連載
#27 コミチ漫画コラボ
「待合室が好きです」居場所のない私を救った言葉 「普通」問う漫画
「普通にやらなきゃ」……「その普通って何?」を問いかける漫画

コジママユコさんの「しずかに」

「待合室が好きです」「ここでは何かが欠けていてもなじられることはないので」
病院の待合室にたたずむ主人公の女の子。脳裏に浮かぶのは、自分の足りないところばかり指摘される毎日です。
学校の先生には「なんでそれくらいで休んじゃうの?」「普通はこのくらいちゃんとやるんだよ」。家に帰れば母親に「ちゃんと受験勉強してるの…?」「あんたもお兄ちゃんみたいだったら良かったのに」。
「先生もママもとてもただしい」。わかっているけど、先生や母親が望む通りにできない自分。気付くと、今まで言われた言葉たちで頭の中がいっぱいになっています。
「怠けてるの?」「普通じゃない」「そんなのでこれから先やっていけないわよ」
「ここにいる資格はないのに」ーー。主人公にとって、今の自分でいることを許される場所はありません。

待合室から、診察室に呼ばれた主人公。医者に「最近はどうですか?」と聞かれ、「普通にやらなきゃって思うんですけどできなくて…」と、とつとつと語り始めます。
「わたしがおかしいから悪いんですけど」。自分を責める彼女に、「うん…そうね」と医者は語りかけます。
「あなたのような人はたくさんいますよ」
目から鱗が落ちたように「本当に…?」と問う主人公。「ええ たーくさんいますよ」
主人公は病院を出た後、道行く人たちを見渡します。すれ違う人々は「ふつうの人」に見えます。でも、「みんなふつうの人のふりをして つらい気持ちを隠しているの?」。医者の言葉を思い出し、涙を落とすのでした。

「居場所のなさ」を出発点に
「私が考える『居場所』って、『ポーズを取らなくていい場所』なんです。元気に、礼儀正しく、仕事ができるように振る舞ったり、何かのふりをしたりしなくていい場所のことですね」
「でも、いつもどこか『こうしなさい』という『普通』が求められていて、居場所と言えるところはなかなかない」と話すコジマさん。漫画の主人公に重ねたのは、「普通」にとらわれる自分の姿でした。
コジマさんは漫画家として作品を発信しながら、会社の事務員としても働いていました。仕事の中で、説明もなしに「普通はこうだから」「これが当たり前だから」という上司の指摘に、違和感を感じてきたといいます。「じゃあ『普通』って何だろうっていうところは、上司も説明できないんですよね」

「普通」の不確かさを感じるのは仕事ばかりではありません。30代の女性として、「『普通』『普通じゃない』を判断されるポイントが多い」と明かします。
「結婚、出産、仕事……していないと『なんで?』と聞かれる。問いただされないように『普通にしていよう』って思うのって、居場所がないなあと感じます。この時代になって、こういう生き方をすれば幸せ、というものはないはずなのに、『こうあるべき』という考えだけがしめつけてくる」
コジマさんは、かみしめるようにつぶやきます。
「『普通』という、架空の『あるべき姿』にとらわれている気がします」
どうして「普通」を押しつけ合うのか
そんなコジマさんにとって、体調を崩したときや、休みの日に行く病院の待合室は少し違う場所でした。
「体調が悪くてもいいし、元気なふりをしなくてもいい。求められる『普通』がいつもよりゆるい場所だなと思ったんです」
そんな体験から、漫画「しずかに」の冒頭は「待合室が好きです」という語りから始まっています。

他にも、コジマさんの経験が漫画には反映されています。作中で医者が言う「あなたのような人はたくさんいますよ」というセリフも、実際にコジマさんが病院で言われた言葉が元になっているといいます。
「身動きの取れなさから小さな不調が重なったときに、お医者さんに『あなたみたいな人って今多いんですよね』と言われたんです」

日常では理想を突きつけられるばかりで、見えていなかった現実を知り、「私だけじゃないんだ」と思ったというコジマさん。「周りのこともわからなくて、『自分だけがおかしいのだ』と思って苦しかったので」と振り返ります。
また、それと同時に出てきたのは、「みんなつらいのに、どうして『普通』を押しつけ合うのか」という思いでした。
「誰の機嫌も損ねないように普通のふりをして、居場所がないまま生きてるのってどうなんだろうっていう問題意識もあるんです」

「自分が選び取れるものを大切に」
「10代の子たちに『こうしたらいいよ』と言うことは難しい』というコジマさんですが、危惧していることがあります。
「『そんなんじゃ将来やっていけないぞ』という言葉を耳にしますが、とても怖いフレーズだと思っています。例えば20年後、どんな社会になっているかなんて大人にだってわからないのに」
コジマさんが誰かの理想に合わせるのをやめたとき、心のよりどころになったのは漫画でした。「絶対に幸せになれる道」がないからこそ、自分の好きなものの方向を見て進むことにしたのです。
だからこそ、若い人たちには「自分が選び取れるものを大切にしていってほしい」とコジマさん。大人が押しつける「普通」に巻き込まれて、子どもたちが自己否定ですり減ってしまわないようにと願っています。
withnewsはマンガのSNSを運営する「コミチ」とコラボし、「#わたしの居場所」をテーマに生きづらさを抱える10代へ向けた作品を募集しました。のべ35作品が集まり、4作品を入賞に選びました。入賞者のみなさんは、どんな思いでマンガを描いたのか、ご自身の経験とともに振り返ってもらいました。

withnewsでは、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を続けています。
今年のテーマは「#居場所」。
目に見える「場所」でなくても、本や音楽…好きなことや、救いになった言葉でもいいです。生きづらい時間や不安な日々をしのげる「居場所」をみなさんと共有できたらと思います。 以下のツイートボタンで、「#居場所」について聞かせてください。
みんなの「#withyou #きみとともに」を見る
いろんな相談先があります
「居場所」を考えるイベント開きます

2学期が始まる。しんどくて、逃げたい……。夏休みが終わるのを前に、そんな思いを抱える子どもたちの「居場所」について考えるイベントを8月26日に昼と夜の2部構成で開きます。
(昼の部)10代が安心して過ごせる「居場所」とは?@日本財団ビル 14:30~17:30
子どもの問題を取材してきたノンフィクション作家の石井光太さん、自分の不登校経験をマンガ「不登校ガール」で描いた女優の園山千尋さん、フリースクールネモ代表の前北海さんが、「居場所」について考えるトークイベント。無料です。詳細や申し込みは→https://withyou-ibasho.peatix.com/view
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