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夫婦で裁判官、家族の「日常」聞いてみた 転勤は?子育ては?

夫婦で裁判官の寺田さや子判事(左)と寺田利彦判事
夫婦で裁判官の寺田さや子判事(左)と寺田利彦判事 出典: 朝日新聞

目次

今年の5月に松山に赴任してから、法曹関係者の間で「裁判官の夫婦が歩いていたよ」という目撃談を耳にするようになりました。法廷での厳しい姿が印象的な裁判官ですが、もちろんそれぞれ家庭や子育てと折り合いをつけながら働いています。一方で、社会的にはエリートと呼ばれる立場であることは否定できません。夫婦そろっての転勤が珍しくないという裁判官の世界。今年春に松山に赴任してきた2人の話から、ワーク・ライフ・バランスについて考えてみました。(朝日新聞松山総局記者・足立菜摘)

出会いは初任地、3年ごとの異動

<話を聞いたのは、松山地裁民事部の寺田さや子判事(43)と、松山家裁の寺田利彦判事(46)。中学1年生と4歳の息子さんと、家族4人で松山に住んでいます。まず、裁判官の転勤について。法曹の中でも、裁判官と検察官は任官されると定期的な全国転勤が生涯続きます。裁判官の場合、異動は基本的に3年ごと。人事権は最高裁にあり、全国の地裁や家裁などをまわります>

――寺田さん夫婦は、どのような転勤をされてきましたか?

利彦さん「私たちは同期なので、2人とも2001年10月に任官し、私は初任地が仙台の民事部でした」

さや子さん「私は初任は仙台の刑事部でした」

利彦さん「初任地で知り合って、2005年、初任明けの次の任地で結婚しました。私は奈良地裁」

さや子さん「私は大阪地裁堺支部です」

仙台地裁=仙台市、2015年8月3日、桑原紀彦撮影
仙台地裁=仙台市、2015年8月3日、桑原紀彦撮影 出典: 朝日新聞

<2人は初任地で「結婚を前提に異動させてほしい」と希望を出し、同居圏内の奈良と堺に配属されたそうです。その後、07年に利彦さんは札幌家裁の小樽支部に、さや子さんは育休をとり、08年に復帰して札幌地裁に。10年には利彦さんが東京地裁、さや子さんが東京家裁の立川支部。13年に利彦さんが岡山家裁の倉敷支部、さや子さんが岡山地裁。16年に利彦さんが東京の知財高裁に、そしてさや子さんは2度目の育休をとり、17年に復帰して東京家裁へ。そして、今年4月に2人そろって松山へ異動となりました>

面談で伝える希望

<2人は一度も別居することなく動けています。世間では会社都合の転勤に否定的な声が上がることもありますが、2人の異動歴はかなり良心的な印象で驚きました。同期で異動のサイクルが一緒のため、周囲と比べてもうまく一緒に異動できているそうです>

――異動の希望はどんな風に出すんでしょうか?

利彦さん「異動の時は、毎回面談で希望を聞かれます。うちは子どももいるので、場所よりも夫婦で一緒に異動させてほしいとお願いしています。建前としてやはり、人事の公平性があるので必ず同じ任地とか同居ができるところに配置できるとは限らないと毎回言われてはいるんですけど、家庭事情は最大限配慮してもらえているようです」


――裁判官同士の夫婦は多いそうですね。やはりそろって異動されるパターンが多いんでしょうか?

利彦さん「東京や大阪のような大きいところはもちろん多いです。松山みたいな小さい場所でも、他に1組はいてもおかしくない、という感じです」

さや子さん「子どもが大きくなった年数が上の方は、夫婦裁判官でも単身赴任という人もいます。子育て中の異動については、私たちが任官したてのころから先輩の夫婦裁判官が一緒に異動されていたのを見ていたので、心配はしていませんでした」

寺田さんが働く松山地裁
寺田さんが働く松山地裁 出典: 朝日新聞

同じ任地に複数の配属先

<2人は、刑事部と民事部、地裁と家裁など、同じ任地でも別々の部署に配属されてきています。配属先が色々あるというのも、同じ場所に行きやすい要因なのかもしれません>

――転校が続くお子さんはどうされていますか?

さや子さん「上の子が転校を全然苦にせずすぐになじんでくれるタイプなので、そこは安心しています。逆に、子どもがそれをつらいと思っていたら、大変だったかな」

利彦さん「普段から言って聞かせてるので。絶対6年間いられないからねって」


――またあそこに戻りたいな、みたいな話は?

利彦さん「子どもは子どもで色々言いますよ。裁判所で一番偉い人にお願いしてきて、とか」

さや子さん「松山も気に入っているようです。もう伊予弁をしゃべりはじめました(笑)」

松山城=2019年11月3日、松山市、深松真司撮影
松山城=2019年11月3日、松山市、深松真司撮影 出典: 朝日新聞

裁判官のワーク・ライフ・バランス

<裁判官の年次でいうと中堅になるという2人。さや子さんは、現在地裁の民事部で単独審、そして合議審の右陪席(中央の裁判長に次ぐ、中堅裁判官のポジション)を担当しています。他に、不動産の競売などの執行事件を扱っているそうです。利彦さんは離婚調停や遺産分割に代表される家事調停や家事審判、また離婚訴訟のような人事訴訟などを担当しています。家裁では一番年次が上のため、上席裁判官という調整役も勤めています>

――裁判官と言えば、日中は法廷、判決は残業や休日出勤で書くという激務のイメージがありますが、子育て中の寺田さん夫婦のワーク・ライフ・バランスはどうなっているんでしょうか?

さや子さん「昔、子どものことを気にしなかった頃は夜や土日も仕事をして、というやり方でしたが、子どもが産まれるとどうしてもそういうわけにはいきません。なるべく日中に終わらせたり、忙しい時にはお互い子どもを見たりしてやりくりしています」

利彦さん「どうしても残業の時は交互に残業するとか、土日も交互に休むとかして。二人同時に、というわけにはどうしてもいかないので」


――そのあたり、職場の配慮はどうですか?

さや子さん「育休の復帰後はあまり持ち帰りの仕事がないところに配属させてもらうなど、そういう意味では配慮してくれているのかな。子どもが急に熱出してとか、朝少し遅刻しても、嫌な顔をせずに理解してもらえます」

利彦さん「裁判官に限らず、職員も含め、子育てに理解のある職場じゃないかと思います」


――裁判官には、夜間や休日、警察からの令状請求に対応する当番があります。お子さんが小さい時はどうしていましたか?

さや子さん「任地にもよりますが、夜間の令状は当直だったり、官舎や自宅に職員に持ってきてもらったりします。子どもが1歳未満の時は、それを配慮してもらっていました」

裁判官は深夜の令状請求にも対応しなければならない
裁判官は深夜の令状請求にも対応しなければならない 出典: 朝日新聞

司法研修所から送られてきた勉強用の資料

<松山地裁には現在育休を取られている裁判官がいるそうです。さや子さんも、2度の育休をとられています>

――産休や育休って、どのくらいの期間とりましたか?

さや子さん「私は息子が11月、12月生まれで、次の春に保育園に入れて復帰というのは難しかったので、産休も含めて1年3カ月くらいずつ取りました。制度としては3年とれます。でも、1年前後で復帰される方が多いんじゃないかな」


――復帰したあとは同じ部署に戻るんですか?

さや子さん「私は異動のタイミングだったのもあって、前と全然違う仕事になりました。1人目の時は、1年半も休んで復帰できるか心配でした。でも、してみると意外と大丈夫。2人目の時は心配もありませんでした。司法研修所から復習の勉強用の資料が送られてきましたが、色々ありすぎて。必要そうなところだけ見て何とかなりました」

利彦さん「知識のアップデートについては、たまたま大きな法改正があったとか、裁判例が出たとか、タイミングにもよりますね。ケース・バイ・ケース」

復帰前には司法研修所から復習の勉強用の資料が送られてきたという
復帰前には司法研修所から復習の勉強用の資料が送られてきたという 出典: 朝日新聞

家でも仕事の話に?

<復帰にあたって勉強が必要になる、というのはやっぱり裁判官らしいです。職場では裁判官、でも家に帰れば普通の夫婦、家族です。夫婦げんかももちろんあるとのこと>

――家でも仕事の話になるんでしょうか?

利彦さん「相談したりはありますね」

さや子さん「中身の話というより手続き的なところを。お互いこれまでの経歴で、主人だと民事が長かったりするので。私は家裁が比較的長いですし。今は逆なので、それぞれ聞いたりしています」

利彦さん「こういうところどうするの、とか。中身や結論について率直に相談するのは……」


――それぞれの案件について、具体的には話さないんですね?

利彦さん「率直に言うと、することありますよ(笑)。あくまで2人の中での話ということでね」

家でも仕事の話になるという
家でも仕事の話になるという 出典: 朝日新聞

夫婦裁判官でよかったこと、困ったこと

――夫婦で裁判官をやっていて、よかったなと思うことってどんなことですか?

さや子さん「仕事の忙しさを分かってくれることですね。どうしても今残業しないといけないとか。あとは同じように転勤してくれることです」

利彦さん「基本は一緒です。仕事を理解してもらえて、相談できるというのもありますし。組織としても理解してもらっているので、一緒に異動させてもらうなど、色々配慮してもらえるので、そこはよかったなと」


――逆に困ったことや大変なことは?

さや子さん「仕事面で何か、というのは特に。ただ全国転勤なので、子どもが小さい時は自分たちの親が近くにいたら頼れるのになあと思ったりはしました。私たちは実家が東京と千葉なので」

利彦さん「あと、単身赴任ができる家庭なら、子どもが東京の学校に行きたいと思ったら家を東京に構えて単身赴任、とかできると思うんですけど、自分たちが裁判官である以上、同居したいと思えばこうして一緒に異動するしかありません。教育上の理由や家庭の事情で東京にいたいと思っても、それは難しいこともある。そういうところは覚悟しなくちゃいけないかなと」

夫婦で裁判官をやっていてよかったことは「仕事の忙しさを分かってくれること」だという
夫婦で裁判官をやっていてよかったことは「仕事の忙しさを分かってくれること」だという 出典: 朝日新聞

「その人の能力が発揮できるようになれば」

――上の息子さんは中学生ですよね。大学受験くらいまでは一緒に異動されるんですか?

さや子さん「次の高校受験くらいで考えないといけないのかな、と。そうなってくると、同居優先なのか、ここに、という場所優先になるのか」

利彦さん「うちは兄弟の下がまだ小さいので、下を基準にするとまだ同居したい、というのはありますけどね」


――転勤が理由で家族との生活が送れなかったり、逆に家族を優先すると思うように仕事ができなくなったりしてしまう、という話を聞くこともあります。そのあたり、ご自身と照らし合わせてどう思われますか?

さや子さん「私は裁判をしたいと思って裁判官になったので、どの場所で仕事をするかに関してのこだわりはありません。どこにいても裁判はできるので。家族と一緒に生活できるところで仕事をしたいと思っているので、転勤を苦にも思いません。ただ、人によって事情はそれぞれですよね」

利彦さん「会社の事情や必要性、それはそれであると思います。他方、人の事情もあります。せっかく願って裁判官になったり、その会社に入ったりしているので、その人の能力が最大限発揮できるよう調整されればいいのになあ、と思うけれど、なかなか難しいのかな」

出典: 朝日新聞

夫婦共働き社会のロールモデルに

強制的に全国転勤をさせられるきつい仕事だと思っていた裁判官ですが、同業の夫婦が多いということで、思った以上にワーク・ライフ・バランスへの配慮が整っているのは意外でした。

もちろん、寺田さん夫婦は一例でしかありません。夫婦裁判官の中にも思い通りの異動がかなわない例はあると思います。調整してもらえても転勤は避けられませんし、裁判官は数年前まで法廷で旧姓を利用することができなかったなど、一概に共働き夫婦に優しい、と言うことはできない面もあったでしょう。

小泉進次郎環境相が育児休暇取得を検討していると発言した際には、賛否両論が巻き起こりました。賛成の意見の中では、男性の育休が広まらない現状に対して「変化のきっかけになれば」という声がありました。

裁判官は、難関の司法試験を通り、その中でも選ばれた人だけがなれる職業です。それでも、このような取り組みが当たり前になっていることが、共働き社会のロールモデルになればいいなと思います。

例えば、同期だから転勤を調整しやすいという点からは、組織での立場をそろえることがワーク・ライフ・バランスにつながるかもしれないという気づきがあります。

裁判官だからできるんだ、では終わらず、共働きの多くの夫婦が増える中、こんな風に環境を整えることはできるんだという、考えるきっかけの一つにしていけたらと思いました。

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