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口ひげのばす「謎」キャンペーン 成果は76億円 オシャレに命思う
11月になると男性が突然口ひげを伸ばすという謎のキャンペーンがあるそうです。普段見慣れない口ひげを生やした友人をきっかけにキャンペーンを調べてみると、大切な人の命を考える優しさが見えてきました。
友人が突然口ひげをのばし始めました。普段は定期的にひげを剃っている彼ですが、11月は口ひげだけをのばし続けると言います。
私「なんで11月だけなの?」
友人「Movemberだから」
私「なにそれ。Novemberじゃなくて?」
友人「え、知らないの?」
11月は英語でNovemberくらい知ってますよ、バカにしないでよ。ですが、どうやら違うらしいのです。口ひげを表す ”Mo”(moustache)と11月の ”November” で “Movember”という言葉があるのだとか。
Movemberを広めている公式サイトによると、始まりは二人の男性のちょっとしたジョークからだったといいます。舞台は2003年、オーストラリアはメルボルンのバー。お酒を飲みながら、話題はファッションに移りました。
「最近、口ひげを伸ばしている人がいないよな。ならばもう一度トレンドにしよう」
Movember公式サイトによると、彼らは、乳がんのための募金を集めている友人の母親に倣い、男性に多い前立腺がんを啓発するキャンペーンに、「口ひげ」を取り入れました。
友人たちにメールを送り、賛同した30人の男性たちが最初の参加者となります。彼らはこのキャンペーンを仲間内だけでは終わらせませんでした。男性の健康問題について研究をし、オーストラリアの前立腺がん財団への寄付を始めたのです。
一年後の2004年には450人の参加者で54000オーストラリアドル(日本円で約400万円)を財団に寄付しました。2006年には4人の中心人物が ”Movember Foundation” という財団を設立。その後も活動は国内のみならず世界に広がり、現在ではオセアニアの国々や欧米を中心とする20か国以上で公式にキャンペーンが行われています。
現在、Movember Foundationは、男性が抱える健康問題3つを対象にして寄付や啓発といった活動をしています。その3つとは以下のもの。
①前立腺がん
②精巣がん
③精神的な問題・自殺
前立腺がんは男性特有のがんで、国立がん研究センターの調査によると、日本でも年々患者数が増加しているといいます。同じく男性特有の精巣がんは患者数としては多くないですが、20~30代に発症する人が多いのが特徴だそうです。
Movember Foundation は、2030年までに上記の2つのがんで亡くなる男性を半減させること、男性の自殺を25%減らすことなどを目標に掲げています。
Movember Foundationの公式サイトでは、Movember運動の趣旨に賛同して、ひげを伸ばしている男性をMo Bros(BrosはBrothersの略。主に男性の友人、仲間に対して使う。)と呼びます。
もちろん、若すぎてひげが伸びない少年や、仕事の都合でひげを伸ばせない男性も活動に賛意して寄付などをすれば立派なMo Brosの仲間入りです。
また、Movemberは男性だけのものではありません。ひげが伸びない女性がMo Sistas(Sistersの意。女性に対して使う)になり、活動に加わることも可能です。実際、Movemberをサポートするために立ち上がり、男性に活動への参加を促すことで貢献している女性も多くいるといいます。
公式サイトにはMoSistasの重要な役割として、女性が男性に対して健康について考えるきっかけを与え、行動を起こすよう男性に勧めることが挙げられています。
男性のための活動は男性だけが担うものではない。身近にいる大切なひとの健康問題を考えることは男女に共通して大切なことです。そうして徐々に広がった輪は、実際、数字にも表れています。
ここまで大きなムーブメントの存在を私は全く知りませんでした。Movemberはまだまだ日本に浸透していないからです。Movemberの存在を知らせてくれた彼も、オーストラリア出身、高校三年間をオーストラリアで過ごしました。Movember発祥の地オーストラリアでは、11月に口ひげを伸ばすことは、もはや特別なことではないといいます。
松田さんが初めてMovemberについて聞いたのは、アイルランドに長く住んでいた友人からだと言います。
アイルランドもMovemberがさかんな国の一つ。11月になると自然と男性が口ひげを伸ばし始めるのだそうです。
ひげを伸ばし始めたきっかけはそれだけではありません。今年の3月に義母を肺がんで亡くしました。それまで口ひげを伸ばしたことはなかったという松田さんですが、がんによる死を身近に経験し、がん啓発の活動であるMovemberに興味をもったと言います。
そこで自分にできる活動として口ひげを今年から伸ばし始めました。
気になるのは周囲の反応です。日本ではビジネスシーンでひげがNGとされる風潮があります。特に接客業では会社の就労規則等で従業員の身だしなみについて細かく定めている会社もあります。
しかし、実際に口ひげを伸ばしてみた松田さんはマイナスな反応を受けなかったと言います。
「むしろ口ひげをきっかけに話をすることができました」
普段は生えていない口ひげの珍しさに、ビジネスの場でもMovemberについて話すことができたという松田さん。
「怒られることもなかったです(笑)みんな興味をもってくれました」
確かに、いつもはひげを伸ばしていない人が11月だけ、しかも口ひげだけを伸ばし始めたらその訳も聞いてみたくなりますよね。
松田さんがMovemberについて、いろいろな人に話をする中で気づいたことは、その認知度の低さだったそう。
「Movemberについて知っている人は皆無でした。日本で広がっていくのはまだまだ難しいかもしれませんね」
それでも松田さんは、来年の11月にも口ひげを伸ばすことを決めているそうです。
「周りを巻き込んで、Movemberを広めていきたいです。個人が発信できる時代。自分の行動が、男性の健康問題について考えるきっかけに少しでもなればいいと思います」
公式サイトにはルールが掲載されています。
①Movember.comに登録し、11月1日にきれいに剃った状態から口ひげを生やし始める。
②11月中ずっとひげを伸ばす。
③インチキはダメ。あごひげ、やぎひげ、偽物の口ひげもダメ。
④口ひげを利用して、男性の健康問題について話し、募金しよう。
⑤ジェントルマンの振る舞いをしよう。
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