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連載

#2 水戸の廃虚

「日本一有名な廃虚」が悩む保存と活用 「カメ止め」ロケ地の今

重要シーンが撮られた廊下は、ポンプ機械室から30メートルくらい離れた浄水池
重要シーンが撮られた廊下は、ポンプ機械室から30メートルくらい離れた浄水池

目次

水戸市には「日本一有名な廃虚」があります。映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)のロケ地です。今は使われなくなった浄水場。老朽化が止まらないけど、補修をすると廃虚じゃなくなる……。そんなスポットで360度カメラでの撮影に挑戦しました。最新機器で記録しながら考えたのは、歴史的建物の保存の可能性でした。(朝日新聞記者・松岡大将)

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1932年に完成

水戸市によると、「カメ止め」のロケ地となった旧芦山浄水場は1932(昭和7)年、旧渡里村(現在の水戸市渡里町)に完成しました。

それまでは井戸水に加え、なんと徳川光圀がつくったといわれる笠原水道などを利用していたそうです。

しかし、大正から昭和にかけて人口が急増し、衛生的な問題や、火災が起きたときの消火設備を確保するため作られたそうです。

ポンプ機械室内の荷物の運搬に使われていたとみられる滑車
ポンプ機械室内の荷物の運搬に使われていたとみられる滑車

日本の移り変わりを映す廃虚

検索サイトで「廃虚」と入力すれば、様々な「迫力ある」写真が現れます。

ただし、廃虚の中には、個人の持ち物である建物も少なくありません。無断で入るのは違法です。また、廃虚だけに歴史が古く、建設された当時の情報などはあやふやなものもあります。

今回、廃虚を真っ正面から取材することで、その土地の歴史や、日本の移り変わりが見えるのではないかと考えました。

特に力を入れたのが写真です。

撮影許可を得て、建物の中に入り、安全に注意しながら撮影にのぞみました。

実際、目の前で見る廃虚は、映画のスクリーンとは違った迫力があります。

崩れた壁、雑草、差し込む日の光……。この空気感を残したいという思いに強くかられました。

ポンプ機械室を外から見た様子。黒ずみやさびなど、随所に経年劣化の跡が感じられる
ポンプ機械室を外から見た様子。黒ずみやさびなど、随所に経年劣化の跡が感じられる

VR、ノートルダム大聖堂の火災で存在感

取材で用いたのが360度カメラです。

静止画だけでなく、映像で現在の建物の姿を記録すれば、その場に行けない人もあの空気感が味わえるかもしれないと考えました。

360度カメラは、再生される視点を自由に動かすことができます。

当時としては頑丈な作りだった浄水場ですが、長い年月による老朽化は止まりません。その姿を残しながら、思い浮かべたのは4月に火災のあったパリの観光名所「ノートルダム大聖堂」の映像でした。

屋根や尖塔(せんとう)が焼失しましたが、過去の映像がVR映像で残っており、消失前の姿を振り返ることができます。

そんな映像に触発された人が寄付に応じ、実際の姿の復元につながるかもしれない。最新技術が歴史的遺産を救う。そんな未来の姿を見た気になりました。

浄水場では、機材が目立たないよう開脚の幅が狭い三脚を使いました。そのため、強風でしょっちゅう倒れるアクシデントに見舞われるなど、野外撮影ならではの苦労も味わいました。撮影者が映らないよう、遠隔で操作するため、近くの木陰に隠れてシャッターを押すことを繰り返しました。

自生した植物が壁をつたうポンプ機械のある空間
自生した植物が壁をつたうポンプ機械のある空間

「見どころ」ネット空間でも活躍を

旧浄水場は今、保存と活用のはざまで揺れています。

安全のため補修の必要が出てきていますが、廃虚の雰囲気を壊すかもしれません。

一方、「カメ止め」効果でロケ地の利用希望は増えています。

悩ましい問題に水戸市が向き合っていますが、360度の動画なら、今の姿を離れたところから感じることができます。

たとえ将来、旧浄水場に変化が起きても、データは残り続けます。

2月にあった「カメ止め」のロケ地ツアーは、申し込みから30分で定員に達したという人気ぶりでした。水戸市の大事な見どころとして、360度動画がネット空間でも活躍してくれるはずです。

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