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「お手すきの際」っていつまで? 中国人が戸惑う日本のメール文化

中国人が戸惑う、日本語特有の「婉曲な表現」とは(写真はイメージです)=PIXTA
中国人が戸惑う、日本語特有の「婉曲な表現」とは(写真はイメージです)=PIXTA

目次

お手すきの際にご返信を――。日本のビジネスパーソンがメールで使う表現が、外国の人にとって悩みの種になることがあるそうです。そこには、日本語特有の「婉曲な表現」をどう解釈するか、という問題が。日中の異文化ギャップをまとめたジャーナリスト、中島恵さんの新刊『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)に収録された中国人のメールに関するエピソードを再構成して紹介します。

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『中国人は見ている。』 (日経プレミアシリーズ)

「お手すきの際に」とは、具体的にいつのこと?

北京の日系企業に勤務する30代の魏小燕氏は東京本社から送られてくる日本人のメールにいつも困惑する。最も苦手なのは「お手すきの際にご返信を……」という一文だ。

これまで何十回も受け取ってきた。日本語の意味はもちろんわかるのだが、「お手すき」と書かれた場合、果たしてどれくらいで返信すべきなのか、メールを書いた日本人は皆同じ感覚なのか、よくわからないという。

「今週は忙しいから何日も返信しなくてもいいのか、または今日中に返信しなくてもいいという程度なのか、わかりにくい。日本語がわかる中国人の上司に聞くと、『明日に返事するくらいでもいいのでは?』といわれましたが、そのくらいが“正解”ですか?」

魏氏に聞かれたので「正確にはわからないが、すごく急いでいるわけではないと思います」と答えておいた。私自身はせっかちなので、このフレーズはあまり使わないが、深く考えず、つい習慣でこうした表現を使う日本人もいる。

「推測+期待+テレパシー」が日本流?

上海在住のコンサルタント、金鋭氏にこの話を聞いてみると、「お手すきの際に、という表現は最も『推測+期待+テレパシー』に当てはまる表現ですね」と断言された。

金氏によると、「推測+期待+テレパシー」は日本人的コミュニケーション術だという。「『こうかな?』と相手の気持ちを推測し、『こうしてほしい』という期待を込めて、自分の意思を態度や表情で、それとなく相手に伝えるのが日本人流のやり方です」

メールを送信した側は、相手にプレッシャーをかけないように婉曲な言い回しをしているのかもしれないが、受け取り方は千差万別。曖昧な表現はやめたほうがいい、と金氏。

「自ら『お手すきの際に~』と書いた日本人は、相手に猶予を与えておきながら『推測+期待+テレパシー』で、早めの返信を心待ちにしている。そのうえ、日本人はあまりリマインド(再確認)しないので、2~3日経っても返信がなければ苛立ってしまうのです」

「曖昧な表現はやめたほうがいい」と語る金氏(写真はイメージです)=PIXTA
「曖昧な表現はやめたほうがいい」と語る金氏(写真はイメージです)=PIXTA

「~たら助かります」も理解しにくい

中国人には「……していただけたら助かります(幸いです)」という表現も理解しにくい。

「~してください」と違って、「やるのか、やらなくていいのか」、意味の受け取り方に個人差が出てしまうからだ。この表現も相手へのやんわりとした“期待”が込められている。

日本人は、相手が外国人であることを忘れて、つい曖昧な表現をしてしまうが、日本語の“行間”の意味を深く考え込む中国人は混乱するばかりだ。文章が長くまどろっこしいので、余計にストレートではない表現は理解しにくい。

ccの宛先多すぎ問題

メールについて中国人が不思議に思うものがもう一つある。ccメールの宛先が多すぎること、そしてccのアドレス順に、日本ならではのこだわりがあることだ。

中国では、日系企業は日本とのやりとりがあるのでメールを使うが、中国企業との間ではWeChat(中国のSNS)で仕事の連絡をすることのほうが多い。WeChatでは仕事のプロジェクトごとにグループを作って連絡するため、自動的に表示されるグループ内の名前の順番に意味はない。

しかし、メールは自分で宛名に順番をつけることができる。日本企業や日系企業の中には、宛先のみならず、ccにもアドレスを打つ順が決まっている場合があり、その点に驚く中国人は多い。しかも、メールのアドレスをいちいち「~様」と入力し直す細かさに疲れ果てるようだ。

2年前まで上海の日系広告会社で働いていた男性は「本当に連絡しなければならない担当者はひとりだけですが、いつもccには同じチームのメンバー10人くらいが入っていました。その方々からは反応がないので、見ているかどうかわからないのですが、メールの順番にも上下関係があることを初めて知りました」と話していた。

日本でも、メールの順番や宛名にはこだわらないという業界や会社もあるだろう。世代によっても感覚は違う。

あくまでも一部の日本企業の「暗黙のルール」だとは思うが、「内容や意味合いよりも形式にこだわる点こそ、日本人が最も重視するところなのだと理解するようになりました」と彼は話していた。

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