#29
#となりの外国人
「イタリア人がモテると思うなよ」テラハ出演の漫画家が伝えたいこと
「テラスハウス」にも出演中の、イタリア出身の漫画家・ペッペさん。日本に来て感じた「イタリア人のステレオタイプ」、どう感じた?
「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ』連載中の漫画家・ペッペさん=瀬戸口翼撮影
「イタリア人がみんなモテると思うなよ」――。そんな副題を持つ漫画『ミンゴ』を描いているのは、イタリア出身の漫画家・ペッペさん(26歳、本名:デュラト・ジュゼッペ)。現在、リアリティー番組『テラスハウス TOKYO 2019―2020』(フジテレビ系列)にも出演し、注目を集めています。「日本はジローラモさんのイメージが強すぎる」と言い、漫画で自身の思いを投影したのは、シャイなイタリア人青年「ミンゴ」。日本人が持つステレオタイプに傷ついた経験がありながらも、「ステレオタイプはなくしたくない」と話します。その理由とは――。
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ペッペさんは、ローマの東に位置するイタリア・アブルッツォ州出身。16歳の頃に漫画家を志し、2015年、22歳で日本に移住しました。モデルとしても活動しながら、2018年に「週刊ビッグコミックスピリッツ」で佳作賞を受賞。今年10月、同誌で『ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ』の連載が始まりました。
――ペッペさんが、漫画家を志したきっかけを教えてください。
アニメは子どもの頃から見ていたのですが、漫画に出会ったのは遅くて16歳の時でした。それからたくさんの漫画に影響を受けましたが、一番最初は『NARUTO』でした。読み終わったときに、『私も描ける!』って思ったんです。
どうしてそんな自信が持てたのかはわからないけどね、『NARUTO』はめちゃくちゃ傑作だから(笑)。でも、ひとりの人間がこれだけ素晴らしい作品をつくれるということを知って、それが私にも伝わったんだと思ったらワクワクしました。私もそんな「武器」が欲しいと思って、「漫画を描きたい!」って思ったんです。
――商業誌でデビューできる漫画家になるだけでも、かなりの狭き門です。漫画家になることや移住に不安はなかったのでしょうか。
人生は1回しかないから、やりたいことをやろうと思っていました。でも、もちろん怖かったですね。漫画が描けない時期もあるし、大学で日本語を学んだけど、漫画にできるほど上手くないから。
日本で漫画家デビューできたという、ヨーロッパやアメリカの人を知らなかったんですよ。どうやったら漫画家になれるか、Googleで検索しても、「無理です」「日本人は外国人が嫌い」って嫌なことを書いている人もいる。
でも、結局はあきらめなかった人しか、成功できないんだって思っていました。欧米人の漫画家がいない理由は、みんなどこかであきらめちゃうんです。日本語が難しい、絵に自信がない、日本が遠い、お金がない……どこかであきらめちゃう。
だからとりあえず出版社へ持ち込みに行くまでは、絶対にあきらめないと決めました。そうなると残るのは、自分の才能が足りるかどうか、それだけ。出版社の編集さんが、私の漫画を好きになってくれるかどうか。
それは考えてもわからないから、もし何か言われてもその時に考えようと思っていました。おかげさまで連載も持てて、本当にラッキーだなと思っています。今でも信じられない。
漫画のタイトル「ミンゴ」は主人公の名前。ミンゴは日本のアニメや漫画、アイドルが大好きな「オタク」な一面を持っています。自分らしくいられる場所を求めて日本にやってくるも、シャイな性格で、特に恋愛では女性と話すこともままならないほど臆病になってしまいます。作中では、同じく日本で暮らすイタリア人から「日本の女の子は、イタリア人らしいイタリア人が好きなの」と言われて努力しますが、うまく振る舞えず戸惑う場面も。
――どうして「ミンゴ」を描きたいと思ったのでしょうか。
ミンゴはだいたい私です。スカウトされて、興味がなかったのにモデルになったことも、僕の経験に近い。物語はフィクションだけど、ミンゴの感情的な部分は、以前私が思っていたことや、今思っていることですね。
「ミンゴ」という名前も、高校生の時に友だちが私につけたあだ名です。16歳で漫画家になろうと決めてから、友だちが私のことを日本語で「漫画家」と呼ぶようになりました。それが「マンガ」になって、だんだん「ミンゴ」に変わっちゃった。
だから、僕みたいなストーリーを描くときは、主人公の名前は絶対「ミンゴ」にしようと思っていました。
「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」より(第1巻12月12日発売)。左端が主人公の「ミンゴ」 出典: (c)ペッペ/小学館
――主人公がご自身にも重なっているんですね。「イタリア人がみんなモテると思うなよ」というタイトルも面白いですが、どうしてシャイなイタリア人を描こうと思ったのでしょうか。
別にステレオタイプが嫌いな訳じゃないけど、日本ではイタリア人に対して、ジローラモさん(タレントのパンツェッタ・ジローラモ)のイメージが強すぎる。ファッションと女の子の話ばかりする「チャラい」イタリア人も多いとは思うけど、「みんな」じゃないんですよね。
イタリア人だって「普通の人」が一番多い。だから僕はシャイっていうか、「普通の人」だと思うんですよ。だから普通のイタリア人の目線を伝えたかった。
「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」より 出典: (c)ペッペ/小学館
そもそも日本に住んでいるイタリア人は、ジローラモさんのような「ステレオタイプのイタリア人」で振る舞う人があまり好きではないんです。
それは、ベルルスコーニ元イタリア首相を重ねてしまうから(シルビオ・ベルルスコーニ、金銭問題や女性にまつわるスキャンダルで世間を騒がせた)。首相という立場にもかかわらず、女性好きで下ネタばかり言うところに、嫌な気持ちになったイタリア人は多いんです。
日本に来るイタリア人は、実際はオープンマインドだと思うんですよ。でも、「イタリア人です」って言うと、「チャラい」と言われてしまう。なぜだろうと思って聞くと、「ベルルスコーニみたいな人がいる」ということを知ってがっかりするんです。
だけど僕はジローラモさん自身が嫌いなのではなく、むしろ尊敬していますよ。有名人になるのは、そんなに簡単なことではないので。
――ペッペさんが、日本でイタリア人に持つステレオタイプを感じたのはどんな時でしたか?
日本に来てからしばらくはイタリア人の彼女がいたから、日本人の女の子がイタリア人の男性をどう思っているか聞いたことがありませんでした。彼女と別れてから、日本人の女性と付き合ってみたいと思って、バーとかに会いに行くと、初対面の人が私を「絶対に真面目じゃない」って言うんです。
イタリア人というだけで「絶対遊んでる」って言われるし、優しく接しても「エッチがしたいからやってるんでしょ」って言われる。それがすごく嫌でした。僕、ワンナイトラブなんて1回もしたことないんですよ。ちゃんと女性をリスペクトしたいし、守りたい。遊びたくないし、好きなら付き合いたい。
だから、いつかチャンスがあったら、「ステレオタイプじゃないイタリア人」の一面を見せたいと思っていました。
「イタリア=チャラい」じゃなくて、「イタリア=いろいろある」。「イタリア=」という言い方自体がそもそも好きじゃないけどね。個人的な違いがあることを伝えたかったんです。
――テラスハウスに入居されたときも、そんな思いを語られていましたね。
テラスハウスが決まったとき、一番喜んだのはテレビで有名になれることよりも、自分らしく生活するだけで「こういうイタリア人もいる」って伝えられると気付いたときです。
めっちゃいいチャンスじゃないですか? すっごくうれしくって、「テラスハウス頑張りたい!」って思いました。「私が伝えたいことが伝えられる!」って!
「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」より 出典: (c)ペッペ/小学館
――確かにそうですね。実際に、反響は届いていますか?
インスタグラムに、日本に住んでいる外国人からメッセージが来ました。「イタリア人がみんなステレオタイプ通りじゃないって見せてくれてありがとう!」っていうメッセージをもらったときはうれしかったですね。思わず私も、「こちらこそありがとう! がんばるね! ナンパばっかりじゃないよね!」って返事をしていました。
日本人からも、「ジュゼッペみたいなイタリア人もいるって知らなかった」というメッセージをもらって、もしかしたらちょっとずつ変えられるのかもなと思いました。僕だけじゃなくて、日本に住む外国人の力を合わせて、がんばりたいですね。
――来日する前に日本に持っていたイメージと、実際住んでみてギャップはありましたか。
この質問、よく聞かれるんですよね。でも何回聞かれても、まだ答えがわからない。
僕は大学で日本の勉強をしてきました。日本語だけじゃなくて、日本の文化も歴史も、映画の授業もあったし、小説もいっぱい読んで、めちゃくちゃ調べてきました。歴史なんて、日本の子どもみたいに最初から勉強したんです。1回も和食を食べずに、1回も日本に行かずに、勉強だけしてきた。
だから、日本に来た時「思った通りだ!」って興奮しました。「読んだ通りだった!一緒だ!」って。違っていてショックだったことは全然ないんです。
「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」より 出典: (c)ペッペ/小学館
――どんなところで答え合わせができたのでしょうか。
簡単なことだけど、みんな電車乗るときは並んでいるし、自分より相手やグループのことを考えますよね。
僕、もともとイタリアで「なんでみんな並ばないの?」「なんでみんな家で靴脱がないの?」って思っていました。嫌だなあって思っていたんだけど、日本ではみんな並ぶし、靴を脱ぐでしょ。僕は日本では「やっぱりこうだよね」「これが普通だよね」って思うことばかり。僕は、もしかしたらもともと日本人だったんじゃないかって思う(笑)。
そんなこと言ってるけど、テラハに入ったとき、靴を履いたままだったけどね(笑)。
※ペッペさんは、テラスハウスに入居した日、リビングまで土足で入ってきてしまうというハプニングがあった。
全然!(笑) 緊張していて、家もめっちゃおしゃれで、普通に入っちゃった……。
ステレオタイプを変えたいイタリア人が靴のままで入るなんて……失敗。すごく恥ずかしかった(笑)。
――漫画でミンゴは、イタリア人の友人から、女性を積極的に誘うようにすすめられます。ペッペさんも、イタリアで「男性は積極的であるべき」というプレッシャーを感じていましたか。
感じていましたね。そのプレッシャーのせいで、結局シャイになっちゃった。
18歳の時、僕だけ彼女がいなくて、「女性と付き合えないのはダメな人間だ」「次のステップに進まないと女性に対して失礼だ」という周囲のプレッシャーを感じていました。恋愛に時間が決まっているわけじゃないのに、「早くチャレンジしろ」みたいな。レース(競走)でもないのに。
でも、残念だけど、その時僕も結局レースを感じてしまった。付き合った子が実はそんなに好きじゃなかったんです。今までで一番後悔していることです。
すごく後悔したから、僕はその経験で学びました。だから若い人には、そんなに慌てなくていいって伝えたいですね。
「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」より 出典: (c)ペッペ/小学館
――「チャラい」と言われるのが嫌だとおっしゃっていましたが、外国人に対するステレオタイプはどうやったらなくせると思いますか?
ステレオタイプはなくしたくないし、大事だと思います。普通に「イタリア人」と聞いたら、「パスタ」とか「ピザ」とか、何らかのイメージが湧きますよね。それもないと、興味が湧きません。
逆に、ステレオタイプを国がつくることだってありますよね。例えば、富士山ももともとは普通の山ですよね? でも、今では世界中の人が知っているシンボルになった。日本もイタリアも、その国の人がうまくステレオタイプをつくったから、人気の国になったと思うんだよね。
だけど、ステレオタイプで止まるのは嫌ですね。
ステレオタイプはあくまで「ステップ1」で、そこからお互いに詳しく知ってほしいですね。旅行でもいいけど、そこに住む「人」を知って欲しい。
僕は大学で日本語を学んでいたけど、その時は日本に行きたくなかったし、イタリアにも寿司や和食のお店はあるけど、そこには行かなかった。それは日本語がまだ十分じゃなかったから。
日本語で日本人と話せるようになって、本当の日本を知ることができると思ったんです。
僕は日本に来てから、初めて日本語でコミュニケーションを取れた経験がすごく素敵だったから、日本に恋に落ちた。もしかしたら日本語が話せるようになる前に、日本に行っていたら僕は全然違う印象を持っていたかも知れない。
たぶん日本人が、イタリアでイタリア人と話したら、絶対にイタリアに恋する。旅行して、パスタを食べて、コロッセオの写真を撮って帰るだけなのは、ちょっともったいないですね。
――その国の人と身近な関係を持つことが重要なんですね。
そうそう。だって国は食べ物や建物じゃない、国は人でしょ。
イタリア人がいるからイタリアはいいところで、日本人がいるから日本はいいところだから。
――最後に、『ミンゴ』を通して伝えたいことを教えてください。
日本でこういう外国人が住んでいるっていうことを、もう少し詳しく知って欲しいです。いつかどこかでシャイな外国人に会ったとき「ミンゴで読んだ感じの人だ」って思えると、相手も話しやすくなるかもしれないですよね。
だから、漫画ではこれからもいろんなシチュエーションを出していくので、それが日本人と外国人がつながる接点になればうれしいです。
<ペッペ(デュラト・ジュゼッペ)>
1992年生まれ。イタリア・アブルッツォ州出身。16歳のときに漫画家を志し、ヴェネツィア大学卒業後、2015年に日本へ移住。「週刊ビッグコミックスピリッツ」で「ミンゴ イタリア人がみんなモテると思うなよ」を連載中。リアリティー番組「テラスハウス TOKYO 2019―2020」(フジテレビ系列)にも出演し、注目を集めている。