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「隠したい」義足をさらけ出す 切断ヴィーナスたちが伝えたいこと

個性豊かな義足
個性豊かな義足 出典: (C)Takao Ochi

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障害やコンプレックスは、「できれば隠しておきたい」もの? もちろん、隠す自由もあるけど、「これが私です」とさらけ出してみてもいい。そんな思いから、義足の女性たちがモデルとなった写真展「切断ヴィーナスと義足の展示」が、東京都荒川区の「ゆいの森あらかわ」で開かれています。鮮やかなハイビスカスをあしらった義足や、マシンガンのような形をしたものなど、個性的な義足を身につけた女性たちの写真がずらり。撮影した写真家の越智貴雄さんは「義足とモデル、それぞれの個性を楽しんでほしい」と話しています。(朝日新聞デジタル編集部記者・池上桃子)

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展示されている写真の一枚。義足の女性が大きなバイクに乗っている。
展示されている写真の一枚。義足の女性が大きなバイクに乗っている。 出典: (C)Takao Ochi

義足に「血管が見えた」

展示された約40作品の共通点は「義足を着用している」という一点。パラリンピック出場経験のあるアスリートからOL、アーティスト、主婦など、多様なバックグラウンドのモデルが集まりました。越智さんは撮影前にひとりひとりに聞き取りを重ね、「モデルの個性に委ねて」撮影したといいます。展示は9月16日まで、入場無料です。

写真家の越智貴雄さん
写真家の越智貴雄さん 出典: 朝日新聞

越智さんは、2000年のシドニー・パラリンピックに感銘を受けてから、ライフワークとしてパラアスリートの取材を続けてきました。オリンピックとは一味ちがうパラスポーツの魅力として、「道具と人の結びつき」を挙げています。

「2012年のロンドンパラリンピックで、走り高跳びの鈴木徹選手を撮影した時、ジャンプの瞬間に義足の部分に血管が浮き出るのがレンズ越しに見えたんです。実際は、義足なので血管があるわけがないんですけど、それくらい血が通って見えた。競技の道具と人の体って、こんなにシームレスにつながることがあるんだと驚きました」

展示されている写真の一枚。義足で走る女性。
展示されている写真の一枚。義足で走る女性。 出典: (C)Takao Ochi

躍動するスポーツ選手を追いかけてきた越智さんが、アスリートではない義足の女性たちの撮影をはじめたのは、こんなきっかけがありました。

「僕はずっと、義足をつけた人たちのかっこいい姿を見てきたんです。でも、多くの当事者や、義肢装具士の臼井二美男さんと話す中で、そんな風になれない人も多いことを知っていきました」

「特に女性は、地方であればあるほど、義足であることをネガティブに受け止め、隠して生きている人も多い。家族以外には義足を見せたことがないとか、義足であることでなかなか自信を持って外に出られないとか。それで、スポーツだけじゃなくファッションとか、アートという表現の中で、義足で生き生き歩いている人たちをもっと知ってもらえたらと考え、スタートした企画でした」

撮影開始は2013年。職業や出身地、年齢もバラバラのモデルが登場し、2014年には写真集を出版。また、義足をさらけ出して好きな服を着るファッションショーも開かれました。

展示された写真の一枚。華やかな衣装に身を包んだ義足の女性。
展示された写真の一枚。華やかな衣装に身を包んだ義足の女性。 出典: (C)Takao Ochi

「体を失うくらいなら…」治療拒否する人も

撮影に使われた義足のほとんどを手がけた、義肢装具士として35年働く臼井さんは、「日本に義足利用者は約7万人いると言われていますが、堂々と自分の義足を見せようという人はほとんどいない」と実感しています。「そもそも、体を失うくらいなら死ぬ、と治療を拒否する人もいます。切断した後に自殺を試みる人も」

予期せぬ事故や病気によって、体の一部を失った時、どんな葛藤があったのか。モデルのひとり、須川まきこさんに聞いてみました。

須川さんは14年前、左脚の悪性血管肉腫により、左股関節部分から下を切断し、義足を使って生活しています。職業はイラストレーター。義足の女性たちの姿を描いた作品で、国内外で個展も開いてきました。

須川さんのイラスト作品
須川さんのイラスト作品 出典: 須川まきこさん提供

「シルクのドレスでも目立たない義足」

切断手術をした時は、「命を脅かすような病気だったので、生きるためには切るしか選択肢がなく、迷ったり悲しんだりしている余裕はありませんでした。でも、足のない体、つまり『障害者』になるってことに、大丈夫なのかな、私はこれからやっていけるんかな、という不安はありました」。

病室で義足を見た時の印象は、「生々しい」だったと言います。義足と体の接合部分が分厚く、ワンピースなどの体のラインが出る洋服を着ると、義足のシルエットが浮き出てしまう。「せっかく買った気に入っている服も、もう着れないかな」と悩みましたが、テレビ番組で偶然臼井さんの存在を知り、連絡をとりました。

「シルクのワンピースでも目立たないような義足をつくってもらえませんか」。快諾した臼井さんがつくった義足をつけて、レースをあしらったワンピースを着た姿を越智さんが撮影しました。

展示されている須川まきこさんの写真。
展示されている須川まきこさんの写真。 出典: (C)Takao Ochi

「デザイン事務所で働いていたので足がなくなる前から絵は描いていたんですが、義足の子を描くようになったのは切断手術の後でした」と須川さん。「手術後に病室のベッドで描き始めたのが最初で。義足は自分の一部だからこそ、絵にも自分自身が出てくるんです。義足になって、自分の身体と向き合ったから描けた絵だったと思います」

そんな須川さんも、ファッションショーや写真で自分の体をさらけ出すことに最初は戸惑いがあったといいます。「人からどう見られるんだろうってどきどきして」。今は、写真に撮られたり、ショーに出たりすることもイラストと同じように、表現として楽しんでいると話します。

そもそも、義足である・なしに関わらず、プロのモデルでもない女性が自分の体を堂々とさらけ出すのは、勇気のいることなのでは…?写真を見ながらそんな風に思い、須川さんに聞いてみました。

「やっぱり、小さい頃からきれいでいなきゃいけないと思っていたり、容姿を気にしていたり、女性は知らず知らずのうちに見られることを意識する人が多い。だから、体を欠損することで、自分自身の価値も損なわれたように感じてしまう人もいるのかな、と思います」。義足を使うことに対して女性の方が悩みや葛藤が多いとしたら、そういう理由もあるかもしれません。

「でも、私は足を失う前を振り返っても、ちょっとしたコンプレックスで水着になりたくないとか、体を出したくないとか思っていたことがありました。足があった時の方が今よりももっとコンプレックスがあったかもしれない」。

写真家の越智さんは、撮影した写真の修正や加工はせず、自然体のモデルの姿を展示しています。障害がある・なしに関わらず、ありのままの自分の体を肯定する、力強さを感じさせてくれました。

越智さんの写真展「切断ヴィーナスと義足の展示」の詳細はこちら(9月16日まで)

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