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連載

#6 遁走寺の辻坊主

友達を作れないのが怖いんです……坊主となった辻仁成が答えます

若者の悩みに「遁走寺の辻坊主」の答えは……=イラスト・山田全自動
若者の悩みに「遁走寺の辻坊主」の答えは……=イラスト・山田全自動

辻仁成さんがお坊さんとなって10代の悩みに答える「遁走寺の辻坊主」。女子高生が相談した「友達を作ろうと思っていろいろと頑張っても、作れなくて焦ってしまう」という悩みに、辻坊主が授けた教えとは?

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今日の駆け込み「友達ってなんだろう2」

その翌週、ニーナが再び遁走寺にやって来た。
濡れ縁で午睡をしていたので、近くに来るまで気づかなかった。
猫の百地三太夫が、またあの子が来てるぞ、とわしの耳元で囁いて教えてくれた。
薄目を開けて境内を見やると、ご神木の向こうからこっちを窺う少女がおった。
「おや、ニーナ、どうした?」
と告げると、ニーナは微笑んで、
「寝てるからどうしようか迷ったけど、ごめんなさい。起こしちゃいましたね」
と言った。
「でも、いつ来てもいい、と言ってくれたから、また、来ちゃったの」
そして、わしの方へとゆっくりやって来た。
わしは濡れ縁に座り直し、ニーナ君と対峙した。
「かまわんよ、ちょうど起きるところだった。先週の続きかな?」 
「うん」
「どうした?」
「辻坊主に言われた親友と心友の違いをずっと考えていた。で、ツイッターの友達にもそのことを知らせたら、50も『いいね』がついた。わたしのフォロワーは20人だから、知らない人が30人も『いいね』してくれたのよ」
「よかったじゃないか」
うん、と肯ったが、顔がくぐもっている。
みゃあ、と三太夫が鳴いた。
たしかに、なんか変だな。

「なのに、浮かない顔をしておるのはなぜだね」
「辻坊主、わたし、あれから友達を作ろうと思っていろいろと頑張ってみたの。でも、結論から言うと友達、出来なかった。なんでかわからないけど、出来ない。わかってる、辻坊主が言いたいことは……」
ニーナは口腔に溜まったつばをごくんと飲み込むように決意をしてから続けた。
「まだあれから一週間しか経ってないのだから、焦っちゃいけないのはよくわかっている。でも、なんか友達を作れない気がして怖いの。怖いんです、辻坊主」
みゃあ、と三太夫が短く鳴いた。
猫語で「やれやれ」という意味である。
「辻坊主、わたし、やっぱり友達の作り方がわからない。どうやったら友達を作ることが出来るのか教えてください」
わしは濡れ縁に座り直した。
それから帽子を一度とり、頭をぽりぽりと掻いた。
これはわしが知恵を振り絞る時のおなじみの動作でもある。ぽりぽり。


「あのな、ニーナ、お前は今、友達を作る、と言った」
ニーナがぽかんと口を開けてわしの顔を見上げておる。
「言ったな?」
「はい、言いました」
「それがそもそも間違えておる。いいか、友達を作る、という言い方は友達にとっても失礼じゃないか? 作るのか?」
「え? 意味が分からない」
「わしは友達を作るとか、友達が出来た、という言葉は使わない。友達になる、という言い方をする。たんなる言葉遣いの差だと思うなかれ。そこに人間の思い上がりが潜んでおる。作るとか出来たという言い方だと友達はプラモデルみたいじゃないか?」
ニーナの眉根が撓った。

「そうじゃない。相手は人間で、しかも家族でもないし、自分でもない。その他人に敬意がない。友達は作るものでも、出来たと自慢するものでもない。友達になるのだから、何某かも相手の許可が必要なんじゃよ。相手も君を友達だと思わない限り、二人は友達にはなれない。プラモデルみたいに自分勝手に作って、飽きたら途中でやめてもいいというような玩具じゃない。お互いがお互いを友達と認めなければ、友達になれない。プラモデルが完成するみたいに友達が出来たというのもまた間違いだ。友達に完成形はない。つねにお互いを思い合い、大事に育てていく、つまり永遠に続く道のようなものだ。ともに、一緒に、そこを歩いていく中で、関係が深まっていき、心が深く通じ合うようになり、最終的に親友と認め合うようになる。長い時間が必要で、今作っておしまいというようなものじゃないということを、わしは君にもう一度だけ言っておこう」

ニーナが黙って、固まってしまった。
「どうした?」
え、とニーナがつぶやき、我に返った。
「辻坊主、本当にありがとう。先週に引き続き、よくわかりました。焦らずにこつこつ、いい友達になれるように頑張ってみます」
わしに代わって、三太夫が、みゃあああああ、と偉そうに言った。
なんて言ったかって? それはご想像にお任せする。
さてと、わしは午睡の続きじゃ。

辻仁成(つじ・ひとなり)1959年、東京都生まれ。『海峡の光』(新潮社)で芥川賞、『白仏』(文芸春秋)で仏フェミナ賞外国文学賞。『人生の十か条』(中央公論新社)、『立ち直る力』(光文社)など著書多数。

山田全自動(やまだ・ぜんじどう)1983年、佐賀県生まれ。日常のふとした光景を浮世絵風イラストにしたインスタグラムが人気。著書に『山田全自動でござる』(ぴあ)、『またもや山田全自動でござる』(ぴあ)。

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