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#3 ○○の世論
安倍政権の強さ「定食屋」に例えると……世論調査が示す「常連」
【○○の世論】通算在職日数が歴代最長となった安倍晋三首相。1年で退陣した第1次政権と、7年続く第2次政権は何が違うのでしょうか?世論調査のデータで分析すると、長期政権を支えてきた世論の実態が浮かんできました。鍵を握っているのが「常連客」の存在です。安倍政権の強さを「定食屋」に例えながら、探ってみました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
あなたは、安倍内閣を支持しますか。支持しませんか―。朝日新聞の世論調査では毎回、内閣支持率を出しています。安倍政権の内閣支持率の平均を比べると、第1次政権と第2次政権でガラリと変わっています。
安倍政権を「定食屋」に例えるなら、第1次政権は第2次政権より繁盛していなかったことが見て取れます。
第2次政権の支持率の高さは、自民党の歴代長期政権のなかでも小泉政権に次ぐ水準です。今年11月の調査結果をみてみましょう。
今年は常に4割台の支持率を維持しています。長期政権で支持率を失わないワケはどこにあるのでしょうか。
世論調査では、全体の数字だけでなく、性別や年代、支持する政党といった項目ごとに内閣支持率を見ることができます。11月調査ではどうだったのでしょうか。
男性の支持率が49%、年代では18~29歳は47%、30代は51%と高いことが目立ちます。支持政党では自民支持層の80%が支持しています。第2次政権をおもに支持しているのは男性、若者、自民支持層と言えそうです。
平均支持率でみると、第2次政権では20代以下の男性が6割弱、30代と40代の男性が5割の支持率でした。ちなみに第1次政権では男女ともに60代以上の支持率が比較的高く、40代以下の男性の支持率が高い第2次政権とは対照的です。
この変化は、「定食屋」の客層が第2次政権では若い人たちに広がったとも言えます。
さらに第1次政権と第2次政権で違いが大きいのは、自民支持層の支持率の動きです。
これは、自民支持層の内閣支持率の平均です。安倍首相は自民党のトップ・党総裁でもあり、定食屋でたとえるなら、自民支持層はその店の「常連客」です。第1次政権が短命に終わり、第2次政権が長く続いている背景には、この「常連客」の動きがありました。
第1次政権は発足当初こそ、自民支持層の支持率は89%でしたが、その後の閣僚の相次ぐ辞任などによって低下します。
参院選直前の07年6月には最低の64%となり、参院選は惨敗。内閣改造を行った8月は78%に持ち直しましたが、敗戦のダメージは大きく、自身の体調不良も重なり退陣につながりました。肝心の国政選挙で「常連客」が離れてしまえば、選挙に勝って定食屋を続けていくことは難しくなります。
一方、第2次政権では、自民支持層の支持率は70~90%台で推移します。財務省の公文書改ざんなどが発覚した直後の18年4月は68%に下がりましたが、その翌月には74%と持ち直しました。5度の国政選挙前にはいずれも70%台後半~90%台前半をキープしており、「常連客」を離さないことが第2次政権の強みとなっています。
では、「常連客」が第2次政権で離れていかないのはなぜでしょうか。朝日新聞の世論調査では16年7月以降、内閣を支持する人にその理由を次の4つの選択肢の中から聞いています。11月は次のような結果になりました。
自民支持層の内閣支持理由のトップは、この4つの選択肢では常に「他よりよさそう」です。さらに11月調査では、長期政権の理由についても聞きました。
第2次政権を支えてきたのは、熱烈な安倍政権への支持者よりも、消極的な支持者の方が多いと言えそうです。その背景には、安倍首相が2012年12月の衆院選で当時の民主党から政権を奪還し、その後5回の国政選挙で勝ち続けていることがあります。
自民支持層にとっては、安倍首相は与党への返り咲きを果たした功労者であり、自民党内にほかに期待できる人が台頭してこない限りは、今のままでいいという意識が働いているのではないでしょうか。
たとえるなら、近所のライバル店が店名を変えてもぱっとせず、内輪もめで客足が伸びない中、特別おいしいわけではないけれど、ほかの店よりはよさそうな定食屋「安倍」に客が集まっている。そんな状況なのかもしれません。
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