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IT・科学

1958

「特務機関NERV」が本気だした災害車両 話題作りに終わらない狙い

災害対策車「特務機関NERV制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」
災害対策車「特務機関NERV制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」

目次

「新世紀エヴァンゲリオン」の中に登場する組織「特務機関NERV」は、Twitterで災害情報を発信する存在として知られている。東日本大震災では、作品をモチーフとした「ヤシマ作戦」という節電を盛り上げる取り組みを主導。版元からは非公式ながら公認を受けるまでになった。その「特務機関NERV」を運営するゲヒルン株式会社があらたにプロデュースしたのが災害対策車両だ。自動車メーカーや衛星放送会社、政府も参加するこのプロジェクト。「特務機関NERV」の活動から、「まじめ」に「効果的」に伝える災害情報について考える。(FUKKO DESIGN・木村充慶)

「WiFiつき移動する巨大電池」

車両製作の布陣からは関係者の本気度が伝わってくる。ゲヒルンとともに、三菱自動車、スカパーJSATが参画、さらに協力として内閣府も入っている。

車両は三菱自動車が提供する「アウトランダー PHEV」。高出力モーターと大容量バッテリー、そして2.4Lエンジンを採用したSUVタイプのハイブリッドEV。

通常のガソリンと電気自動車の両方の機能がある、この車は、いわば「移動する巨大電池」。100VのAC電源のコンセントを車内に二つ備えており、合計で1500Wの電力を取リ出せる。一般家庭でいうと最大約1日分、エンジンでの発電も組み合わせると、ガソリン満タン状態でなんと最大約10日分の電力量を家庭に供給できる。

車体横に掲げられたロゴ
車体横に掲げられたロゴ

「WiFi」機能も備える。スカパーJSATが提供する衛星通信サービス・平面アンテナ端末が装備され、高性能なアンテナによりスカパーJSATの衛星にすぐに接続し、簡単にインターネット通信ができるという。

さらに、内閣府の準天頂衛星システム戦略室からは衛星安否確認サービス「Q-ANPI」端末を貸与され、車両に搭載している。「Q-ANPI」は災害時に準天頂衛星「みちびき」を経由して、避難所の場所や人数など様々な情報を収集・発信するためのもので、インターネットによる通信に加えて、別の情報共有・発信のためのツールも装備したことになる。

悪路にも強く、非常時に電源供給が行えるSUV車両に、どこでも簡単にネットにつなげるアンテナを備え付け、避難所の情報を衛星を通じて収集発信できる端末を搭載したのが災害対策車両なのだ。

車両上部に備え付けられたアンテナ
車両上部に備え付けられたアンテナ

災害対策のモデルとして紹介

どんな時に出動するのか。

災害発生時、停電などで「特務機関NERV」の情報発信を行うシステムが使用できなくなった際に利用することが主となっている。

自社のシステムが問題ない場合は被災地に派遣し、災害対策本部や避難所などで利用してもらう。また平時には全国各地の防災イベントなどに参加して、災害対策のモデルとして紹介していきたいという狙いもあるという。

ツイッターでさっそく話題に

今年、各地で甚大な被害を及ぼした台風15号や19号などでは様々な場所で電気自動車が活用されたことは記憶に新しい。

その後、様々な自治体で自動車会社が協定などを結んだり、電気自動車の利用の動きは加速しているが、まだまだこれからというのが実情だ。

一方、この車両の注目するべきところは、各地の被災地での利用実態も踏まえつつ、車両としてかっこよく〝パッケージ〟している点にある。

様々な装備がありつつも、それを「特務機関NERV」の世界観でしっかりまとめあげている。

「特務機関NERV制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」という車両の名前、車両の各所にバランスよく配置されたエヴァンゲリオンを感じるデザインの数々、ファンでなくても欲しくなってしまいそうな魅力的な車両に仕上がっている。

SNS上でも今回の取り組みについて好意的な投稿が多いが、多くの人に関心をもってもらうためにはこのようにコンテンツを生かした”パッケージ”力が大事だ。

コンテンツへのこだわり

車両をプロデュースしたゲヒルン株式会社代表取締役の石森大貴さんと、専務取締役の糠谷崇志さんによると、車両は着想から約1年であっという間に作り上げたという。

「もともとは年初の飲み会の席で出たアイデアだったんです。その場で盛り上がったのだが、そこで終わりにしたくなかったので、次の日から各所に掛け合い、粘り強く交渉しました。そして、1年かけてようやく実現できました」(石森さん)

加えて、石森さんはエヴァンゲリオンの版元とも良好な関係を築いているのも見逃せない。

アイデア力、それを実現する開発力、推進するプロデュース能力に、コンテンツに対する思いがなければ、実現しなかっただろう。

「もともと非公式でやっていたアカウントを版元の好意もあって“非公式”の公認としてやらせてもらっている」と石森さん。

「どんなにささいなことでも〝エヴァ〟や〝特務機関NERV〟という言葉が出る場合は必ず版元に確認する」

そんな積み重ねによって、東日本大震災の際に、非公式ながら公認を受けてから8年以上この良好な関係が続いている。

車両をプロデュースしたゲヒルン株式会社代表取締役の石森大貴さん(左)と、専務取締役の糠谷崇志さん
車両をプロデュースしたゲヒルン株式会社代表取締役の石森大貴さん(左)と、専務取締役の糠谷崇志さん

防災という目的も忘れない

先日公開された「特務機関NERV」アプリでは、使用するフォントについて「このフォントを使ったら、反応するファンがいるかもしれない」と語るなど、細部に至るまで様々なこだわりがちりばめられている。

とはいえ、何でもかんでもコンテンツに寄せるわけではない。

初期の画面デザインにおいては、エヴァンゲリオンの世界観に寄せて紫色をデザインに使うという話もあったという。

ただし、「それだとアプリとして見づらい。赤や紫は気象庁が使う警報色のため、現実の災害と区別がつかなくなる。何より災害時に使ってもらえるようにする必要があるので、時にはコンテンツの世界観とは異なる場合がある」と糠谷さんはいう。

あくまで防災アプリとしての使いやすさを大事にする姿勢も忘れない。

特務機関NERV防災アプリ
特務機関NERV防災アプリ 出典: https://nerv.app/

震災から8年間の積み重ね

近年、自然災害が頻発しており、防災情報の発信はますます重要視されている。警察や消防なども、ツイッターなどを通じて、情報をわかりやすく伝えようとする取り組みは広がっている。

同時に、災害が起きていない平時に関心を持つのは、なかなか難しいのが現実だ。

人気のコンテンツを活用したり、著名なクリエーターがデザインしたり、工夫を凝らした防災情報が生まれている背景には、何かが起きてからでは遅いという発信者側の危機感がある。

その中でも、「特務機関NERV」は特に効果的に情報を発信しているように感じる。ベースには、東日本大震災からの8年間という期間に、防災情報を発信してきた中で培った、確かな技術や知識がある。

その上で、コンテンツの文脈を生かして、ファンのみならず、様々な人々の関心を集めながら情報を発信し、結果、多くの人々に信頼されるものとなっている。有名人や人気作品の知名度ありきではない、防災への向き合い方は、アプリのデザインを実用性に寄せた判断にも現れている。

今後、ますます防災についての情報発信力が求められる。「特務機関NERV」のコンテンツを生かした取り組みから学ぶことは少なくない。

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