IT・科学
台風の夜、長野県防災が「思い切ったツイート」をできた理由
救助活動は本日夜も継続して行います。救助部隊は、必ず皆さんを迎えに行きます。不安な夜にしないため、全国の精鋭が長野に集まり、みなさんを助けるんだという強い意志のもと、活動を続けてくれてます。あきらめないで。
— 長野県防災 (@BosaiNaganoPref) October 13, 2019
私たちは必ず助けます!
「あきらめないで。私たちは必ず助けます!」
10月13日、台風19号で避難をしている人に向けて長野県防災が投稿しました。文章を考えたのは、県の災害対策本部の発信班の人たち。つまり公務員です。
「必ず」という表現であったり、「あきらめないで」という励ましであったり、通常の「お役所」のツイートに比べると「踏み込みすぎ」と言われるかもしれない内容です。
とっさの判断に思えるツイートですが、それができたのは、日頃からツイッターに対して明確な考え方をもって運用してきたからでした。
発信班のリーダー、窪田優希さんが強調したのが、ツイッターだけで終わらない「連携」です。
「災害が起きる前から、県の公式ウェブサイトとの違いを意識していました。ツイッターに公式ウェブサイトサイトのページのリンクを載せるだけでは意味がないと」
2014年に開設したものの「ほぼ休眠状態だった」アカウントを窪田さんのチームは、2019年1月から「1日1回の投稿する」運用にあらためました。
「防災情報を身近に接してもらう機会が少ないと思っていました。そんなに自分から調べない情報を、毎日、見てもらえるようにするにはどうすればいいか。その中で、ツイッターの活用に行き着きました」
窪田さんたちのツイートの特徴は、ツイッターの役割を整理できていることです。正確な情報は文字制限があるツイッターで伝えることは困難です。多くの公的機関のアカウントは、そこに足踏みしてしまい、結果、URLを貼り付けただけの投稿になりがちです。
長野県防災の場合、一つのツイートですべてを言い切ろうとはしていません。詳しいことはリンク先のページで確認してもらうことを前提に、それを届ける手段、目を向けるきっかけとしてツイートをとらえています。
炎上のリスクに目が行きがちですが、窪田さんたちは「ツイッターでやる意味」を常に考えていたからこそ、災害時に踏み込んだツイートを発信できたといえます。
台風19号が発生した際、長野県防災は、一般のユーザーに返信をしています。これも公的アカウントとしては珍しい決断でした。
通常の公的アカウントは、一つのアカウントに返信したら、全員に返信しなければならないと先回りして考え、誰にも返信しないまま一方的な発信に終わってしまいます。
ここでも、災害発生前から整えてきた運用方針がいかされました。
「ツイッターに求められているのは最新の情報と、顔が見える発信だと考えて運用していました」と窪田さん。
救助要請への「励ましツイート」は、他のユーザーに見えないダイレクトメッセージの機能を使うこともできました。しかし、窪田さんたちは、タイムラインに表示されるリプライを使いました。
そこには、救助が終わった場合に投稿を消すことで情報を管理しやすくするという手続き上の理由がありましたが、もう一つ、そのやり取りが可視化されたことも見逃せません。
全員には返信できなくても、困っている人に対応している姿を、アカウントをフォローしたり、ツイートをリツイートしたりした人の目に触れさせることができました。そこから生まれた信頼感は少なくなかったはずです。
窪田さんは双方向性を生かすことで、ツイッターがまったく新しいツールになると言います。
「ツイートを読んだ人に『役人もがんばっているね』と感じてもらえたら、災害時に『あいつが言うなら、ちょっと逃げようかな』と思ってもらえる」
窪田さんには、イベントの後、日を改めて長野県庁で話を聞きました。
現在は被災者支援の前線基地となっている災害対策本部に、窪田さんは今も詰めています。
窪田さんは、一連のツイートが生まれた理由について「私たちに特別な才能があったからできたわけではありません」と言い切りました。
SNSの世界はインフルエンサーのような存在が目立ちがちですが、窪田さんは「ツイッターだからといって若い人にまかせるのではなく、みんなで取り組めば工夫の仕方も見えてきます」と言います。
実際、役所の中で新しい取り組みをするには、個人の判断をいかしてくれる組織の体制が不可欠です。長野県防災のツイートは、当日の投稿だけでなく、ツイッターを部署全体の大事な仕事としてとらえていた体制こそ注目するべきなのかもしれません。
「人間味のあるツイートは、やっぱりいいなあと思いました。ちゃんと届いているなという感覚があります。工夫さえできれば、さらなる可能性があると感じています」
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