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日本人が忘れていた「未来の建築」 今やステータスの「KAYABUKI」
茅葺きの家といえば、イメージするのは田畑に囲まれた農村に建つ姿ではないでしょうか。「日本の原風景」とも言われる日本昔話のような世界。ところが海外ではまったく様子が異なります。新築の一戸建てにアパート、消防署まで「ほんとに茅葺き?」と、一見するとわからないものばかりです。5月に日本で初開催された「国際茅葺き会議」を通して、参加国の茅葺き事情を探りました。
国際茅葺き会議に加盟しているのは、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン、南アフリカ、日本の7カ国です。
まずは茅葺きの使い方が最先端と言われているオランダ。新築の茅葺きの家もあり、アパートや消防署、役所にも使われています。写真を次々と示しながら、オランダ代表で発表したヨースト・クルフッエルさんは「こういう家を人々は求めている」と話します。
「貧しい人が住むというイメージから、ステータスシンボルに変わってきている。エコロジー(自然環境保全)にかなっているからだ」と説明しました。
オランダに続こうと取り組みを進めているのがデンマークです。西海岸などで別荘建設が進み、主な顧客はドイツの人たち。従来の伝統家屋に住む人に加え、新たに住もうという人は環境への意識が高いそうです。
若い世代の中にも、家を建て替える時に茅葺きにする人もいます。ヨーガン・カールップさんは、「未来のために茅葺きにしている」と話します。
自然環境やエコロジーへの関心が高まり、茅葺きが再評価されています。南アフリカでは茅葺きを使った観光客向けのホテルが建っています。
茅葺きの茅とは、ススキやヨシの草の総称です。参加国の多くが中国や欧州各国から輸入しています。そのための品質管理の取り組みが進み、互いに意見を交わしていました。茅は燃えやすいのが欠点ですが、英国は薬剤を使って延焼を防ぐ取り組みを紹介しました。
一方の日本。ほぼすべての茅を国産でまかなっていますが、建築基準法などの定めで市街地で新築の建材には使えません。農村でも新築の選択肢になっていないのが実情です。
日本茅葺き文化協会の安藤邦広さんは「日本は産業化では遅れているが、昔ながらの循環が残っている」。
草で屋根を葺き、古くなれば肥料として土にかえります。この循環にデンマークの代表らは関心を示しました。
日本も産業化することで、安全管理や品質保証、人材確保が進みます。「慣習として受け継がれたものを明文化し、誰にでも伝わるようにする必要がある」
建築家で筑波大学名誉教授の安藤さんは、現代の建築現場で産業廃棄物を出し続けていることに、教育者として責任を感じていました。
茅葺きの建材は草や木で土にかえります。「未来の建築だと感じた」と言います。
国際会議を通して、「循環が残る日本の茅葺きは価値があると、確信が得られた日になった」と手応えを得ました。
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