連載
#34 #父親のモヤモヤ
「男性の育休大国」フィンランド 「子育てするか、職場も『監視』」
「育休」という言葉を聞くと、何か後ろめたい気分になります。なぜなら結婚前から妻に「これからの時代、必要なこと。絶対に取る」と宣言していたのに取らなかったから。フィンランドでは、父親の『育休』取得が約8割に達するそうです。どうやって取っているの? そんな疑問をぶつけようと担当のアイノ・カイサ・ペコネン社会保健大臣の来日に合わせてインタビューしました。(朝日新聞記者・小泉浩樹)
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1979年生まれのペネコン大臣は、3人の息子の母親。2011年から国会議員に選ばれています。日本で「准看護師」にあたる資格を持ち、看護師の労働環境改善やエイズ予防の重要性を訴えています。
――フィンランドでは、男性の育児休業取得率が約8割と聞きました。
おっしゃっているのはおそらく「父親休業」のことですね。フィンランドでは、子どもが2歳になるまでに、合計で延べ9週間まで父親が休業を取得できます。
約75%の父親が利用しているのは事実ですが、課題もあります。大半の父親は、子どもが生まれた直後に、最高でも3週間しか取らないのです。
また、母親が産前・産後に約4カ月(約17週間)取れる「母親休業」の後、両親のどちらかが取る「両親休業」の制度もありますが、父親の取得はわずか1~3%に過ぎません。
――意外です。フィンランドでも男女で偏りがあるのですね。
現政権はこの部分の改革を行う方向です。両親がきちんと休業を取ることで、家庭内の責任を平等に分割することを目標としています。
具体的には、父親休業と母親休業の日数を同じにしたいと考えています。研究で男性の割り当て分を作れば、取得することが明らかになっているからです。
これらの制度の整備のほか、国を挙げて家族に優しい文化を作っていくことが大事です。子育てを奨励し、情報提供を行う。子育てを積極的にするお父さんは、職場でも尊敬されるという雰囲気を作らないといけない。こういった取り組みはもう何年も行われており、全体的な雰囲気は醸成されてきています。
職場には女性がおり、男性を『監視』しています。子育てに取り組むお父さんかどうか。職場での男性はそういう目でも見られており、しっかり取り組んでいる男性は社会的に評価されます。
――夫婦、パートナー間に問題が起きた場合、どのような支援をするのですか。
問題を抱えた家族を対象とした家族ネウボラという組織があります。心理士やセラピストが勤務しており、パートナー間の問題の手助けをします。また、例えば妻がDVを受けている場合、DV被害を公表したくないと考えても、警察は事件として起訴できる仕組みがあります。
フィンランドは親権が共同なので、離婚の後も、申し合わせの上で例えば毎週どちらの家に行くとか週末はどうするという取り決めを行います。そういう意味でも夫婦が離婚したとしても子育てに参加していくということになります。
――日本では痛ましい虐待死事件が立て続けに起きています。フィンランドではほとんどないそうですが、どのように防いでいるのですか。
問題が発覚したら家族ネウボラで、早期の支援をし状況が悪化しないようにします。引き離しは本当に最終的な手段です。
――そもそもフィンランドでは体罰を法的に禁止しているそうですね。社会的に定着していますか。
はい。例えば、子どもから体罰を受けていることを打ち明けられたり、第三者による子どもへの暴力を見つけたりしたら、警察に通報しなければいけません。子どもも自分たちが不当に暴力の対象になってはならないことを理解しています。
――フィンランド発祥の、育児支援の仕組み「ネウボラ」でも、父親の関わりをさらに増やそうとしていると聞きました。
ネウボラは妊娠期から子どもが学校に入るまで継続的に支援する相談の場で、ほぼ全家庭に利用されていますが、やはり母親が中心です。お父さんにもさらに密接に関わりを持ってもらうようにしなければなりません。
男性が育児・家事に、特に子どもの小さいうちに主体的に関わることは、男性自身の人生の満足感を高めます。全ての家族が受けたいと思うような魅力的なプログラムを作り上げて頂きたいと思います。
現在1才7カ月の長男が産まれた時、私は福島、同業者の妻は別の地方で勤務をしていました。将来的にどこで子どもを育てるのかも明確ではない中、ずるずると育休取得を先延ばしし、取得しないまま、今年9月に東京に異動し、今は妻と一緒に育児に励んでいます。
育休は原則的には、分割して取れず、一度しか取得できないもの。「里帰り中はいいよね?」「保活がうまくいかなかった場合、(妻の)代わりに育休を取る必要があるから今はいいよね?」。当時はそんな言い訳をしていました。
当時の職場は人数が多くなく、取る勇気が出なかった面もあります。育休を取るには、個人の覚悟とともに職場の雰囲気や理解は不可欠で、こうした点は妻も理解を示していました。
ペコネン大臣の話を伺い、印象に残ったのは、「家族に優しい文化を作っていくことの重要性」を語っていたことです。現在、国内でも父親の育休取得を義務化するといった議論が出ています。もちろん制度を変えることは重要です。
ただ、それだけでなく父親が育児参加する雰囲気作りを重視していることが、フィンランドでの育休取得率の向上につながっているのだろうと思います。
ちなみに、この「父親のモヤモヤ」で育休について書くことになったと妻に伝えると「育休を取らずに今後も取る予定がないあなたがどうやって書くの?」と冷ややかに言われました。育休は子どもが2才になるまでしか取れないそうです……。答えはまだ出ていません。
記事に関する感想をお寄せください。母親を子育ての主体とみなす「母性神話」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。こうした「母性神話」は根強く残っていますが、「出産と母乳での授乳以外は父親もできる」といった考え方も、少しずつ広まってきました。みなさんはどう思いますか?
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