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ザギトワ引退騒動「復活のスケーター」がくれる感動 重なる真央の姿
フィギュアスケートの羽生結弦(ANA)や宇野昌磨(トヨタ自動車)らが熱戦を繰り広げた全日本選手権は22日閉幕した。一方、ロシアでは世界選手権代表をかけたロシア選手権が26日から始まった。しかし、そこに平昌五輪女子金メダリストで世界女王のアリーナ・ザギトワ(17)の姿はない。引退を心配する声さえ上がっている。日本でも2016年世界ジュニア女王の本田真凜(JAL)がシニアで伸び悩み、復活の途上だ。過去には一時競技から離れたり、成績が落ち込んだりしても復活した選手が何人もいる。浅田真央、鈴木明子、ロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ、イタリアのカロリナ・コストナー……。再びトップの舞台で輝いたスケーターを紹介する。
女子はいまやトリプルアクセル(3回転半)や4回転の高難度ジャンプを争う時代になっている。12月にあったグランプリ(GP)ファイナルで表彰台に上がったのは今季シニアに参戦したロシアの3選手だった。
優勝したアリョーナ・コストルナヤ(16)は高さのある安定したトリプルアクセルを持つ。2位のアンナ・シェルバコワ(15)と3位のアレクサンドラ・トルソワ(15)は男子顔負けの4回転を跳ぶ。シェルバコワは4回転ルッツ-3回転トーループを決め、トルソワは4種類5本の4回転に挑んだ。
一方、6位に終わったザギトワの得点源は3回転ルッツ-3回転ループ。完璧にジャンプを跳んでも技術点では彼女たちにかなわない。
ロシアでは才能のある若手が次々と現れ、そして引退していく。
エレーナ・ラジオノワ(2015年世界選手権3位)やアンナ・ポゴリラヤ(2016年同3位)ら世界選手権のメダリストでさえ五輪の舞台に立つことは難しく、2大会連続の五輪出場はさらに険しい道だ。2014年ソチ五輪団体金メダルのユリア・リプニツカヤは摂食障害を理由に引退。同五輪女子金メダルのアデリナ・ソトニコワも競技から遠ざかっている。
その状況を、2012年世界選手権銀メダリストで長く競技生活を続けたロシアのアリョーナ・レオノワ(29)は「まるでサムライみたい」と例えた。そして「若い選手たちは成長期を乗り越えるのが大事。いまだけじゃなくて4年後でも難易度の高いジャンプを見せられるようにしなければいけない」と語った。
五輪後は休養を取る選手もいるが、ザギトワは試合に出続け、昨季の世界選手権でも優勝した。
だが男子並みのジャンプを跳ぶ選手たちがシニアデビューした今季は苦戦を強いられた。そして先日、ロシアの国営テレビに出演し、試合欠場の意向を明かし、一部では「引退宣言」とも報じられた。
だが、ザギトワは自身のインスタグラムで「コーチ陣に対し、私たちが一緒に成し遂げたことへ、一生感謝し続けたいと思っています。そして、私は活動休止も『引退』するつもりもありません」とつづり、報道を否定した。
ザギトワが再び競技に戻る可能性は十分ある。過去には競技から離れたり、成績を落としたりしても再びトップに戻ってきた選手は何人もいる。
例えば2010年バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央(29)。2014年のソチ五輪後、「休息が必要と思った。たくさんプレッシャーがあったし、神経を集中した練習の負担が体にも心にもあった」と1年間休養した。
2015年5月に現役続行を表明。国際大会復帰戦となったGPシリーズ中国杯で優勝し、世界選手権にも出場した。翌シーズンはけがに悩まされ、全日本選手権は12位。2017年4月、平昌五輪を前に競技生活に別れを告げた。
「もう一度自分でチャレンジすることができてよかった。やり残したことは何だろうと思うことがなかった。それだけ全てやり尽くした」
重圧の中で常にトップで戦い続けた彼女の姿を忘れることはないだろう。
2012年世界選手権3位の鈴木明子(34)は大学進学後に摂食障害になり、一時競技を離れた。24歳でバンクーバー五輪代表に選ばれ、2013年には13回目で最後となる全日本選手権で初めて頂点に立ち、2014年ソチ五輪にも出場した。
その年、日本で開催された世界選手権を最後に引退。「世界選手権の舞台でたくさんの人に見届けてもらい、全うできたことは世界一幸せなスケーターだと思っています」と振り返った。
ロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ(23)は2011年GPシリーズ初出場で2連勝し、GPファイナルに進出。14年のGPファイナル、15年の世界選手権を制した。その後はザギトワら若手の台頭で伸び悩んだものの、昨季トリプルアクセルを武器にGPファイナル表彰台に上がるまで復活した。
「私はこれまで山あり谷ありで、たくさんの経験をした。それが私のスケート。私は他の誰かと戦っているのではなく、(試合を)楽しんでいる」
バンクーバー五輪4位で米国の長洲未来(26)は20歳を過ぎてから安定してトリプルアクセルを跳べるようになった。ソチ五輪は逃したが、24歳でのぞんだ平昌五輪では伊藤みどり、浅田真央に次いで史上3人目のトリプルアクセル成功者となり、団体銅メダルも獲得した。
イタリアのカロリナ・コストナー(32)も長く現役を続けている一人だ。
地元開催の2006年トリノ五輪で9位、2010年のバンクーバー五輪は16位だった。10回目の2012年世界選手権を25歳で初制覇し、2014年ソチ五輪で銅メダルを獲得した。その後、元恋人のドーピング隠しに協力したとして21カ月の資格停止処分を受けた。それでも大学に通ったり、バレエを習ったりしながらスケートを続け、平昌五輪にも出場した。
「私はスケートが大好きで、14、15歳のときから変わっていません。母はいつも『あなたがスケートを愛している限り、続けてください』と言ってくれます。私は年齢が問題だとは思っていません。私は今、自分の年齢を大いに楽しんでいます」
そして若手へのメッセージとしてこう語った。
「恐れるのは、落ち込んだり、間違いを起こしたりすることではありません。大事なのは、そこから元に戻ることです」
今夏、日本のジュニア強化合宿のコーチとして参加した際も「競技に戻りたい」と話していた。2026年には地元イタリアで開催されるミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を控えている。
表現力が魅力の本田真凜は昨年の全日本選手権15位から今年8位に浮上し、フリー後は笑顔も見られ、復調の兆しを感じさせた。演技後のインタビューでは、シーズンオフに出演したアイスショーが一つのきっかけになったことを明かした。
ベテランの持つ表現力で戦うこともできるし、成長期を過ぎてから難しいジャンプを跳べるようになる選手もいる。
ザギトワはスケートを続けるモチベーションについて「スケートへの愛があるから」と言い続けてきた。そして昨季の世界選手権ではこうも語っていた。
「1分後、明日起きることはわからないので今日を頑張る。いまは自分のため、観客のみなさんのために滑りたい」
きっとまたザギトワの素敵な演技を見られる日が来るだろう。その復活を待ちたい。
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