MENU CLOSE

連載

#24 #となりの外国人

小2で英検2級!インドの子と学ぶインターナショナルスクールの現実

東京都江戸川区は、インド人が暮らすエリアとして知られています。江戸川区と、隣の江東区にキャンパスがあるインターナショナルスクールには、日本人の子どもの姿もあります。元々は外国人の子どものために生まれた学校になぜ日本人が? 5人の母親の本音を聞きました。

タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパスで授業を受ける子どもたち=東京都江東区
タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパスで授業を受ける子どもたち=東京都江東区

目次

 東京都江戸川区は、インド人が暮らすエリアとして知られています。江戸川区と、隣の江東区にキャンパスがあるインターナショナルスクールには、日本人の子どもの姿もあります。元々は外国人の子どものために生まれた学校に、なぜ日本人が? 5人の母親の本音を聞きました。(朝日新聞記者・山本晋)

【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

わが子をインドの子と一緒に学ばせる親たち

 話を聞いたのは、「Tathva International School(タトゥワ インターナショナル スクール)」(東京都江東区)に子どもを通わせていたり、在籍させたりしてきた母親たちです。

 タトゥワには江戸川区に2つ、江東区に1つのキャンパスがあり、3歳から17歳までの285人が学び、生徒の国籍は約7割がインド、約2割が日本です。IT教育や算数に力を入れている英国ケンブリッジ式のカリキュラムに沿って、全て英語で授業が行われています。

【Eさん】
千葉県市川市在住 長男(小5)がグレード6(G6、小6に相当)、次男(小2)がG3(小3に相当)に在籍
【Kさん】
東京都江東区在住 長男がG9(中3に相当)、次男がG5(小5に相当)に在籍
【Oさん】
東京都江戸川区在住 長男がG3(小3に相当)に在籍
【Tさん】
東京都江戸川区在住 長男(小6)と長女(小5)が小学校入学まで在籍。現在は公立の小学校に通学
【Yさん】
千葉市在住 長男がG3(小3に相当)、長女がタトゥワの「キンダーガーデン」(幼稚園の年長に相当)に在籍

「他のインターに比べ授業料が安い」

 江戸川区には2000年ごろから、都心のIT企業に勤めるインド出身の人たちが急増。同区によると、今年6月に4500人を超えました。

 タトゥワは、同世代の子どもを育てるインド人と日本人の母親2人が、2010年12月に設立しました。自分たちの子どもら5人だけの生徒から始まった学校は、その後、続々と生徒数が増えていきました。

 座談会に参加した母親たちは、どのようなきっかけで、わが子をこの学校に通わせることになったのでしょうか。

 Kさんは、インド出身の男性と16年前に結婚。夫が「公立学校に行くと日本語しか話せなくなる。インターに通わせたい」と希望したことから、息子たちをタトゥワに通わせました。子どもには多様な価値観に触れて欲しいと考えています。

 タトゥワの年間授業料は、G9で約90万円です。「欧米の子どもたちが通う、一般的なインターナショナルスクールの学費よりかなり安いので、その点も魅力的でした」と語ります。

休憩時間を過ごす子どもたち=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)
休憩時間を過ごす子どもたち=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)

 Eさんは、夫の仕事でアメリカ滞在中、長男と次男が誕生。海外の大学も視野に入れたいと当時は考えていました。最終的には、英語の読み書きはもちろん、英語を使って人前で話す力も伸ばしてあげたいと、この学校を選びました。

 「アメリカやフランスなど、様々な国から来た先生がいることにも魅力を感じました」

 一方、Oさんは元々、規律を求める日本の幼稚園の教育方針に、違和感をもっていたといいます。

 「長男は、日本の子が通う幼稚園を見学したことがあります。しかし、泣いたり、じっと座っていなかったりすると怒られるという雰囲気になじめませんでした」

 タトゥワの多様性を認める教育方針に魅力を感じ、長男が4歳の時、入学させました。「集団生活が苦手だったのですが、個性を受け入れてくれました」と振り返ります。

ICT(情報通信技術)の授業では一人1台パソコンを使う=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)
ICT(情報通信技術)の授業では一人1台パソコンを使う=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)

「親をリスペクトする姿勢に感動」

 インターナショナルスクールの場合、日本人の子どもは、就学前の「プレスクール」に通った後、日本の小学校に入学したり、低学年のうちに転校したりすることが多いと言われています。一方でタトゥワには、座談会の参加者のように、子どもが高学年になるまで在籍させる親もいます。

 校内では、全ての会話が英語です。それだけに子どもたちは、小さくして英語が話せるようになります。Eさんの長男は、小学2年に相当する年齢で英検2級、次男も小学1年にあたる歳で英検準2級を取ったといいます。

 色々な国の友達ができるのも、インターナショナルスクールならではです。長男の一番の親友は、ドイツ出身の男の子。「帰国してからもドイツを訪ねたり、年に2回ぐらいスカイプでお話ししたりしています。この前は算数や理科の授業の進み具合を質問されていました」。

 「長男のインド出身の友人が、親をリスペクトしたりものを大切にしたりする姿勢に驚きました」と語るのはKさんです。

 放課後、自宅で長男と友人が遊んでいると、夫が帰宅。「学校のカバンをきちんと片付けなさい」という夫の注意に、長男が反発すると「お父さんが言っているのだからちゃんと聞けよ」と友人が注意したといいます。その場で見ていたKさんは、とても感動したそうです。

 「勉強に使ったプリントやノートを踏むのは論外。飲み物が入ったコップをうえに置いても、『紙は神様だから大切にしないとだめだ』と注意するんですね。このような、文化や考え方の違いに触れられたのは良かったです」。

ケンブリッジカリキュラム認定証とイムラン・シェイクヘッドティーチャー=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)
ケンブリッジカリキュラム認定証とイムラン・シェイクヘッドティーチャー=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)

「日本の習慣」学ぶため転校する子も

 インターナショナルスクールは、もともとは短期間日本に滞在する、海外からの駐在員の子どもを受け入れるために生まれた、とされています。

 学校教育法に基づかない学校もあり、義務教育で学ぶ日本語をはじめ、歴史などの授業が十分でない懸念から、国内の大学に進学しようとする場合、不利にならないか心配する保護者は少なくありません。

Tさんは、「タトゥワに子どもを通わせるのは、小学校に入るまでと決めていました」といいます。今後も日本で生活していくため、小学校からは日本の子どもたちと一緒に学んだ方がいい、と考えたからです。

 日本語や歴史は自分でも勉強できると思った一方、「空気を読む」などといった日本特有の習慣は、インターでは身につかないと感じたそうです。

 中学受験の準備も忙しく、小学校6年間は英語をあきらめるしかないと考えました。「今は英語をほとんど話しませんが、土台はできたと思います。勉強すればまた話せるようになる」と、Tさんは期待しています。

新しい建物には、旧校舎から一部の生徒が移った=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)
新しい建物には、旧校舎から一部の生徒が移った=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)

 日本の小学校では5年生の長男が、塾に通って日本の私立中学への受験勉強をしているEさん。「インターの高校を卒業すると、日本の大学入学の受験資格が気になります」と語ります。

 Eさんは当初、息子たちを海外の大学に進学させることも考えていました。しかし海外のニュースなどを目にするうちに、子どもたちが「アメリカの大学に行きたくない」と言い出したそうです。

 「日本は安全で住みやすいと考えているようです。私も、アメリカではドラッグや銃の問題もあり、今は日本の大学でいいと思うようになりました」。

 Yさんの家族の拠点も日本となる予定です。しかしG3(小3に相当)の長男には、海外の大学を目指してほしいと思っていると言います。

 「大学の英語の教員をしているのですが、日本の学生が、外国人の学生を前に自分の意見を言えずに押し黙っている様子を、毎日のように見ているからです」

 「海外の大学を目指す前に、高校生の段階で海外留学をして、自分の適性を見極めることも検討しています。その結果『日本の大学の方がいい』となった場合、自分で日本の大学受験の準備をすることになるのかなぁ、とも考えています」。

ビルの一部を昨年9月、校舎として使用をはじめた=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)
ビルの一部を昨年9月、校舎として使用をはじめた=タトゥワインターナショナルスクール木場キャンパス(東京都江東区)

国際社会で貢献できる人材の育成をしたい

 インド人と日本人の母親2人が設立したタトゥワは、2016年8月、千葉市の民間企業に買収されました。買ったのは、主に自治体向けのシステム開発会社などを傘下にもつ持ち株会社「UIAホールディングス株式会社」(千葉市中央区)の子会社です。

 Tathva International株式会社の杉田和正代表取締役(59)は「国際社会で貢献できる人材の育成をしたい」と買収の理由を語ります。日本人の子どもたちが通学していることについて「様々な事情で本校を選んでいただいていると理解しているが、日本人だけを対象にしているわけではない」と話します。

Tathva International株式会社の杉田和正・代表取締役=東京都江東区
Tathva International株式会社の杉田和正・代表取締役=東京都江東区

 日本の大学への受験資格について杉田氏は、「文部科学省は、日本の大学への入学資格として認めている」としたうえで、「ケンブリッジプログラムの修了者の評価は国際的には高く、多くの国で大学への進学の門戸は開かれている」と説明しています。

 買収から約3年が経ち、運動できるグラウンドがないなどの課題も見えてきました。現時点では、占有の運動場がないため、生徒の屋内外活動については近隣施設を予約して使用しています。今後は、学校敷地内に屋内運動施設の設置を検討しています。

「英語での授業、小学生は慎重に」

 グローバル教育への関心が高まる昨今、インターナショナルスクールに興味を持つ保護者も増えています。

 1995年に東京インターナショナルスクール(東京都港区)の前身となる幼稚園を立ち上げ、現在は同校の理事長を務める坪谷ニュウエル郁子さん(61)は、インターナショナルスクールに通わせる際に注意点があると言います。

日本国籍だけをもち、将来も日本を拠点に生活をする可能性の高い子どもについて、「小学生の頃にインターナショナルスクールに通わせることは慎重になったほうがいい」と話します。

東京インターナショナルスクール理事長の坪谷ニュウエル郁子さん=東京都内
東京インターナショナルスクール理事長の坪谷ニュウエル郁子さん=東京都内

 坪谷さんによると、日本語の授業をほとんどしないインターナショナルスクールでは、国語をはじめ日本の歴史、地理の知識が身につきにくいそうです。その後、日本の学校に進学すると追いつくのに苦労するとも指摘します。

 インターナショナルスクールに通学していると、海外の大学に進学することを考える機会が増えますが、「海外の大学は授業料が高額なところが多く、親は経済的に子ども支える覚悟が必要だ」と話します。

 坪谷さんが勧めるのは、日本の学校に通いながら、放課後に英語を学ぶスクールやサマーキャンプに通ったり、英語のアニメを見たりすることです。

 坪谷さんによると、英語に触れる時間が計2760時間確保できれば、日常的な学習や仕事で問題のないレベルになります。すると、中学校からは英語で授業をするインターナショナルスクールなどの学校に入学しても、授業に差し支えない英語力を獲得できるというのです。

 そうすれば、海外の大学も狙えるし、それが経済的な理由で難しくなっても、英語力を生かして、日本の大学にも入る選択肢が広がるといいます。

インターが縮める地域と外国人との距離

 江戸川区のインド人の人口は4500人を超え、10年前の約2倍になりました。同区によると、全国の市区町村で最も多いといいます。

 私は今年5月まで、13年間江戸川区に住んでいました。スーパーや公園を訪れると、必ずといっていいほどインド人の家族連れに出会います。「この子どもたちとの友情を深めてほしい」と考え、長女(11)を3歳から小学2年生までタトゥワに通わせました。

 座談会に参加した保護者たちも、近所のレストランで、偶然タトゥワの先生と話したり、自宅の隣にインド人家族が引っ越してきたりしたことが、入学のきっかけになったと話していました。

 インドから来た人々や、その子どもたちと、地域住民との距離を近づけるーー。そんな役割を果たしていることも、日本人の親たちが、わが子をタトゥワに通わせる理由なのではないでしょうか。

連載 #となりの外国人

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます