感動
さんからの取材リクエスト
人間の本質は小学生のエピソードでわかる?
トイレに腕を突っ込んだ少年時代、エイズ撲滅目指す医師の「突破力」
人間の芯の部分って、子どもの時から変わらないもの。学校のトイレでウンチするのも恥ずかしいお年頃の小学生が、詰まった大便器に腕を突っ込んだ話がビビッときたので、そこから人物像に迫ってみました。世界でエイズの撲滅を目指すキーパーソン、國井修さんのお話です。
感動
人間の本質は小学生のエピソードでわかる?
人間の芯の部分って、子どもの時から変わらないもの。学校のトイレでウンチするのも恥ずかしいお年頃の小学生が、詰まった大便器に腕を突っ込んだ話がビビッときたので、そこから人物像に迫ってみました。世界でエイズの撲滅を目指すキーパーソン、國井修さんのお話です。
人間の芯の部分って、子どもの時から変わらないもの。学校のトイレでウンチするのも恥ずかしいお年頃の小学生が、詰まった大便器に腕を突っ込んだ話がビビッときたので、そこから人物像に迫ってみました。世界でエイズの撲滅を目指すキーパーソン、國井修さんのお話です。
実は以前から何度もお会いしているのですが、フツーに新聞記事にすると、この人の魅力や面白さが全然伝わらないなと思ってたのです。現在の肩書は、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)戦略・投資・効果局長。仕事の話から入ると、もうハードル高すぎなんですよね。
2019年8月、國井さんが出したばかりの本、「世界最強組織のつくり方—感染症と戦うグローバルファンドの挑戦」(ちくま新書)の出版記念パーティが東京・新宿でありました。
国会議員や医師会長といったエラい系の人が何人も参加、172人が集まりました。アルピニストの野口健さん、作家の乙武洋匡さん、今井絵理子さん、ミュージシャンの普天間かおりさんも、ビデオメッセージを寄せました。
最後の方であいさつに立ったのが、幼なじみの小沼正樹さん。國井さんとは、栃木県大田原市で小学校の同級生でした。子どものころの思い出を披露したのですが、その一つが実に魅力的で、衝撃的な内容でした。「新聞には書けない類いの話だけど、実に國井さんらしいエピソードだな」と思ったのです。
小学4年生のとき、学校のトイレの大便器が詰まって流れなくなってしまいました。黄土色の水におそれをなして、先生も手を出せない。
そこへやってきた國井少年は、シャツのそでを肩までまくり上げると腕を便器の奥へ奥へと突っ込んで、何かをひきずり出しました。
「あったー!」と笑顔で叫ぶ國井少年の手には、グチョグチョのパンツが高々と掲げられていました。
トイレは無事に流れるようになったというお話です。
記者
小沼さん
國井さん本人にうかがうと、「よく覚えてないんですよね~」と拍子抜けする答え。本人にとっては、それほど特別な出来事でもなかったんでしょうね。
でも、小学4年生といえば、トイレでウンチをするのも恥ずかしいお年頃。きれいでない和式の便器に腕を突っ込むって、普通できないでしょう。
國井さんはいいます。
「僕は思考が単純なので、やってみることが楽しいんです」
どういうことでしょう?
國井さん
記者
國井さん
記者
國井さん
國井さんの著書、「国家救援医~私は破綻国家の医師になった」(2012年、角川書店)に、医学生時代の1984年、アフリカのソマリアにボランティアで入ったときのことが書いてあります。
当時、隣国エチオピアとの紛争で国境付近では80万人ものソマリア難民が発生。病気になる人が多く、その医療活動のためでした。
トラックで移動中の道すがら、食事をとった時のこと。真っ黒なスパゲッティが出て来ました。
「イカ墨スパゲッティかー。すごい!」
感激しながらフォークを入れると、ぱっと一瞬にしてスパゲッティが白くなりました。
國井さんは近眼ですが、そのときメガネをかけていませんでした。よくよく見ると、黒く見えたのはハエだったのです。
ハエが散った後は、単に具のないパスタ。「イカ墨スパゲッティだと思って、食べた」そうです。
人道支援というと、私たちは善意に彩られた美しい世界を想像してしまいます。国連の人たちや、使命感あふれる国際NGOの人たちが力をあわせ、アフリカなどで活動しているんだろうと。
國井さんは、それは違うといいます。
國井さん
記者
國井さん
記者
國井さん
でも、お金の力で物事を動かそうとしても、限界がありそうですよね。やっぱり、人と人とのつながりが大事だし、そこは國井さんが得意とするところじゃないかなと思うのです。
それを実感したのは、冒頭にご紹介した出版記念パーティでした。そこで國井さんは、56歳とは思えないキレッキレのダンスを踊りながら「ヤングマン」を熱唱したのです。
勤め先であるグローバルファンドのサイトでもこんな風に紹介されるほど、國井さんの音楽、ダンス好きは筋金入りです。
「今の仕事にすごい役に立ってます。音楽って言葉、文化を超える。恥ずかしがらずにダンスをすると、どこでもすぐ友だちになれます」
國井さんはこう話します。
「医療関係者以外の人とも仲良くなれるんです。一般の人の中に入れる。そうすると現状がわかるんです」
なるほど、なんとなく分かりました。これだけの実績がありながら、こんなに腰が低くて、上から目線を感じさせないのはなぜなんだろうって、ナゾだったんですよね。
長年の友人で、駐南スーダン大使も務めた外交官の紀谷昌彦さんは、國井さんのすごさを2点、あげます。
・自分の夢を持ち、行動していること
・僻地や途上国・紛争国の前線に飛び込み、病気などをものともしないこと
「グローバルヘルスの分野で、すばらしい人、実績を上げている人はたくさんいいます。しかし、國井さんは持ち前のお人柄で、グローバルヘルスの分野やその他の文化・芸術などの分野の人たちを魅了し、組織・仕事を超えて個人としての信頼をもとに人の輪を広げ、出会いの場、ハブ、結節点となっていることが特別だと思います」
紀谷さんはこう話します。
少年時代のエピソードと、歌と踊りに接した後は、この評価はぴったりだなと思います。
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