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#30 #となりの外国人
情報、整理できてる? 日本人も使える「やさしい日本語」のノウハウ
今年も災害が多かった日本。日本で暮らす外国人も増えるなか、緊急時にどう情報を伝えるか関心が高まっています。でも、本当に「外国人のため」に新しいことをしないといけないのでしょうか? 今ある情報発信について、日本で暮らしている「となりの外国人」の本音を聞きました。
(この記事は8月30日にwithnewsとtwitter社が共催したイベント「#やさしい日本語〜140 文字で伝わる災害情報」の様子をまとめました)
突然ですが、この看板を見たことはありますか? 災害時に緊急車両が通行できるように、一般車の通行を禁止する「緊急交通路」を知らせるための看板です。
英語併記ですが、外国人にはどう見えているのでしょうか。
日本で漫画家として活躍するスウェーデン出身のオーサ・イェークストロムさんに聞いてみました。
「ん~、魚……ですよね。でも、何の魚かは分かりません」
「地震って書いてあるけど、この魚との関係は何ですか? 津波で海から打ち上げられたんでしょうか?」
そもそも、魚以上の話になりませんでした。
この看板は、実はやってしまいがちな、情報を伝わりにくくしている分かりやすい例だそうです。
「やさしい日本語」に詳しい庵功雄さん(一橋大学国際教育交流センター教授)は、こう説明します。
「最初に目に付くのは、絵。なのに、その絵が意味する情報がよく分からない。『ナマズ』が地震と関係があると分かるのは、日本の文化にかなり詳しい人です」
「字を読んでも『緊急交通路』となっていて、緊急時に『ここに来い』という意味なのか、『来てはいけない』という意味なのか、分からない。これは日本語でも英語でも、分かりにくいですね。その次にようやく『一般車両通行禁止』とあるのですが、車に乗って走りながらだと、なかなかここまで読める人はいない。
大切なのは、何のために出している情報か考え、伝わりやすくするために情報を整理することです」
そもそも、緊急時の外国人はどんな気持ちなのでしょうか。オーサさんに災害の思い出を聞いてみました。
オーサさんは漫画家としての活動拠点を日本に移した2011年、来日した翌日に東日本大震災に直面していました。
母国スウェーデンでは、「地震は100年に1回ぐらい」と言うほど、「未知」の存在。
「入居したばかりのシェアハウスに買い物から戻った直後に揺れ始めました。『地震だ』とは分かりましたが、どんどん揺れが強くなって……。『地震のとき、外に行くのはダメ』って聞いたことはあったのに、本能的に家から飛び出してしまいました」
パニックの中で見たのはどんな情報だったのでしょうか。
「当時はまったく日本語が分かりませんでした。だからテレビニュースを見て、映像だけで内容を想像しました。ネットでスウェーデンや英語のニュースを読みました。でも日本から離れて報道されているのが正しい情報かどうか分からない。『日本はこれで終わりだ』と書かれていて、それだけでパニックになりました」
そんなパニックの中で、こんな情報を見るとどうでしょうか。
じっと読んだオーサさんは、「ん~、7レベルの地震があって、気を付けて、ぐらいですかね。でもパニック状態ではちょっと頭に入ってこないと思います」と言います。
庵先生によると、「日本語に慣れている人は、大事な情報以外は聞き流しています。何が大切か判断できるからです。でも、日本語や地震の情報に慣れていない人は、すべて聞こうとしてしまって、分からなくなります」と分析します。
「この情報もあった方がいい、ではなくて、あったらじゃまになってしまって、伝わりにくくなってしまいます」
シンプルに本当に重要な情報だけに整理すると、こうなりました。
「今日、朝、5時46分ごろ、兵庫、大阪などで、とても大きい、強い地震がありました。地震の中心は、兵庫県の淡路島の近くです。地震の強さは、神戸市、洲本市で震度が6でした」
オーサさんは「とても分かりやすくなりました。『震度』以外は分かりました」。
「震度」は揺れを表すために、日本で使っている独自の表現だそうです。
「強い揺れに見舞われた」などの表現も、「とても大きい、強い地震がありました」に集約されてしまいました。
朝日新聞で「やさしい日本語」に取り組む真鍋弘樹編集委員は「つい、新聞記者としては『強く揺れました』ではなく『強い揺れに見舞われました』と書いてしまいたくなるんですよね。簡単に書きすぎてはいけないという固定観念があるのかもしれないと、指摘されて気づきました」と話します。
ひとつに情報を詰め込まない
避難を呼び掛ける情報だとどうでしょう。
オーサさんは「『たかだい』って、初めて聞きましたね。日常会話は問題ないのですが、普段聞かない言葉になると分かりません」と言います。
確かに、「高台」って日常会話では頻繁には使いません。
「避難」や「避ける」という言葉も日常的には使わないです。
言い換えるとこうなります。
「津波、大きい波がくる。高い所に逃げろ」
庵先生は、「いままで一度も地震を経験したことがないという人は、世界中にたくさんいます。だからそもそも、地震が起きたときに何が起きるかを知っている、というのは世界の一般常識ではないんです」と指摘します。
大切なのは、どういう行動をしたら良いのか、それはどんな場所なのか、具体的にイメージできること。
「『地震』があったら『津波』が来る、そして『津波』は危険だと知らせないといけません。そして『逃げる』。命を守るためにどうしたらいいのか、危険性が分からない人にも伝わるように考えると良いです」
具体的な行動を伝える
災害時、いまはインフラの一つになっているのがツイッターです。伝わりやすさは、どう考えるといいのでしょうか。
ツイッターの服部聡・公共政策本部長に聞きました。
「なるべく簡潔にということ。やりがちなのは、持っている情報をすべて詰め込む。しかも政府機関や自治体は役所言葉だったりします。ありがちなのは『○○で災害が起きました。詳細は以下の通りです』でリンクがついている。それでクリックしてHPに飛ぶと十数ページのPDFがある」
「写真や動画、ライブ配信も投稿できます。緊急時はじっくり読むことはないので、ぱっと見て分かるイラスト、地図を付けるといいですね」
「リアルタイムで発信される個人の情報は、行政やメディアが追いついていない情報もあるので、次の活動に生かされることもあり、期待しています」と言います。
写真や地図入りで伝える
それでは日常的に身近にいる外国人には、どうしたらいいのでしょうか。
オーサさんは「英語で声をかけようか、日本語で声をかけようか、見た目では分からないですよね。それは、どちらで試してもらってもいいと思います」と答えます。
庵教授は「とりあえず、話しかけてみたらいいです。日本語が通じなければ、翻訳アプリを試してみても良い」と言います。
「例えば体調が悪い人がいたら、時間との争いなので、『英語でどう言おうか』と考えて躊躇してしまうよりも、とりあえず簡単な日本語で話しかけてみる。『気分が悪いですか?』『あちらに行きましょう』と、具体的な場所を指で示してみる。それぐらいの日本語を分かる人はたくさんいるので、成功する確率は非常に高いです」
とりあえず話しかけてみて、相手に伝わる方法を考える
私は話を聞きながら、「これって外国人への配慮というか、普段の生活でも使っていくべきノウハウ満載だな」と感じました。
庵教授が話した言葉に納得しました。
「やさしい日本語というと、外国人向けの日本語、みたいに思われがちですが、分かりやすい情報を端的に伝えるのは、誰にとっても大切なことです。例えば、日本語を使う人同士でも、相手の耳が不自由そうならゆっくり話しますよね。子どもだったら簡単な言葉に言い換えます。相手に伝えないといけないと思うからそうなります。相手が困っていて、相手を助けたいという気持ちが大切。同じような配慮を、日本語に慣れていない人にするだけです」
りゅうがくしけん の にゅーす です。
— やさしい日本語ニュース/withnews・朝日新聞 (@yasashiinews) November 14, 2019
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