連載
#3 水戸の廃虚
廃虚なのになじんでいる……「クイーンシャトー」の圧倒的存在感
街の歴史は意外なところに眠っているものです。水戸市の繁華街に廃虚として残された「クイーンシャトー」があります。地元では見慣れた光景でしたが、いざ取材を進めると地元住民が抱く複雑な思いと出会うことになりました。(朝日新聞記者・笹山大志)
「クイーンシャトー」は、水戸市天王町の風俗街の一角に残されています。
その外観は「お城」そのもの。ツタがからまり、顔の一部が欠けた巨大な「クイーン」が見る者を圧倒します。
現在、建物の前は駐車場になっており、落書きされた鉄板のバリケードの前に、真新しい自動車が並ぶ不思議な光景が生まれています。
赴任当初は、その存在感に驚きましたが、地元の人たちが気にとめず過ごしている中で生活していると、自分の中でも「クイーンシャトー」は、いつしか日常風景になっていました。
今回、あらためて取材をする中で、様々な声を聞くことになりました。
「見物客が増えたらイタズラされる」
「変にあおらないで欲しい」
たしかに、ネットで「クイーンシャトー」を検索すると、様々な情報が表示されます。
許可を得ず中に入ったような情報があるのも事実です。
無許可で立ち入るのは違法です。地元の人が抱いている懸念を伝えることで、間違った行動が減らせないかと考えながら、取材を進めました。
空き家の存在は全国でも問題になっています。
総務省の2018年の調査では、全国の空き家がアパートなどの空き室は846万戸あり、総住宅数の13.6%を占めています。いずれも過去最高で、少子高齢化に伴い、急増しています。
自治体が強制撤去する際に根拠となる空き家対策特別措置法は2015年2~5月、順次施行されました。倒壊の恐れが高い、衛生上著しく有害――といった空き家を「特定空き家」に認定し、撤去や修繕の助言・指導、勧告、命令ができ、従わなければ市区町村長が代執行して強制的に撤去できます。
しかし、代執行は所有者の理解や金銭的負担のほか、そもそも所有権が複雑だったり交渉相手が見つからなかったり、簡単には進まないのが現状です。
ただし、今年で築40年を迎える「クイーンシャトー」には「今のところ倒壊の恐れや苦情はありません」(水戸市)。
近くで和食店を営む町内会長の男性(70)は「一帯は風俗街ですし、大きな廃虚があっても景観にはそれほど問題は感じません」と話します。
水戸のど真ん中にあると言っても、クイーンシャトーが街になじんでいるのは、風俗街という立地にあるからこそ。「不気味」と言われる外観の建物が今も特別視されず、残り続けました。
歴史を調べる中で「クイーンシャトー」は、栄枯盛衰の世の中を象徴しているように感じました。人口が減り続けている水戸にも、かつてはお城のようなたたずまいの風俗店があったのかと。
見るだけでもいろんな想像が巡り、好奇心をかき立てられる存在である「クイーンシャトー」。私は、街の歴史も感じられる存在を多くの人に見てもらいたいと思いながら取材をしていました。
難しいのはここが風俗街ということ。風俗街の出入りは誰にも知られたくないプライバシーと隣り合わせです。そして、独特の雰囲気の中でこそ生まれる廃虚の魅力があるのも事実です。
それでも、昔のように人口が増えることだけがゴールではない時代。魅力度ランキング最下位である茨城にとて「廃虚巡り」が新たな観光産業の一つになれば、「負動産」に新たな価値を見いだせるのではと思いました。
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