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奥田瑛二さんが「1千万円」かかる「茅葺き屋根」守ろうとする理由
俳優・映画監督の奥田瑛二さんは、父の生家の茅葺き屋根の家を、幼いころから何度も訪れています。妻を父親に紹介した時、娘2人を連れて探検した夏休み。茅葺きの家には家族との思い出が詰まっています。
「小さい頃からしょっちゅう行って山や川を散策しておりました。おじいさんが山で木を切ったり、おばあさんが畑で野菜を採ったりすればついて行きました。畑まで150メートルくらいあるけれど、あぜ道を通るだけで蛇を2匹くらい見ますね。井戸の水をくんで、冷やしたスイカを取りにいくなどの手伝いは、子どもの頃からやらされていました」
愛知県春日井市出身の奥田さん。父の生家があるのは車で20分ほど離れた愛知県瀬戸市の自然豊かな山里です。
妻はエッセイスト・コメンテーターの安藤和津さん。
「和津さんをうちのおやじに紹介した時も、春日井の実家ではなくて茅葺きの家に連れていきました」
映画監督・安藤桃子さんと、俳優の安藤サクラさんが生まれてからは、頻繁に訪れました。
「夏休み冬休み春休み。ことあるごとに行って、僕が隊長で子どもたちと山散策や川遊びをしました。娘が小学校か幼稚園のころ、散歩をしていたら『お父さんあれなあに?』。どれだって聞くと、白いブツブツのがいっぱいいる。カエルの卵です。彼女たちのヒザの高さくらいの沼だったのでパンツ一枚にして遊ばせていました。両手でとって『食べられるの?』『食べちゃだめだよ』『かわいい』『きれい』って遊んでましたね」
茅葺きの魅力は、こうした自然に包まれた環境にもあります。
「茅葺きは自然と完全に一体化していて、魅力は風。命は風だね。水がきれいであれば、山も美しいし川もきれいで、爽やかな風が吹く」
「家の戸と窓を開けっ放しにすると、家の中を鳥がぴゅーっと低空飛行で通過していくんですからね。すごいですよ。もっと面白いのが、家の中でポトーンと音がするんですよ、何だと思いますか。アオダイショウが落ちてくるんです。子どもがそれを取って首に巻いて遊んでいる。自然と一体化とはそういうことだと思いましたね」
アオダイショウを首に巻いたのはおいっ子たち。親戚一同や同級生たちが集まって、ジビエを焼いてお酒を飲む交流の場になっていた時もありました。
茅の葺き替えは2回ほど見たことがあるといいます。
「三河の方の茅を、職人さんが家に来て寝泊まりしながら葺いていくわけです。それを一から見てましたね。もう、優美な感じで、職人技というやつでしょうかね。今はそういう職人さんも少なくなっちゃったというのは伺っています。茅は葺くとめちゃくちゃ高いんですよ」
茅葺きは元々、近場の草を使い、住民の共助組織で葺いていました。その生活スタイルも様変わりし、ほとんどの茅葺きは遠くの茅場から輸送した草を職人が葺いています。
そのため費用が高額になり、日本茅葺き文化協会によると、葺き替えには数百万から1千万円の費用がかかるようになりました。
「両方葺くと金がかかるので、半分葺いて何年か経ったら反対側を葺くという風に、片方ずつ葺いていたようです。集落は茅葺きが多かったんですが、金がかかるのでその上に黒いトタンをしつらえて住んでいました。うちは最後の茅葺きなんじゃないかなぁ」
いまは奥田さんの弟が継いでいます。維持するために費用も手間もかかる茅葺きを守り続けているのはなぜでしょうか。
「やっぱり父親が大切にしていましたから。茅葺きの家と、和風の家を離れに建てて愛してましたね。それが強烈に僕たちの中に残っていて、大事にしなきゃいかんぞ、と。父親が元気な頃からずっと言っていました。今は年に1度くらいお墓参りに行きます」
初監督作品の「少女」(2001年)の舞台は瀬戸市で、茅葺きの家も登場しました。
「撮影した50歳のころ、茅葺きの家に誰も住まなくなって果ててたんですよ。そこを映画で使うメインの家にしたんです。池もあるんですけど、草ボーボーで、中も全部掃除しなきゃいけないっていう状態でした」
「80歳のおばあちゃんが一人で住んでいる朽ち果てた家として使って、主役の2人がそこに入り込んでいったら、家がどんどんキレイになっていく。そういうプロセスで映画を撮っていったもんだから、めちゃくちゃ復活しましてね。それが僕にとっての一番の貢献だったかな。感慨深いですね」
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