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「馬好きさん急募」台風の牧場で起きた出会い 災害支援に「CtoC」

台風被害を受けた南房総半島にある馬森牧場が発信した「馬好きさん急募」に、全国のボランティア未経験者がSNSに反応した
台風被害を受けた南房総半島にある馬森牧場が発信した「馬好きさん急募」に、全国のボランティア未経験者がSNSに反応した

目次

台風15号で大規模な停電などの被害が出ている千葉県で、9月19日、「馬好きさん急募 乗馬コースの枝の片付けをしてくださる方待ってます」という呼びかけがツイッターで発信されました。多くの被災地でボランティアを経験し、有志による団体「FUKKO DESIGN」を立ち上げた木村充慶さんは、「馬好きさん急募」の呼びかけには、被災者と支援者のつなぐマッチングの新たな可能性があると考えています。牧場に現れた「馬好きさん」たちとの間で起きた「想定外」の出会いとは? 木村さんに、個人と個人同士を直接つなげる「CtoC」と災害支援についてつづってもらいました。

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東京からすぐに訪れられるはずの千葉で……

台風15号の被害から2週間が経った千葉。いまだ停電や断水の影響は残るが、多くのエリアで緊急の状況は脱して、元の生活に戻す復旧作業に入っている。

発災当初、道路も遮断されておらず、東京からすぐに訪れられるはずの千葉で物資が足りなかった。一方で、SNSを見ると、被害情報をしきりにシェアしたり、何かできることをしようと思っていたりしている人が多く存在した。東京に住む私としては、この状況に違和感を感じた。

現地では行政やボランティア関係者は懸命に対応していた。両者をマッチングすることでもっと多くの支援ができないかと思い、現地に入って地元の仲間と連携し、「CtoC」によるボランティア募集の取り組みを始めた。

台風15号の影響で出た災害廃棄物の中には、ぬいぐるみもあった=2019年9月17日午前11時7分、千葉県鋸南町岩井袋、江口和貴撮影
台風15号の影響で出た災害廃棄物の中には、ぬいぐるみもあった=2019年9月17日午前11時7分、千葉県鋸南町岩井袋、江口和貴撮影 出典: 朝日新聞

すぐにきた応募

発災直後は物資が足りておらず、地元の有志が中心となってSNSで物資支援の募集を発信した。直後ということもあり、情報はすぐに拡散し、支援の応募はすぐに集まった。

しかし、次第にニーズは変化。民家の屋根や農地のビニールハウスなどの被害が想像以上に多く、途方に暮れている人が多数いた。しかも、物資支援のようにわかりやすくなく、すぐに情報は拡散しない。そこで、個人での復旧ができそうにない家主や農家の方に「bosyu」を紹介し、必要に応じて修理や解体の募集を行ってもらった。

「bosyu」とは、SNSと連動して気軽に仕事募集ができるWebサービス。現地の人から欲しい支援情報をSNSで発信し、「外」の人によるボランティアにつなげられないかと考えた。

応募は、すぐにきた。屋根を直す職人やビニールハウスを解体する人が数十人もきてくれた。

SNSで広がる動きを見た他の人も使いはじめ、徐々にその輪は広がった。すると、想定していなかったようなボランティア募集も現れた。

「気軽な感じで」募集

「馬好きさん急募 乗馬コースの枝の片付けをしてくださる方待ってます」

それが「馬森牧場」が発信した募集だった。馬森牧場は南房総半島にある馬の牧場。今回の台風の被害で牧場にあるたくさんの木が倒れた。

牧場の代表の菅野奈保美さんに状況を聞いた。牧場を一周する乗馬コースが整備されているのだが、台風でコース上に次々に木が倒れた。あまりの倒木の多さにとても一人で対応できなかったという。

菅野さんは知人が「bosyu」でボランティア募集しているのを見て自分もやろうと思ったという。

「ボランティアというと腰が重くなる。緊急で対応しなきゃいけないわけではなかったので、『馬が好きだから来る』くらい気軽な感じでいいのでは」

そう思って、敷居を下げたボランティア募集をした。

募集をすると、すぐに色々な方から応募が来た。「bosyu」のサービスを使って応募してくれた人は17名。菅野さんは「他にも電話、Facebook、Twitter、メールなどからの問い合わせもあり、実際はもっと多いです」と振り返る。

もともとは大きな効果を想定していなかったが、SNSの力は想像以上だった。「面識のない方からも応募がきた。聞いてみると誰かのつながりだったり、知っている人のリツイートがきっかけだったりするケースが多かった」という。人から人へ。SNSならでの横のつながりで広がっていった。



ボランティアは「楽しく過ごしてもよい」

実際には、どんな人が参加したのか。

馬森牧場でボランティアに参加された小出一彦さんは牧場の近くに住んでおり、災害前には行ったことがあったという。そんな時、bosyuの投稿がFacebookで流れてきて応募した。

「そのころはブルーシートで屋根の応急処置をするボランティアなどがよく募集されていたが、私にはそれは無理。馬森牧場の場合は危険な作業はないし、何より私は動物が好きなので、馬と戯れながらできるのがいいと思った」

ボランティアに参加した方々は皆意欲的で作業は想定以上のスピードで進んだという。倒木も半分程度が処理され、徐々に復旧に近づいている。

菅野さんは「猫や馬もいる。楽しく過ごしてもらいたい」といい、昼は菅野さんとボランティアの人たちと楽しく食事をすることが多い。通常のボランティアでは作業の合間に個別に食べることが多いが、牧場では馬や猫の話題で盛り上がり、和気あいあいとした空気になるという。

台風被害を受けた南房総半島にある馬森牧場が発信した「馬好きさん急募」に、全国のボランティア未経験者がSNSに反応した
台風被害を受けた南房総半島にある馬森牧場が発信した「馬好きさん急募」に、全国のボランティア未経験者がSNSに反応した

ボランティア以上の何か

菅野さんやボランティア参加者の話を聞き、私も体験したくなって現地に行って参加してみた。

所用があって午後からの参加となったが、菅野さんは嫌な顔一つしない。「1時間でもボランティアをしてもらったら嬉しい。みんなでやることで楽しくできる」(菅野さん)

一緒に参加した長谷川雄也さんは一人で参加していたが、菅野さんとともに笑顔で楽しく作業をしていた。菅野さんとは面識がなかったようだが、知人が今回の「bosyu」を応募したことをSNSでシェアした投稿を見て参加したという。

「もともとボランティアをしたことはなかったが、県外の知人がやっていて、県内の自分がやらないのもおかしい。しかも、楽しそうだった。これならできそう」と思って応募したようだ。

筆者がボランティア作業している時の様子
筆者がボランティア作業している時の様子

当日は作業も早く終わり、参加者も少なかったため、少し乗馬もやらせていただいた。山に囲まれた南房総の大自然の中、自身が倒木を片付けた牧場で乗馬。長谷川さんも私も自然と笑顔になっていた。終わった後に、自然と「また来ます」と菅野さんに伝えていた。

私も実際に参加させてもらったが、bosyuによるボランティア被災者のニーズに支援者をマッチングできたのはもちろん、現場ではそれ以上の体験が生まれていると感じた。

「Airbnb」が空き部屋を持っている人と旅行したい人をマッチングさせたことで、地元に溶け込むように旅をする新たな価値を生んだように、災害支援においても今までにない価値を持たせられる可能性があるのかもしれない。

作業終了後に乗馬をさせていただいた
作業終了後に乗馬をさせていただいた

ボランティアの自分ごと化

馬森牧場での取り組みから考える「CtoC」災害支援には、大きく三つの価値がある。

がれき撤去や土砂かきなど通常のボランティア作業はもちろん大事だが、一般名詞としての「災害」「復旧」「ボランティア」という言葉は重々しく感じて、多くの人は気軽に行動に移しづらい。

そんな中で、「馬好きさん募集」はボランティアを一気にぐぐっと「自分ごと化」させた。多くの人が拡散し、これなら私もやろうかな、という声が広がった。

被災された人自身の言葉で募集することにも意味がある。自身が感じたこと、課題に思うことを、自分たちで考え、人に頼むことで、単純な受け身ではなく、自分で復旧、復興を進める思考も生まれる。支援する人、被災された人、どちらにも災害支援の自分ごと化を促すことになる。

馬森牧場でのボランティアの様子=馬森牧場提供
馬森牧場でのボランティアの様子=馬森牧場提供

新たなボランティアを生み出すこと

今回、「bosyu」を使って支援を受けた人たちから、普通のボランティアとは違う印象の人たちが来ていたという話を聞いた。

阪神淡路大震災以降たくさんのボランティアが活躍してきたが、今回、来られた人たちはボランティア経験がなく、「SNSを見て、支援したいと来ました」という人も多かったという。

だからと言って何も知識がない方というわけではなく、屋根での作業経験があったり、チェーンソーが使えたり、即戦力となるような人が多く、とても役立っていた。

また、被災した人たちと訪問する時から直接やり取りするので、通常のボランティア以上に密なコミュニケーションが生まれる。そのため、ボランティアをして終わりではなく、何度もボランティアに参加する人がいたり、「来年馬に乗りにきます」と言う人も多いという。被災した人との継続的なつながりができ、復興支援にとどまらず、地域のファンになっていく可能性を秘めている。

休憩中馬と戯れる筆者
休憩中馬と戯れる筆者

逆募集の可能性

当初は被災された人の課題をもとにボランティア募集をお願いしていたが、途中から支援者側が自分のできることを伝え、支援されたい人を募集する「逆募集」が登場した。

「チェーンソーを使えるので、木を切りに行きます」、「電気自動車を持っていくので給電したい人教えて」など。ニュースで現地の情報を知ったのか、支援できそうなことを提案してくれるような状況が生まれた。

被災地では困っていることに対して支援してもらえるのかちゅうちょする人も少なくない。被災地の外では、もっと個人のリソースを活用することで、現場で支援できるものもまだまだ多いはず。今後、ますます多くの支援のマッチングができる可能性を感じた。

馬森牧場に集まったボランティアの人たち=馬森牧場提供
馬森牧場に集まったボランティアの人たち=馬森牧場提供

もっと参加できるようにするために

まだまだ「CtoC」による災害支援は始めたばかりだが、すでに数百人以上のボランティアがきているという。

千葉ではこれから復旧、復興が本格化していく。この仕組みを通じて、まずは困っている人に少しでも多くの人が支援を差し伸べられるようにしたいし、支援する人たちももっと色々な形で支援できるようにしたい。そして、今回の馬森牧場のように、作業の支援だけで終わりにせず、地域との交流を生む新たなボランティアの取り組みにしていきたい。

そして、千葉だけでなく、九州北部豪雨や西日本豪雨の被害にあった地域、そして何より、今後起きるかもしれない災害の被災地でも活用されるようにしていこうと思う。

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