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中国の障害者「1億人」の現実 現地の施設長が見た「れいわ」当選

「北京市朝陽区啓蕊リハビリセンター」にて、障害者の子供たちが教育を受ける風景
「北京市朝陽区啓蕊リハビリセンター」にて、障害者の子供たちが教育を受ける風景 出典: 「北京市朝陽区啓蕊リハビリセンター」提供

目次

14億人を抱える中国は人口大国であると同時に、障害者大国でもあります。障害者の人数は8500万人を超え、実際には1億人近くいるとも言われています。一方で、中国では長い間、障害者は街に出ることが少なく、介護の現場が注目される機会も多くありませんでした。このほど、中国の民間福祉施設の関係者による訪問団が来日し、日本の障害者施設数カ所を見学しました。期間中、重度の障害を負う議員2人が当選し、国会に初登院したことがニュースとして報道されたタイミング。訪問団が見た日本の現状から、日中両国の障害者の現状について考えます。

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東京町田市にある障害者福祉施設「花の家」に訪れた訪問団一行=2019年7月31日
東京町田市にある障害者福祉施設「花の家」に訪れた訪問団一行=2019年7月31日

中国の障害者施設の現状

今回訪問団を率いたのは、北京市にある民営の「北京市朝陽区啓蕊リハビリセンター」の理事長・楊慶仁(ヤン・チンレン)さんです。東京都町田市にある障害者施設数カ所を訪問しました。

楊理事長によると、中国で正式に登録された障害者の人数は8500万人を超えています。ただし、重度の障害者の中には登録されていないケースがあり、未登録の人を合わせると1億人近くになると言われています。

2018年の中国障害者連合会の統計によると、中国にある障害者福祉施設の数は全部で9036カ所。目が不自由な人向けが1346カ所で、耳が不自由な人向け1549カ所、身体障害者向けが3737カ所、知的障害者向けが3024カ所、精神障害者向けが1962カ所、自閉症のための施設が1811カ所あると分類されています。

中国では、障害者福祉施設は国営(公営)と民営(民間)に分けられています。楊理事長が経営しているのは民営の施設で、2012年に開業しました。

日本の場合、内閣府の調査によると、国内の障害者数は推計で約900万人です。厚生労働省のデータによると、日本では2017年の居宅介護事業所は23074カ所で、重度訪問介護事業は20952カ所あります。施設の数は、障害者が10分の1である日本のほうが圧倒的に多くなっています。

障害のある子供たちを教育する現場
障害のある子供たちを教育する現場 出典: 「北京市朝陽区啓蕊リハビリセンター」提供

「人間を大切にする」日本の理念と技術に感心

楊理事長が経営しているリハビリセンターの対象は、0歳から35歳までの発達障害者で、リハビリ、特殊教育、キャリア教育、介護などをしています。実際に通っているのは、20歳以下の子どもと若い世代が多いそうです。

楊理事長は2012年に初めて来日して、数々の障害者福祉施設を見学しています。また、これまでフランス、イタリア、イギリスなどヨーロッパ諸国の施設も訪問してきました。今回は7年ぶりの2回目の来日で、職員を連れて日本の施設を訪問し、日本の障害者施設の体制を高く評価をしました。

「障害者に対する『理念』と『技術』があることに感心しました。人間を大切にしていますね。重度な障害を抱えても、最新の車いすで、自由に移動することができる光景が印象的でした」

楊理事長が注目したのは、見学した福祉施設に通う障害者全員に送迎車が手配されていることです。ドライバーが交代しても正しく送迎できるよう、障害者の自宅が表示される地図が作られています。楊理事長が見学した施設では、障害の程度により、難易度の違う手作業が考案され、すべての利用者が挿し花、図工などの手工芸に関わることができるようになっていました。

「細かいところまで気遣うことは、日本の素晴らしいところです。世界を見ても、総合的な点数が高いと思います」

知的障害者のための福祉施設「滝乃川学園」を訪問し、コースター作りやラッピング作業を視察する天皇、皇后両陛下=2018年12月6日、東京都国立市、代表撮影
知的障害者のための福祉施設「滝乃川学園」を訪問し、コースター作りやラッピング作業を視察する天皇、皇后両陛下=2018年12月6日、東京都国立市、代表撮影 出典: 朝日新聞社

日本ではダウン症の子もよく見かけ、仕事をするケースも

楊理事長にはもう一つ気付きがあったと言います。それは、街の中で障害者を見かけたことです。

訪問した「花の家」(町田市)では、リハビリのフロアだけでなく、1階のカフェで笑顔の素敵なダウン症の男性が接客を担当し、客を出迎えていました。

「国ごとに人権状況、法律法規の状況もだいぶ異なりますので、一概には比較できませんが……」と前置きをしながら、楊理事長は次のように話しました。

「中国では、まだ街の中でダウン症の子を見ることが少なく、ダウン症の人が就職するケースも非常にまれです」

「日本ではダウン症だけでなく、目の不自由な人が一人で出かける姿を見かけました。中国ではホームレスの人以外、目の不自由な人を町で見かけることもめったにありません」

中国では一人っ子政策の影響で、「優生優育」と言われる「健康な子」の出産が推奨されました。そのため、出生前診断で胎児に障害が見つかれば、中絶するケースも少なくありません。

日本と比べ、中国の妊婦検診ではダウン症などの染色体異常が分かる検査が必須項目になっており、妊婦は年齢を問わずに、検査は全員に求めています。ただし、農村部などそもそも妊婦検診を受けない人も少なくないため、中国衛生部(厚生労働省相当)が出した『中国出生欠陥防治報告』(2012)によると、毎年2.3万人から2.5万のダウン症の子が生まれているそうです。

楊理事長によると、出生前診断ではわからない、例えば自閉症などの患者数が近年大幅に増えているそうです。

東京町田市にある障害者福祉施設「花の家」に訪れた訪問団一行=2019年7月31日
東京町田市にある障害者福祉施設「花の家」に訪れた訪問団一行=2019年7月31日

親が「完治」を強く意識し 近年社会の変化も

中国では障害者福祉施設に通う患者の多くは、20歳以下の子どもや若者が多いのが実情です。

「日本の施設には年上の人も通っているのは驚きました」

日中の違いには、中国の親たちの気持ちも反映されています。

「お金をかけても若い子をリハビリに通わせることは、子どもたちの症状を『改善』、さらに『完治』を願う気持ちが強いからです。一定の年齢を過ぎ、『改善』『完治』の可能性が小さくなると、施設への通いが自然と減ります」

「一方、日本やヨーロッパ諸国の施設では、親が子どもの障害をそのまま受け入れようとすることが多いと見受けられました」

ただし、近年、中国でも変化は起きているそうです。

まず、政府が障害者への予算を増やしています。民営の施設が策定した計画に対して、政府による援助が増えているそうです。民間レベルでも変化が見られ、福祉施設でのボランティアが増え、地下鉄など公共の場のバリアフリーも進みつつあるそうです。

北京市朝陽区啓蕊リハビリセンターのオフィス。右は理事長の楊慶仁さん
北京市朝陽区啓蕊リハビリセンターのオフィス。右は理事長の楊慶仁さん

日本で誕生した重度な障害者の議員

7月の参議院選挙では、「れいわ新選組」から立候補した筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後靖彦(ふなご・やすひこ)氏と脳性まひ患者の木村英子(きむら・えいこ)氏が当選し、車椅子のままで初登院を果たしました。

楊理事長は、日本に重度障害者の当事者である国会議員が誕生したことを好意的に受け止めています。

「障害を持たない人が政策・施策を考えても、障害者の本当の痛みや苦しみを理解しきれない部分が必ずあります。2人が重度障害者として当選したことは、画期的なことで、大きな前進だと思います」

「私は障害のある子どもたちや彼らの親たちと、10年以上接してきました。彼らは強い一面を見せることが多いですが、内心には言葉に表現しがたいもろさと苦しみがあります。同じ障害者が代弁してくれたり、法律を作る側にいてくれたりすることは、障害者たちの希望につながる。国会でもバリアフリーが進めば、ほかの場所でも進むでしょう」と希望を述べました。

参院本会議に臨むれいわ新選組の木村英子氏(左)と舩後靖彦氏(右)=2019年8月5日、岩下毅撮影
参院本会議に臨むれいわ新選組の木村英子氏(左)と舩後靖彦氏(右)=2019年8月5日、岩下毅撮影 出典: 朝日新聞社

取材を終えて

中国の地下鉄で車いすを使う人を見ることはほとんどありませんが、日本では電車に車いすスペースがあり、実際に利用されるケースもよく見かけます。

日本の障害者が受けられるサービスは、中国の障害者より多く、中国の障害者が家に引きこもることが多いのに対し、日本の障害者は外出する機会に恵まれていると感じます。

一方で、日本では、ネット上では障害者に対する心ない言葉が飛び交っているという現実があります。中国でもかつて両足を失った登山者がエベレストを目指す際に、中国版ツイッターの微博では「優秀な障害者は永遠に優秀な健常者に及ばない」という心ないコメントがありました。過激な言葉が拡散しやすい時代、施設の充実や支援の仕組みだけではなく、世の中の雰囲気も変えていかなければいけないのかもしれません。

施設見学の最後に、楊理事長は次のように語りました。

「障害者には国境がなく、彼ら彼女らはどこに行っても、周りから尊重と助けを得るべきなのです」

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