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そのマヨネーズ、必要? 「ストップ・マヨハラ党」芸大生が旗揚げ
今年9月、東京芸術大の学園祭である選挙ポスターに釘付けとなりました。そこには「ストップ・マヨハラ党 戸澤遥」とあります。そして、「そのマヨネーズ、本当に必要ですか?」と問いかけてきます。マヨネーズが特別好きではない私にも、その気迫が伝わってくる。。。どういうことなんだ……? 動揺を隠しきれないまま、「党首」の戸澤遥さんに真意を聞いてみることにしました。
党首の戸澤遥さんは現在東京芸大のデザイン科2年生。ポスターについて伺うと、マヨネーズに関する幼少期のつらい経験について語り出しました。
――ストップ・マヨハラ党を立ち上げるきっかけは何ですか
幼いころから私はマヨネーズが苦手でした。そして、保育園に通ってた時のある日、昼食でゆで野菜が出て、そこにわーっとマヨネーズがかけられていました。どうしても食べられずに残していると、保育士さんの1人が「好き嫌いはしちゃダメですよ」って無理やり口に突っ込んできたんです。マヨがたっぷりかかったにんじんを。もう完全にトラウマになりました。
――そもそも、マヨハラって何ですか
マヨネーズは好きな人が圧倒的に多く、苦手な人は完全に少数派です。苦手だけれど少しくらいなら食べられるという人も多いです。私のような全く食べられない人にとって、「マヨは食べられて当たり前」という風潮そのものがハラスメントになるのです。「マヨという愛される食べ物が苦手であること」が私たちをマヨハラに導いて、生きづらさにつながってしまうのです。
――マヨネーズ苦手で困ることはどんなことですか
コンビニで買う時は裏の表示が見られますが、飲食店で食べるときには特に困ります。アレルギー物質の表示はあっても、マヨネーズは好き嫌いの範疇だから書いていないし。例えばサラダを頼むと、当たり前のように横にいるじゃないですか。横にいる分には良いんだけれど、全体にわーっとかかっているともう食べられない。
マヨネーズがペースト状である点も問題です。マヨは使い勝手がよく色んなメニューに隠し味などとして入れられますが、入っているとまわりの味を巻き込んできます。隠れマヨに結構遭遇するんですよ。それで食べられないでいると「戸澤、好き嫌い多くね?」っていわれる。でも、「マヨがなければ食べられるんだよ」っていうものばかりなんです。
――マヨネーズならではの問題も多いんですね
お好み焼きもたこ焼きもめちゃ好きなんですけれど、マヨは別になくてもいい。確かにビジュアル的には黒塗りのソースに白いマヨがあったほうがきれいだけれど、私は漆黒の大地の方がいい。でもかけるのが当たり前だったりするからかけないでくださいと言うと、店員さんが「えっ!かけないんですか!」って思いも寄らない表情をされたり、「わかりました、かけないんですね」と言ったのに、習慣でかけちゃって出てきたりすることもあります。
戸澤さんが立ち上げたストップ・マヨハラ党。「寄り添い、共存する。」というポリシーのもとでマヨネーズ好きとマヨネーズ嫌いが共存できる社会の仕組みづくりを目指していくといいます。具体的な政策などについて聞きました。
――党としてはどのようなことを目指したいのですか
私はマヨネーズが苦手だし、食べません。でも食べる人のことを否定するとか、マヨネーズそのものを悪いと否定するものではありません。苦手なのは私の勝手で、何が問題かというとマヨネーズが氾濫している状態がダメなんだと。マヨが存在してはダメというのは安易な考えだと思っています。
その上で、マヨネーズが苦手なことによる受難は大きく四つに分けられます。
課題(1)かかっているのが当然なため、よけられないこと
課題(2)食べてみて初めて使われていることに気づくこと
課題(3)広く使われているため、食べられないものが増えてしまうこと
課題(4)嫌いな人が多い食材と違い、深刻さが認識されにくいこと
これらへの対策が必要と考えているのです。その有効な対策としては、以下の三つをあげています。
対策(1)とりあえず料理にマヨネーズを入れるという「とりマヨ」の意識改革
対策(2) マヨネーズを使用したメニューに成分表示を徹底させる「分マヨ」の徹底
対策(3)好きで当たり前だという風潮を押しつけてくる「マヨハラ」の撲滅
――新しいことばが並んでいますね
まずは、とりマヨの意識改革。先ほど言ったように、マヨは隠し味や下ごしらえなどでも使われ、前菜からデザートまでさまざまな料理に現れます。ポテトサラダのようなマヨがないと成立しない料理は仕方ないですが、無くても良いはずなのに足されちゃって食べられなくなってしまうものもあります。なので、料理を提供する側の「とりあえずマヨネーズを入れる」という意識を変えていきたいのです。この意識改革は、マヨがなければ食べられたはずの料理を残してしまうという食物ロス対策にもなります。
二つ目は分マヨです。これは分煙と同じ発想で、マヨネーズのある料理とない料理をはっきりさせることで、苦手な人がマヨに遭遇する危険をさけることが狙いです。方法は二つあり、一つはメニューへの表記を徹底すること、もう一つはしょうゆやソース、タバスコのようにテーブルに置いて自由にかけられる状態にして好きな人がかけるスタイルにすることです。
三つ目の政策はマヨハラの撲滅。改めて言うのですが、マヨネーズが食べられる人ならば全く気にも留めないことが、苦手な人にはハラスメントになっています。マイノリティであるマヨが苦手な人の声に耳を傾けて、お互いの立場を認め合いたいのです。マヨが苦手な人がなぜ苦しいのかというと特殊な状況があってそれを考察してほしいと。単にマヨ自体がダメなのではなく、好きな人も嫌いな人も気持ちよく暮らしていきましょうねという党なのです。
完成度の高い「ストップ・マヨハラ党」ですが、これはパロディー。「チャーミングに異を唱えよ」というテーマが課された課題で戸澤さんがつくりあげた作品です。なんで、選挙を選んだのでしょうか?
――なぜこの作品を作ろうと思ったのですか
ばかばかしいじゃないですか、マヨネーズでここまでやるって。そのばかばかしさが面白いかなと思いました。世の中に対して何かおかしいよねと思うことに自分なりに提案するという課題。実感を伴っていないと難しいし、突き詰めるときにそこまで「おかしい」と思っていないと伝わる作品にならない。だから、ずっと思い続けているマヨネーズを題材にしました。
――ワンイシュー政党(単一争点を訴える政党)が海外や日本で話題になっていますが、意識したのですか?
あまり意識していません。というのも、「マヨネーズが苦手」ということを伝えるためにどうすれば良いか考えた結果、「大まじめにやることが一番」と思って政党を選びました。私の創作活動の方向性として、もともとあるフォーマットに私の要素を入れるのが好きなんです。それが今回、「政党・選挙」というフォーマットに「マヨネーズが苦手」という要素を入れて、インパクトを与えるということにつながりました。あ、厳密に言うと、これは政党の要件を満たしていないので政治団体ですが。
――選挙についても勉強したんですね
少しですが、選挙管理委員会のHPを見るなどして勉強しました。例えば、街に貼るポスターは大きさが決まっているのでそれにあわせた大きさにするとか。作品に合わせて政見放送もつくったのですが、これも実際の政見放送を参考にフォントなどをあわせていきました。
マヨネーズについても調べました。要はこの作品はマヨネーズをディスっているわけだから、それをやるからには向こうへのリスペクトも忘れないようにしないと暴走するので。マヨネーズの語源や、栄養価が高いこと、まろやかな口当たりにするための工夫などいろんなことを勉強しました。そうすることでマヨネーズを作っている人の真剣さを学び、マヨネーズ自体ではなく、マヨネーズを使っている社会の状況の方に焦点を当てようと実感しました。そのため、政党名もあくまで「ハラスメントを止めて」という意味のものにしました。
――どんな反響がありましたか
課題発表では、面白かったねと反応がよく、教授も爆笑していました。あと、マヨネーズが苦手な人はクラスメイトにも2人いて、1人は全然ダメ。もう1人は「サンドイッチを食べたいから克服した」と言っていました。作品がクラスメイトとの会話の新しいきっかけになったことも面白いと感じました。
――この課題を通してどんなことを学びましたか
この課題をやって良かったと思うことがあって。それは自分のやりたいことをやって、それが面白いという反響があったことです。
まわりにはインターンに行っている人や積極的に作品を発信している人、そして自分のやりたいことや就職の方向性がはっきりしている人がいましたが、大学1年生までの私は入ったはいいがどうしようと、うーんとなっていました。無理やりデザイン科っぽい作品を考えたこともあるし、美大生らしい振る舞いをしようとか、ギャグっぽい雰囲気で笑わせることを封印しようとした時期もありました。
でも、自分の違和感なくやっていることを封印すると、なんにもない人になってしまうんですよね。もう好きなことをやってくださいと言われた課題で、そのまま自分が普段から思っていた言葉で人を引き込んでいくことができて、楽しくなりました。これはデザインなのかはかわからないけれど、でも生き生きとしてやっていたし、まわりからも面白いねと言われる作品ができたのは、良かったなと思います。
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