連載
#36 コミチ漫画コラボ
新しいバイトは外国人…「ミライのお隣さん」が教えてくれたもの
主人公の男の子は留学生の「ホセ」と出会い、彼らの周辺にも変化が起こっていきます。2人の距離を縮めるのに必要だったのは……。
連載
#36 コミチ漫画コラボ
主人公の男の子は留学生の「ホセ」と出会い、彼らの周辺にも変化が起こっていきます。2人の距離を縮めるのに必要だったのは……。
「近ごろめっきり世界が小さくなった」ーー。漫画の主人公は、コンビニでアルバイトをしている日本人の男の子。彼の周りには、少しずつ外国出身の方が増えてきていました。
父は会社で英語が必要になることに焦り、母は近所に住む外国人がゴミの日を守らないと怒っています。しかし、主人公にとっては「他人事」のようです。両親の話を「ふーん」と聞いていた主人公ですが、ストーリーの中で、環境にも心境にも変化が起こっていきます。
きっかけは、バイト先のコンビニで、留学生の「ホセ」が働き始めたことでした。主人公は教育係になったものの、私語が多いホセにムッとする場面も。「何をどうしゃべったらいいんだか…」と困っています。
しかし、積極的で人懐っこい性格のホセに、少しずつ心を開いていきます。ホセの母国の様子や、彼が日本で学ぶ理由を聞いたとき、主人公は尊敬の気持ちを持つようになっていました。ホセを「外国人」ではなく、「ホセ」として見られるようになったとき、2人の距離はぐっと近付いたのでした。
そして、主人公の周囲にも変化が起こり始めます。父は翻訳ソフトを使いこなしてコミュニケーションがとれるようになり、母は外国人がゴミの日を間違えたのは案内板が理解できていなかっただけだったことを知ります。2人が抱いていた焦りや怒りも、解きほぐされていきました。
漫画では「すぐにはうまくいかなくても 自分の近くから 仲良くやっていけたらいいな」としめくくられます。
「お隣さんはすぐそこに」を描いたのは、コミチやSNSなどで漫画を発信しているちえむさん。近畿地方在住で、近所のコンビニなどで外国出身の方が働いている姿を見かけるといいます。「母国語じゃない言語で、働いているのはすごいなと思います」
漫画のストーリーは、そんな自身の生活と、日本で暮らす外国人を紹介する記事を重ねながら、身近に生まれそうな関わりを考えていったといいます。
「国や地域によって文化が違うので、トラブルが起こってしまうことはあると思います」
そう話すのには、学生時代の経験がありました。大学の頃、中国に1年間留学していたちえむさん。日本語の「あいまいさ」を実感することがあったと言います。
「日本であればニュアンスで事細かに言わなくても、それこそ『なんとなく』で伝わることってありますよね。でも、留学生同士では『それってどういうこと?』と掘り下げることが多くて、うまく伝えられず、もどかしい気持ちになりました」
もしかしたら、日本で暮らす外国出身の方は、その「あいまいさ」が理解できず、異なる解釈をしてしまうこともあるかもしれません。日本では当たり前のことが、海外では必ずしも当たり前ではないと知ることも重要です。
ちえむさんは、「その上で、『どちらかの国の常識の方が優れている』というような表現にはならないように注意しました」。よりニュートラルな印象になるように、言葉も選んでいったといいます。
日本で暮らす外国出身の方の数は、年々増えています。日本人より外国ルーツの店員の方が多い、というコンビニやレストランもよく見かけるようになりました。ニュースでも、外国人にまつわる制度や労働環境がたびたび課題として取り上げられています。
しかし、日常的な関わりがないと、漫画の冒頭の主人公のように他人事に感じてしまいがちです。主人公の男の子が、「ホセ」に心を開くために必要だったのは何だったのでしょうか。
ちえむさんは、「ホセとの共通点や違いを、個人の実感として持てたことでしょうか」。
「中国に留学して、そこに住む人の考え方の傾向や全体的な雰囲気は感じましたが、結局その中でもいろんな個性の人がいるんですよね。『この国の人はこういう人だろう』と、枠に入れてしまうのはもったいない。個人として関われると、自分事として身近に感じやすいのだと思います」
数年前から、中国語講座にも通っているちえむさん。中国語に親しむきっかけは漢詩や、漫画に出てくる中国語のセリフだったといいます。今では字幕つきで中国語のドラマを楽しむなど、より身近なものになっています。
「例えば、今であれば好きな海外のスポーツ選手や芸能人のSNSをフォローするだけでも、海外を身近に感じられるし、言葉の勉強にもなると思います。楽しみながら世界を広げられる、いい時代になりましたね」
1/37枚