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中国に新たなエコの動向 教科書の「プラスチックカバー」にノーを
中国の新学期に合わせてよく見るのが、教科書カバーの買い出しです。毎日使う教科書を大事に使うため生まれた伝統ですが、親が手書きで名前を書いてくれたり、イラストを描いたりしてくれた記憶は、多くの中国人にとって大切な思い出になっています。しかし、近年、便利なプラスチックカバーが主流になっています。そんなプラスチック製の教科書カバーに対して、今年10月、当局が一斉に「ノー」を突きつけました。理由は環境への配慮。現地のSNSで巻き起こった反応から、中国で進む環境問題の意識の高まりについて考えます。
中国の小中学校では、新学期が始まると、子どもたちが教科書にカバーをつける「伝統」があります。低学年の場合は、字をうまく書けない子どもの代わりに、親が科目名を書いたり、時にはカバーにイラスト描いたりすることも。それは、親子の貴重なコミュニケーションにもなっています。
カバーの材料は、カレンダーのような硬めの紙が一般的です。カレンダーを再利用する場合、裏側の白い面を使う人がいたり、表側の絵柄がある方を使う人もいて、個性が出ます。
カバーは、教科書をいためないために使われます。昔の中国の教科書はやぶけやすい紙に印刷されるものが多く、カバーをかけないと毎日使っているうちにボロボロになってしまいがちでした。また、中国の子どもが登校する時に使うかばん「書包」(スーバオ)も、昔は布製のものが多く、かばんの中で教科書がいたんでしまうため、本を「硬く」する必要がありました。特に、よく使う国語や数学、英語などの教科書はカバーが必須です。
保護が目的ではあったものの、多くの子どもたちにとって、新学期に、新しい教科書に新しいカバーをつけることは、楽しみの一つでもありました。カバーの色、書く文字などには、新学期への期待が込められていたのです。
一方、経済が豊かになった中国では、教科書の紙質も改善され、表紙も丈夫になりました。
それでもカバーの伝統はなくなりませんでしたが、変化も起きました。最近、登場したのが透明無地のプラスチックカバーです。共働きなどで忙しくなった親は、時間をかけて紙のカバーをつけ、絵を描いたり、字を書いたりする余裕がなくなり、プラスチックカバーを使うようになりました。
小中学校の中には、プラスチックカバーを義務化するところも増えていました。
そこで、新学期が始まると、学校の前の文房具商店街では、おびただしいプラスチックのカバーが売られるようになったのです。
教科書だけでなく、副教材のカバーなど、サイズもA4からB5、B6など、バリエーションが豊富です。
一人の小学生が少なくとも10枚以上を買わなければならないので、飛ぶように売られていきます。
中学生の場合、科目も宿題も増えるため、数十枚を当たり前のように買ってしまいます。
このプラスチックカバーに当局は「ノー」を突きつけたのです。
10月30日、『北京青年報』の報道によると、中国教育部、生態環境部、市場監督管理総局、中国科学協会という四つの政府の部門が、共同で「小中学校でエコ文明思想、エコ環境意識を高める」という通達を出したと伝えました。
プラスチック製のカバーを禁止する方向で、「ノープラスチックの新学期」を提唱しました。
記事はたちまち「#中小学校不得强制学生使用塑料書皮(小中学校でプラスチック製カバーの強制使用禁止)」というキーワードで、話題のニュースとしてランキング入りしました。
「ノープラスチックの新学期」に対しては、賛成の意見が目立ちました。
「息子は1年生です。学校の規定ではプラスチックカバーが決められています。(カバーを使い回して)毎日使う教科書だけにつけようとしてたら、『全部つけないといけない』と先生に言われました。無言…」
「プラスチックカバーの中には、臭いがあるものもあって、健康にもよくない」
同時に、カバーの思い出を懐かしむ声もありました。
「小さい時には、新聞紙でカバーをつけたなあ」
「自分でカレンダーの紙でカバーをつけました時は、一冊ごとに達成感がありました」
「私は父親が紙のカバーをつけてくれました。その包み方がとても綺麗だった……」
『北京青年報』の報道によると、通達の主な目的は、小中学生の環境意識を高め、省エネなどへの理解を日常生活に浸透させることだと説明されています。
中国では近年、国を挙げて環境問題への取り組みを強化しており、市民レベルでも意識が高まっています。
今年の7月、上海が率先して「ゴミ分類」を進め、現在大都市を中心にゴミ分類が行われています。
また建国記念日70周年の行事で、飛ばされた風船は自然に分解される素材が使われているといいます。閲兵式で飛行機から出たカラフルな煙も、環境には無害なものだと強調されました。
浙江省で18歳まで過ごした私も、教科書カバーの思い出があります。
小さい頃、父親が時間をかけて私のすべての教科書に紙のカバーをつけてくれて、特殊の折り方でカバーの角まで補強してくれたことは、今でも忘れられません。
カバーは、教科書を大事にする気持ちを育て、勉強の大切さを教えてくれる存在でもありました。
便利なプラスチックカバーの出現で、昔から続く「伝統」がなくなってしまったことは、正直、さみしい気持ちもありました。
環境問題を考えると、今回の決定は、意味があると感じています。人口14億人の国の子どもたちが使うプラスチックのカバーは膨大なものだからです。
また最近では、中国でもSNSを使った親子のやり取りが当たり前のようになりました。市販のプラスチックカバーではなく、親の愛情が伝わる紙のカバーが復活できれば、新たなコミュニケーションのきっかけになることを願っています。
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