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#30 #父親のモヤモヤ

「功が大きかった」イクメン、その陰で…たまひよ分析で分かったこと

24年分のたまひよを通読しまとめた竹原健二さんの報告書
24年分のたまひよを通読しまとめた竹原健二さんの報告書

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。
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妊娠出産、育児の情報誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」(ベネッセコーポレーション)は1993年に創刊され、今年26周年を迎えました。この間、女性の社会進出に伴い、夫婦共働きの家庭が増えるなど、家族のあり方にも変化がありました。2010年には、「イクメン」が「新語・流行語大賞」のトップ10入りをし、家事育児をする男性も増加。これらの雑誌のなかで、父親はどのように描かれてきたのか? この視点で雑誌の変遷をたどる調査を手がけた研究者と雑誌の編集部に聞きました。(朝日新聞記者・武田耕太)

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24年分のたまひよを通読

国立成育医療研究センター政策開発研究室長の竹原健二さんは今年、トヨタ財団の助成を受け、ひとつの報告書をまとめました。

タイトルは「『イクメン』はわが国の父親のありようの理想像といえるのか-『イクメンブーム』がもたらした影響とそれによって失った何かを問い直す-」。

1993年の創刊号から2017年12月号までを対象に、「たまごクラブ」「ひよこクラブ」を通読し、父親向けの記事やその表現などを分析しました。あわせて、「少子化社会対策白書」「男女共同参画白書」「文部科学白書」「厚生労働白書」と、行政が出す出版物を、古いものは1956年からたどり、行政の動きの移り変わりも検討しました。

研究の目的は、2010年に始まった「イクメンブーム」が日本の父親にどのような影響をもたらしたのか、社会がどのように変わり、父親、そして家族は何を得て、何を失ったのか、を検討することでした。

「イクメンという用語そのものが、もともとの定義から時間を経るごとに変わってきてしまっているということを強く実感していました。イクメンという言葉は響きがよかったし、社会にすっと受け入れられた。一方で、父親、母親、とくに子どもにとって本当によいものになっているのかどうか、という議論は置き去りにされている。そんな問題意識がありました」

国立成育医療研究センター政策開発研究室長の竹原健二さん=本人提供
国立成育医療研究センター政策開発研究室長の竹原健二さん=本人提供

ちょっとした手伝い→担当が具体的に

竹原さんによると、1990年代には、父親の家事育児は「トイレットペーパーの補充」や「ときどきお皿洗い」といった「ちょっとした手伝いをする」ことについての記載が多くありましたが、2010年以降は「パパの育児-これだけは知っておきたい-21」や、妻の出産のための入院中に「パパがやること41」などの見出しがつくなど、具体的で詳細な内容に変わっていきました。

また、2005年ごろまでは、「赤ちゃんを世話するママをサポートしよう」「赤ちゃんと仲良くなるコツ」などの記事が主流だったのに対し、2005年ごろからは「パパを操作する方法」「ママをもっといたわる」「パパのための家事・育児の“正しい方法”」といった記事が増えたそうです。

「イクメン」という言葉は、2010年ごろから多く使われるようになり、「育児をする、しない」ではなく「育児を楽しむ」という発想への転換を促すような記事も増えていきました。同じ時期、「ママが1人になれる時間をつくる」ことが推奨され始め、そのために数時間、父親が1人で育児ができるようになるための「how to」が紹介されるようになりました。

そして最近は「パパのto doリスト」など、夫婦の役割分担などをいかに「見える化」するか、という考え方に変わってきた、と分析しました。

竹原さんは24年分のたまひよを通読し、その変遷を調査した
竹原さんは24年分のたまひよを通読し、その変遷を調査した

社会の動きにあわせ、内容も変遷

行政の動きに目を向けると、2003年に少子化社会対策基本法が施行され、少子化対策にかかわる法整備が進みました。2010年には前述のイクメンの流行語大賞入りがありました。

こうした動きとあわせるように、記事の内容も変遷していった、と竹原さんはみています。

「イクメンという概念と、それに関する社会的なムーブメントは、突発的に生まれたものではなく、生まれるべくして生まれた、と考えます」

イクメンブーム「功の部分が圧倒的」

イクメンブームの功罪を考えるとき、竹原さんは「圧倒的に功の部分が大きい」と指摘します。

「女性の社会進出や男女平等の推進につながりました。また、日本において広く、父親の育児への関わり方について議論を促すことにつながりました」

一方、「画一的な父親像」を強調することにもつながった、とも指摘します。

記事のなかでも、母親の育児に対しては「子育てに正解はない」「母親ならこうしなきゃ! こうあるべきだ! ということはない」と呼びかけているのに対し、父親の育児に関しては「~すべき、こうあるべきだ」といったような表現が頻繁にされていることも、ひとつの特徴と考えられたそうです。

「社会として『父親が家事育児をしましょう』と言うならば、職場で残業時間を減らすなどしないと、個人にとっては苦しいだけになる。でも現実には「仕事に関してはイクメンと言ったって知らんよ」と、都合のよい社会が残ってしまっている。それによって父親のうつなどの健康問題も起きています」

厚生労働省が2010年に「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、イクメンは「育児を楽しむ男性」を指す総称として使われるようになった
厚生労働省が2010年に「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、イクメンは「育児を楽しむ男性」を指す総称として使われるようになった 出典: 朝日新聞社

タスク化する育児

また、竹原さんは「父親のあり方、育児における父親の役割など、もっと様々な意見が出ていいはず。もっと、議論が活性化していくべきだ」と話します。

「父親と母親がなんでもかんでも同じようなことをしなければいけないのか?」というのも、議論したらおもしろいテーマのひとつだと、竹原さんは考えているそうです。

「父親と母親が家事育児を協力していくなかで、いまや『タスク化』してきてる現状がある。それが行きすぎたとき、2人がともに『家事育児を一緒にまわす人』という形で、同じような組織の人間みたいになってしまって、その結果、言うことも子どもへの関わり方もどんどん似てしまわないか? という不安もあります」

いろんな人がいて、いろんな意見があって、というのが現実社会。「意見が違う人たちがいることを学んだり、そこでどうやって折り合いをつけていくかを学んだりということを、子どもたちは最小単位の家庭でなかなかやれなくなる、という懸念もあります」と話します。

「父親の役割、母親の役割を分けて語ろうとすると、男女平等の観点から敬遠されがちです。ただ、男女平等というのは『権利の平等』であって、いわゆる『タスクの平等な分配』ではないんですよね」

浸透から成熟へ

イクメンはインパクトの強いキーワードだっただけに、「一気に社会のなかに浸透させることができた」と竹原さんは指摘します。

「ただ、大きな布を広げていくようなイメージで浸透させることができた功に対し、その布にあいているいろんな穴に目を向けることはできなかったのではないでしょうか? 父親が育児をするようになることが浸透するなら、それでいいじゃないかと。総論は賛成、でも各論で問題が起こっている、みたいな状況が起きていると思います」

その穴が、いまだ変わらぬ長時間労働だったり、父親の産後うつだったり、画一的な父親像だったりするのかもしれません。

「今後は社会としてその穴をふさいでいく対策をしていき、父親にしろ、母親にしろ、大変だけど子育てもできるし、仕事もできて、というバランスのいいところを探していかないといけないと思います」

「いまは『イクメン』への慣れや飽きもあって、揺り戻しとしてブームは冷めてきていると思います。今後は、『イクメン』という概念の質を高めていく、成熟させていくというフェーズに入っていくと思います」

「今後は、『イクメン』という概念の質を高めていく、成熟させていくというフェーズに入っていく」と指摘した竹原さん(写真はイメージです)
「今後は、『イクメン』という概念の質を高めていく、成熟させていくというフェーズに入っていく」と指摘した竹原さん(写真はイメージです) 出典:pixta

育児雑誌、主語が「ママパパ」に

育児雑誌の作り手としては、男性の読者像をどう捉えているのか。「ひよこクラブ」編集長の柏原杏子さん、前編集長でエキスパートエディターの仲村教子さんに聞きました。

「積極的に育児をする男性が増えるなか、パパも一緒に読むものという意識は創刊当時より強くなってきている」。そう話すのは仲村前編集長です。誌面に登場してほしいと撮影協力を依頼すると、父親が一緒に来るケースが増えてきたといいます。

柏原編集長は、妊婦健診に同行する男性が増えたことを実感。「立ち会い出産が増えたこともあげられると思います」

こうした時代の変化は、内容にも反映されています。男性の読者モデルが女性と一緒に多く出るようになったり、主語が「ママ」だけでなく「ママパパ」と表記されたり。柏原編集長は「パパが『手伝いに来ている』というよりは、『一緒にやっていきましょう』という感じのつくりになってきています」。

「ひよこクラブ」編集長の柏原杏子さん(左)と前編集長の仲村教子さん=東京都内
「ひよこクラブ」編集長の柏原杏子さん(左)と前編集長の仲村教子さん=東京都内

みんなが幸せになる記事を

竹原さんの調査研究では、雑誌によって「『画一的な父親像』を強調することにもつながった」という指摘もありました。

これに対し、仲村前編集長は「とくにそういう意識はありません」。「~すべきだ」といった表現が頻繁にされるとの指摘については、「毎号、パパの特集をできるわけではありません。そのなかで特集を組む際に、シンプルにまとめて伝えようとして、そうした表現になっている時期もあったかもしれません」と話します。

編集部による読者アンケートなどでは、妻が求めていることと夫がやっていることの「ズレ」が、2人の間の溝を生んでいる、ということが見えてきています。今後について柏原編集長は、「パパの頑張りに寄り添いつつ、何か改善できることはないかというのを一緒に考えていき、結果、みんなが幸せになるような記事をつくりたい」と語りました。

父親のモヤモヤ、お寄せください

記事に関する感想をお寄せください。母親を子育ての主体とみなす「母性神話」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。こうした「母性神話」は根強く残っていますが、「出産と母乳での授乳以外は父親もできる」といった考え方も、少しずつ広まってきました。みなさんはどう思いますか?

いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。

 

この記事は朝日新聞とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。今回は「イクメン」をテーマにした記事を配信します。

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