IT・科学
レシート買い取りアプリONE、18歳の経営者がこだわる「継続」
山内奏人さん(18)は、高校3年生で開発した開発したアプリが、サービスを中断させるほど爆発的ヒットとなりました。大学に通いながら、10人を雇う会社の経営者としても活動しています。サービス中断という失敗を経験した山内さんが、今、大事にしているのは「継続」だと言います。大企業でも安泰ではなくなった時代と言われる一方、起業家のハードルが高いと感じる人は少なくありません。山内さんの歩みから、Z世代にとっての挑戦とは何かを考えます。
価値がないものだと思われていたレシートの情報を買い取るアプリ「ONE」をリリースしたのは、2018年6月、高校3年生のときでした。「財布にたまっているレシートが瞬時に現金に変わるアプリ」というサービスは、レシートの写真を撮るだけでアプリ内のウォレットに10円が振り込まれる仕組みです。各地の金融機関で出金することも可能です。
「色々なヒントがありました。大枠は、メルカリや金券ショップみたいなところからです。ある人にとって価値はないけど、別な人には価値があるようなビジネスがフォーカスされていました。直感みたいなものから開発がスタートしました」
ポイントは、価値の非対称性と日常のちょっとしたわくわく感だと言います。
「日常生活の中で、買い物をしてレシートをもらいますが、その瞬間はゴミをもらっているという感覚がありました。サービスでわくわくするものを作りたい、紙をお金にするのは面白いなと思いました」
データの帰属はモノやサービスを利用した人にあり、そのデータはレジを持つサービス提供者側ではなく、利用者側が持つといった考えがベースにあります。EUでもデータは個人に帰属するという流れの中、山内さんは「ONEでも個人のデータを販売してもらっているという考え方です」と説明します。
山内さんはどのような環境で育ってきたのでしょうか。
「6歳か7歳のころだったかな。親が昔、使っていたノートパソコンを触りはじめていましたね。部屋の隅に置いてあったものを使っていたので、親が何か意図を持って子どもにパソコンを使わせようとか、触れさせようとかいったことではありませんでした」
当時使っていたパソコンは、シャープのメビウス。windowsです。
「ゲームにはまる感覚かな。遊びとして面白かったです」
ワードやエクセルに触れるうちに、「気付いたらプログラミングをしていました」と振り返ります。9歳か10歳のころ、図書館にあった本を読み、独学でプログラミングを始めていたそうです。
最初に開発したのは、パソコンをロックするソフト。
「学校から帰ってきて、みんなはゲームをして遊んでいましたが、同じような感覚でコードを書いていました」
転機は小学6年生のときに訪れました。2012年、「中高生国際RUBYプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞を受賞したのです。
「賞をもらったことで友だちの輪が広がり、色々なイベントにも参加するようになると、そこでIT企業の経営者や起業家の人たちに声を掛けられるようになりました」
技術力を買われてベンチャー企業のスタートアップにエンジニアとして加わり、売り上げ管理システムの開発を任されました。「エンジニア、デザイナーからビジネスサイドのことまで触れられるスタートアップにのめり込んでいった」と振り返ります。
起業は2016年5月、高校1年のときでした。当時、取り組んでいた仮想通貨をプリペイドカードにチャージするサービスを、クレジットカード会社と組んで行おうとしたとき、契約という問題がでてきたからです。
「クレジットカード会社のネットワークの中で、仮想通貨を使えるようにしたい、と考えました。ところが、こちらが開発したものを使ってもらうには、カード会社との契約をしなくてはいけなかったのです」
自己資金で会社を設立。その後、第三者割当増資をし、現在は役員を含め10人のスタッフが働いています。山内さんは今、エンジニアの仕事はスタッフに任せ、新しいビジネスモデルをどう生み出していくのかといった部分や経営に集中しているといいます。
起業を目指す人たちがいる一方、実際にはリスクを懸念して踏み出せない人が多くいるということについて、山内さんは「継続」の大切さを強調します。
「起業は誰でもできると思いますよ。最近すごく思うことがありますが、結局、続けるか、続けないかの闘いだと思います。僕は『ワカメのような人だね』とよく言われます。どんなに失敗してもまた何とか立ち上がるので、水をかければ元に戻るようなワカメのようだからです」
実際、「ONE」はリリース直後、想定以上の人気を集めたため資金ショートの危険から、サービスを中断せざる得なくなる事態になりました。
「16歳で1億2千万円を集め、色々なことに取り組んできました。その中でたくさんの失敗もあります。でも、そんな時に失敗を知ったうえで僕に水をかけて元にもどしてくれる人たちがいました。運がいいのかもしれません」
その後、「ONE」では、保険証書や名刺など、情報がより絞り込まれたものに限定するなど、当初のコンセプトを維持しながら、サービスを続けています。
「失敗しまくれば勉強になるんです。色々な人が手伝ってくれます。つまり、やろうと思うかの違いだけだと思います」
「水をかけて元に戻してくれる人とは、投資家、株主、社員の人たちのことです。また、チャンスがあると思ってくれているということは、うれしいことです」
「スタートアップにエンジニアとして参加し始めた中学生時代、大人の中で一人だけ身長が低かったので周囲の人たちが面白がってくれました。早くから働き出したので、そのつながりで色々な人を紹介してもらうことが多かったです」
今年4月から、山内さんは大学に進学しました。目的は「知識の幅を広げたい。それ以下でも以上でもありません」と言います。CEOとして経営に注力し、ここ2年はコードを書いていません。次への事業戦略を常に考えているといいます。
シリコンバレーなど海外での挑戦やグローバル企業を目指す人たちもいますが、山内さんは「日本が好きなので、まだまだ日本で出来ることをしていきたい」と考えています。
「がんばっていれば、黙っていても応援してくれる人が出てきます。応援してくれた人たちがいるから、やめることは失礼です。続けることが大切なのです」
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ジェネレーションZ(Z世代)が、輝きを増しています。生まれたときからインターネットが当たり前のように存在する「デジタルネイティブ」な世代。クリエーティブな発想とプログラミングという技術を使って時代を切りひらく、令和時代のイノベーターたちの生き方に迫ります。
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