、「国外の中華民国自由地区の人民は帰国しその選挙権を行使する」(憲法増修条文2条)と定められています。「中華民国自由地区」は台湾を指しています。つまり、外国にいる台湾人が投票するためには、海外から帰郷しなければならないのです。
さらに、不在者投票などの期日前投票制度がなく、投票地も現住所でなく戸籍のある場所になっているため、台湾内でも投票日の前は、大量の台湾人が帰省します。
台湾人の「大移動」は外国からも注目されており、BBCの中国語版は、例年よりも多くの海外の台湾人が帰郷していると伝えてます。記事では、ニューヨークでの仕事の合間を縫って、30時間をかけて11日に台湾に帰郷した人を紹介しています。投票をしたらまたすぐアメリカに戻るそうです。
帰郷するのは、社会人だけではありません。世界各地にいる留学生たちも、大移動をします。
フェイスブックでは、「2020 海外青年回臺投票計畫」(2020年海外青年が台湾に戻って投票計画)という公開グループが作られ、世界各地の台湾人留学生が交通状況の確認など、連絡を取り合っています。
アメリカ、フランス、イギリス、イタリアなどから20時間以上をかけて帰郷する留学生の投稿もあり、日本や韓国などから帰る留学生も少なくありません。
フェイスブック上では、今回の大移動によってチケットも割高になっていることが報告されています。また学期が終わっていないため、投票したらすぐに戻らないといけない留学生も多数います。
それでも、海外の台湾人たちは、投票するために帰郷を選んでいます。
多額の交通費、また時間とエネルギーがかかることはいうまでもありません。そのため、学生を支援する人も現れています。
台湾国立交通大学特任教授の林志潔(リン・チジエ)さんもその一人です。
彼女の呼びかけで、台湾国立交通大学の学生会は、台北から本籍地に帰郷する学生の負担を減らすため、1月10日に特別に「帰郷投票列車」の制度を設けました。
台北から新竹より先に行く場合、そこまで行っても一律440台湾ドル(約1600円)になるよう補助をします。家庭の所得によっては、半額になったり、無料になったりもします。
お金も時間もかけて帰郷する理由は、「投票こそ最も最も重要な意見表明」(林志潔特任教授)という思いがあるからです。
さらに、香港で民主化を求める市民と中国当局が衝突していることを受け、台湾の若者の間では「今日の香港は、明日の台湾」という合言葉も生まれています。
現在の総統、蔡英文氏が率いる民進党は、台湾独立を目指し、中国大陸が提案した「一国二制度」を真っ正面から拒否する姿勢を取ってきました。一方、民進党に対抗する国民党は中国大陸と関係が近いと言われています。
そんな周辺の国際情勢も、海外の台湾人、特に若者の投票を促しているようです。
日本では若者の投票率の低下が問題になっています。2019年にあった参院選では、18歳は34.68%、19歳はわずか28.05%にとどまりました。政治状況が違うとはいえ、隣の台湾で盛り上がる大移動には、政治に対する当事者意識の高さが伝わってきます。
日本に住む台湾人の一人は、2016年の総統選の時は台湾には戻りませんでした。しかし、香港の情勢を見て、民進党に投票するため今回は帰郷を決めたそうです。その理由について次のように語りました。
「なんと言っても投票を通して自分の意志を表現しなければならないですから」
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