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日本語ラップ引っ張るKREVA、原動力に「楽器のコンプレックス」

KREVAさん=2019年9月3日、東京都渋谷区、山本倫子撮影
KREVAさん=2019年9月3日、東京都渋谷区、山本倫子撮影

目次

2019年9月、ソロデビュー15周年を迎えたラッパーのKREVAさんは、日本でも一般的に聴かれるようになったラップやヒップホップを牽引してきた1人です。しかし、活動の土台には「コンプレックス」があると言います。「ギターとか人前で弾けないし、鍵盤も大好きなんだけど弾けない」。それでも音楽を生み出せることに面白さを感じているそうです。次々に言葉を生み出してきたKREVAさんに、日本のラップの道のりと、未来について聞きました。(朝日新聞記者・坂本真子)

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「ミックステープを作りたかったんですよ」

KREVAさんは2001年にヒップホップグループKICK TNE CAN CREW の一員としてメジャーデビュー。「クリスマス・イブRap」などがヒットし、NHK紅白歌合戦にも出場しました。04年からはソロで活動し、DJやプロデューサーとしても知られています。

15周年の今年は、1月から9月まで9カ月連続で作品を発表。6月に全17曲をバンドと共に録音し直したベスト盤「成長の記録」を、今月18日には新アルバム「AFTERMIXTAPE」を出しました。26日には毎年恒例の「908 FESTIVAL 2019」を横浜アリーナで開催する予定です。

「AFTERMIXTAPE」というタイトルは、ヒップホップの「ミックステープ」と、ブレンドコーヒーの製法「アフターミックス」を合体させたものです。

「今回、ミックステープを作りたかったんですよ。ミックステープは、ざっくりいうと、ヒップホップで形を変えて脈々と受け継がれる独自の表現形態。他人の曲の上でラップしたものが入っていたり、他人の曲をつないだだけのものだったり、パーティーでのライブの模様だったり。昔からの流れでいろんなものがあって、音楽を聴く手段がCDや配信、ストリーミングになっても、ミックステープという名前は残っている。アルバム未満のようなものであり、一種の自由さの象徴でもあるので、ミックステープを作るというマインドでいくと、作品が自由に作れたんですよね。とはいえ、こうして説明が必要なように、ミックステープは広く知られているものではないので、そこまでこだわって『これはアルバムじゃない。ミックステープです』と言うつもりもない。ミックステープ以降、みたいな感じでタイトルを決めました」

新作では、「敵がいない国」「S.O.S.が出る前に」「アイソレーター」など、KREVAさんなりのメッセージを込めた曲が次々に展開されます。

「敵がいない国、無煙狼煙……絶対形に」

新作では、トラックを作り、そのイメージを元に、2~3日で詞を書くことが多かったそうで、最初にできた作品が「人生」。若い頃を振り返りつつ、今の自分を客観的にとらえる歌詞が印象的です。冒頭の英語詞は、歌詞が頭に浮かんだときにそのように聞こえたと振り返ります。

「よくあるんですよ。英語だった言葉を日本語に直す作業を過去に何回かやっていて、でも今回はこう聞こえているんだから、これでいいや、と。『敵がいない国』や『無煙狼煙』は、このトラックがかっこいいから絶対に歌詞を乗せて形にしようと思って書いたものです」

歌詞への責任感を強く感じ、言葉を生み出すことを難しく感じるようになった転機は、2011年の東日本大震災でした。

「震災のとき、ちょうどラジオをやっていて、いつもだったら楽しく選曲するところを、1曲1曲、みんなで歌詞を読んで、『水の流れは今は良くないんじゃないか』とか細かくチェックしたんです。いつもメールをくれるファンの子が1人行方がわからなくなって、後で無事に見つかったんですけど、そんな時期を経て、自分のライブに来てくれる人たちの顔をすごく見えるようになってきて、下手なことは言えないなぁ、という思いが大きくなりました」

「音楽のプレーヤーじゃないんですよね」

そんなKREVAさんが歌詞を書き続ける原動力は何でしょうか。

「俺の歌詞を分類する箱があるとしたら、だいたい、向上心の箱に入っていると思います。それが一番うそがない俺のマインド」

さらに、その源にあるものは……?

「コンプレックスかなぁ。音楽のプレーヤーじゃないんですよね。ギターとか人前で弾けないし、鍵盤も大好きなんだけど弾けない。そのコンプレックスがあるからこそ、こんな自分なのに曲を作れる面白さがいつもあるんですよ。覚えれば覚えるほどできることも増えていくから、常に向上心をもって臨める。向上心と、好奇心の両方をもってずっとやれていて、それを広めたいという気持ちがおおもとにあると思います」

「今から楽器をやっても、これは勝てん、といううまい人たちと一緒にやらせてもらっている。でも自分が使っている機材を、みんなが使えるかというと、使えないんですよ。だったら、そっちで頑張りたい。バンドと一緒にやることで他の楽器の知識や音楽的なことも覚えてきて、音楽への理解が少し深まったので、自分が持っている機材でどうしたらいいか、考えることができるようになった。それが『完全1人ツアー』にもつながっていると思います」

昨年のライブ「完全1人ツアー 2018」では、1人で全ての演奏と歌をこなしつつ、曲の作り方やDJのやり方、言葉の組み立て方などを観客に説明しました。

「ご飯を食べに行って、ポーンと出てきたものよりも、これはどこの海でとれたタコで、伊勢エビばっかり食べているから伊勢エビの味がちょっとするんですよ、と出てくる方がストーリーが感じられるじゃないですか。そういうものが1個あるだけで楽しくなるし、より深く感じられる。特にDJはわからないことが多いと思うので、何をしているかわかったら楽しいだろうなぁ、というのと、説明しないと、自分がやっていることのすごさがいつまでもわかってもらえないと思ったので。やっぱりKREVAすごいなぁ、と思ってもらえるかも、という気持ちもちょっとだけあります」

「ねじ伏せられたときの方が気持ちいい」

そのツアーでも説明していたのが、「ねじ伏せ」です。

言葉を組み立てる際に、「経験」「永遠」など、同じ母音で「韻を踏む」手法が一般に知られていますが、KREVAさんは、別のやり方もあると説明します。

「きれいな押韻をめざしているつもりでいたし、突き詰めてみたいと思っていたんですけど、いざ自分の曲を聴いてみると、結構そんなことはないというか。2音を1音のように発音することで韻を踏んでいるように聞こえさせたり、間を詰めちゃったり。厳密に分解すると1文字多いものも、発音によって同じように聞かせることができるので」

例えば、新作のリードトラック「敵がいない国」に出てくる歌詞の「UFO」と「揺れよう」。母音に分解すると「うーえうおー」と「うえおー」ですが、「うーえぅおー」と「う」を小さく発音することで韻に聞かせています。同じく「重低音」も「うーえぃおん」の中に「うえおー」が含まれており、タイミングを合わせることで韻として聞かせるのです。

「母音や音の省略、リズム感、強弱で韻に聞かせる。特に勢いを出すときは、最近『ねじ伏せ』ばかりで、むしろ、『ねじ伏せ』が好きなんじゃないかと思ってますね。ねじ伏せられたときの方が気持ちいいのかもしれない」

さらに、言葉を届けるための工夫もあると言います。
「ドンタンドンタンってリズムが鳴っているときに、全く同じタイミングで言葉をはめていくと、言葉を聞かせるためにドンタンの音量を下げるというのがシンプルな考え方。でも、もう一つの考え方として、ドンタンとわずかにずらせば言葉が聞こえてくるじゃないですか。音と音のすき間に言葉をきれいに乗せていくという技術はなかなか難しい。しかも、声のトーンによっても、ここじゃ聞こえないけど、この高さだと聞こえるとか、各トラックのキーの中で歌うときれいに聞こえるとか、あえて飛び出すように聴かせるとか……。複雑ですね」

「機材の情報、必ず英語で見る」

ラップは奥が深い。KREVAさんの話を聞くと、そう実感します。

最近では、シンセサイザーの様々な音色をクラウドで共有する定額のサービスを使っていて、毎週のように更新される新しい音を、自分のトラックに取り入れているそうです。

「これは面白いです。すごく面白い。俺、便利なものが好きだから、どんどん、どんどん使いますね。世界中のミュージシャンがひとところに集まるような感じというか。好きなときにアクセスして、音程や長さも好きなように自由自在に変えられる。これはもう、昔から考えると魔法です」

「プレーヤーは、プレーし続けるために進化していける。自分が持っている機材も、ハード面だけでなく、新しいソフトを入れることでどんどん良くなる。機材の情報もYouTubeとかで英語で見るようにしています。勉強になるように、必ず英語で。外国の機材は全部英語で書かれているし、耳を鍛えるためにも、一石二鳥なんで。一石二鳥って、昔から大好きなんですよ」

東京2020パラリンピック1年前カウントダウンセレモニーでボッチャの廣瀬隆喜選手(右)、杉村英孝選手(左)とともにパフォーマンスを披露する歌手のKREVAさん=2019年8月25日午後4時38分、東京都渋谷区のNHKホール、西畑志朗撮影
東京2020パラリンピック1年前カウントダウンセレモニーでボッチャの廣瀬隆喜選手(右)、杉村英孝選手(左)とともにパフォーマンスを披露する歌手のKREVAさん=2019年8月25日午後4時38分、東京都渋谷区のNHKホール、西畑志朗撮影

「俺が聴いてきた」歌謡曲をヒップホップに

2019年6月、超満員の日本武道館で自由自在に言葉を操るKREVAさんを見て、確かな実力と経験に支えられた、自信を強く感じました。

きっと、本人も達成感を味わっているのだろうと思いきや、そんなことは全くないようです。

「小学校3、4年生ぐらいのサッカー少年だったら、結構本気で『バルセロナに入って10番背負って活躍したい』とか言うじゃないですか。だけど、年齢も進んで、いろんな難しさがわかってくると、『まずはここで頑張りたい』となる。俺も最初は『絶対に1番に行く』と言っていたし、その1番はだいぶでっかいところまで視野に入っていたんですけど、実際は難しいなぁって思いますね。そのときどきのライブが良かったと思うことはあっても、もっとやりたかった、と毎回思うし、達成感なんて全然ないです。めっちゃ味わいたいです」

KREVAさんがKICK THE CAN CREWでメジャーデビューし、ソロとして活動してきた年月は、日本で、ラップやヒップホップがメジャーな音楽として浸透してきた流れと重なります。

その要因の一つが、KREVAさん自身が子どもの頃から聴いていた歌謡曲の要素をラップに取り入れたことではないでしょうか。もっとも、本人には、ラップを日本に広めるため……という意識は全くなかったようですが。

「最初に自分がものすごく影響を受けた1990年代のヒップホップやR&Bは、70年代のソウルミュージックをサンプリングして作られたものが多くて、この曲はこれが使われているんだ、と少しずつわかってきたときに、作っている人たちも、それを聴いて育ってきたりしているんだろうなぁ、と思ったんですね。もちろん、勉強して掘っていく中で出会ったものも多いと思うんですけど、聴いて育ってきたものだから上手に使える部分もある。だったら俺は、俺が聴いてきた歌謡曲とか、そういうエッセンスを入れていくことが、俺のヒップホップになるんだろうな、と思って、やってきました」

KREVAさん=2019年9月3日、東京都渋谷区、山本倫子撮影
KREVAさん=2019年9月3日、東京都渋谷区、山本倫子撮影

「トラックを作る人を増やしたい」

米国では数年前から、ヒップホップが音楽の主流になっています。ラッパーのドレイクは昨年、ビルボードの全米チャートで1年間に12曲をトップ10入りさせ、ザ・ビートルズが持っていた最多記録を54年ぶりに更新。トップ100に27曲が同時にチャートインするという記録も作りました。ストリーミングサービスでは、アルバム「Scorpion」が全世界で1週間に10億回以上再生されたそうです。

日本でも、1990年代にスチャダラパーやライムスター、ZEEBRA、キングギドラらがラップの知名度を上げる役割を果たし、2000年代にリップスライムやKICK THE CAN CREWがメジャーデビュー。05年には、安室奈美恵さんがヒップホップを取り入れたアルバムを発表して話題になりました。

06年には、KREVAさんの2枚目のソロアルバム「愛・自分博」がソロの日本人ラッパーとして初めてオリコンチャートで1位に。KREVAさんが意識していなくても、日本にヒップホップを一般化させた功績は大きいと言えるでしょう。

今後の活動について、KREVAさんは、「トラックを作る人を増やしたい」と言います。

トラックとは、ヒップホップの楽曲やビートのことです。言葉(歌詞)のバックに流れる音楽なので、「バックトラック」とも言われます。このトラックを作る人、作曲家が「トラックメーカー」で、海外では「ビートメーカー」や「プロデューサー」と呼ばれています。

「トラックメーカー、ビートメーカー、プロデューサーを見つけたいし増やしたい。若い人がEDMに行っちゃって、ヒップホップのトラックを作る人が少ない気がしているので。俺も、トラックメークに興味を持ってもらえるきっかけになるようなことをしたいかなぁ。種まきぐらいかもしれないですけどね」

     ◇

「908 FESTIVAL 2019」908=KREVAさんが毎年開いているイベントで、今年は9月26日午後6時半から横浜アリーナで開催されます。出演は、KREVAさんの他に、三浦大知さん、s**t kingz、DEAN FUJIOKAさん、BONNIE PINKさん。チケットは8300円(税込み)で、19歳以下は当日500円が返金されます(http://www.kreva.biz/908fes2019/)。

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