IT・科学
改元も祭り化、「平成最後の日」象徴となった「120フォロワー」の人
2019年にTwitterで最も話題となったツイートや出来事を振り返る「#Twitterトレンド大賞2019」では、「平成最後の日」が選ばれました。個人から大企業、官公庁の公式アカウントまで、様々なユーザーがいるTwitter。「改元の日」の使われ方から見えたのは、「会話の盛り上がり」というフィルターを通して世の中を立体的に見せてくるTwitterの機能の存在感でした。
「#Twitterトレンド大賞2019」は、2019年にTwitter上で話題となった単語から上位20個をトレンドワードとして発表するものです。
2018年は「W杯(サッカー)」だった大賞、2019年は「平成最後の日」が選ばれました。「#令和」は、部門ごとの賞として「ニュース部門」の1位に選ばれてはいますが、全体としては、4月30日という日付自体が関心を集めたことになります。
Twitterには、474万フォロワーの「スターバックスコーヒー」(@Starbucks_J)や、273万フォロワーの「首相官邸(災害・危機管理情報)」(@Kantei_Saigai)など、企業や官公庁のアカウントで影響力のあるものも増えています。
一方で、企業アカウントの場合はクーポン券などのキャンペーンによる効果が大きかったり、官公庁は災害情報が主な内容だったり、一方通行の発信になることが少なくありません。
「平成最後の日」には、4月30日というタイミングをユーザー同士が一緒に盛り上げるという側面が強く出ています。投稿される文章よりも、一緒に過ごす時間そのものを価値としてとらえている。その参加者は、特定の個人や企業でなく、あくまで個人のつながりであることが見えてきます。
同じように、会話の盛り上がりとして注目されたのが、2位に選ばれた「ラグビー」でした。
米クリムゾン・ヘキサゴン社のソーシャルメディア分析システムを使って調べたところ、「ラグビー」という単語が最もツイートされたのは史上初の決勝トーナメント進出を決めた日本―スコットランド戦があった10月13日で、約98万回使われました。次に多かったのは南アフリカに準々決勝で敗れた10月20日の約63万回でした。
見逃せないのが11月2日にあった南アフリカ―イングランドの決勝戦でも26万回使われている点です。これは10月5日あった日本―サモア戦の29万回の匹敵する規模です。日本代表が敗退した後も、ラグビーの盛り上がりが続いたことが見て取れます。
振り返ると、「にわかファン」という言葉も生まれたラグビーW杯ですが、1カ月以上ある期間の中で、ルールや海外チームについて関心を持ち、知識をつけた人が増加していきました。
試合結果という一方通行の情報だけを求めるのなら、日本代表敗退と同時に、関心は薄れていたかもしれません。ツイッターの投稿数のデータからは、最終的には「一流プレー」を、ツイッター上の会話を通して楽しむ人が生まれていたことがうかがえます。
昭和天皇崩御による改元だった30年前は、テレビからCMが消え世の中が自粛の色に染まりました。2014年5月には、一般人とみられるアカウントから上皇ご夫妻(当時は天皇ご夫妻)の写真がツイッターに投稿され、皇室のタレント化の現れだとして話題になったこともありました。
そして、今年、令和への改元に対しては「平成最後の日」が象徴するように、イベントとしての性格が強く出ました。自粛の雰囲気はもちろんなく、同じ話題について時にジョークを挟み込みながら投稿を重ねるネット上の「祭り」と呼ばれる現象に近い盛り上がりを見せました。
「#Twitterトレンド大賞2019」では、単語にまつわる人物を表彰します。「平成最後の日」のゲストとして呼ばれたのは、「平成ありがと」とツイートした120フォロワーの@ieppinさんでした。
平成ありがと😌#Twitterトレンド大賞 pic.twitter.com/48rSFu9LmF
— トレンド大賞2019🏆 (@TrendAward) December 26, 2019
個人の情報発信には、本当かどうかわからない内容も含まれるため、誤った情報や偏った意見を拡散させてしまうという指摘があります。
2019年10月に出版された田中辰雄さん、浜屋敏さんによる『ネットは社会を分断しない』(角川新書)は、Twitterやネットメディアが異なる意見を持つ人との距離を広げて社会の分断を引き起こしているという説に対して、疑問を投げかけます。
年代別にネット上の発信内容を調べた結果、ネットに親しんでいるはずの若い世代ほど、バランスよく様々な意見に接していることがわかったことを紹介しています。同時に過激な意見を発信するのは、もともと極端な考えを持っていた中高年の世代であることも指摘しています。
『ネットは社会を分断しない』の分析からは、Twitterをはじめネットの仕組みを理解している世代は、ネット上にあるたくさんの情報チャンネルを組み合わせて使っている様子が見えてきます。一方で、ネットに慣れていない世代は、偏った意見に固執し、同じような意見が飛び交う狭い世界でさらに考えを狭めてしまう負の連鎖に陥りやすくなっている実態も浮かび上がらせました。
Twitterは、改元もラグビーも「会話の盛り上がり」というフィルターにかけた後に見える姿を映し出してくれました。Twitterで話題になった単語は、メディアやインフルエンサーが発信する情報だけではわからない世の中の一端を伝えてくれます。
同時に、そこに現れるのはあくまで「会話」であり、起点となった情報が別にあるかもしれないことも事実です。「#Twitterトレンド大賞2019」は、Twitterが様々な情報を組み合わせることで、さらに世の中を立体的に見せてくれるサービスであることを示した結果だったと言えるのではないでしょうか。
1/4枚