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2019年08月21日

選挙に行ったら意識高い系って……大学生が教えてくれた政治の話し方


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7月21日に投開票された参院選で、投票に向かう深沢留衣さん(画像の一部を加工しています)=都内、いずれも高野真吾撮影

7月21日に投開票された参院選で、投票に向かう深沢留衣さん(画像の一部を加工しています)=都内、いずれも高野真吾撮影

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1カ月前の7月21日に投開票された参議院選挙では、投票率が50%を切りました。2人に1人の有権者すら投票に行っていない状態で、若い世代ではもっと減ります。そんな多勢の動きと真逆にいる、1人の大学生に会いました。参院選には、もちろん投票に行ったほか、家族にも選挙の話を振り、家庭内の「政治スルー」を打ち破ったと言います。「意識高い系と呼ばれることですか? 気にしないですね」。投票を「割と楽しみ」と語り、等身大な姿で選挙を受け止めた若者から、政治と接する「きっかけ」について考えてみました。(朝日新聞記者・高野真吾)

投票を前にした深沢さん。「割と楽しみ」と心境を述べた=都内

投票を前にした深沢さん。「割と楽しみ」と心境を述べた=都内

数少ない若者「役割を果たせた」 

7月21日午後、明治学院大学3年生の深沢留衣さん(20)は、都内の自宅から徒歩10分ほどの小学校にいました。ここの体育館で、投票を済ませるためです。

「イベント感じゃないけど、(投票日が)近づくたびにワクワクしてくるようになりました。割と楽しみというか、そういう気持ちが強くなりました」

投票前の気持ちをこう表現。階段を上がり、「投票所」と書かれた看板横を通り過ぎ、体育館に向かっていきした。

5分後、笑顔で戻ってきました。

「任務を終えた、役割を果たせた気持ちですね。選挙の結果もそうですが、若い人がどれだけ投票に行ったのかも気になります」

記者は20分ほど、この投票所の入り口にいました。ポツポツと来る人は、ご年配がほとんどです。例外は、小さい子ども2人を連れた30代と見られる夫婦らしい男女など数人ほど。深沢さんのテンションとは裏腹に、若い世代の投票離れを体感する結果となりました。

深沢さんが足を運んだ投票所では、若い世代は少なかった=都内

深沢さんが足を運んだ投票所では、若い世代は少なかった=都内

パタゴニアの「選挙カフェ」に参加

深沢さんを知ったのは7月8日夜、横浜市内で開かれた「ローカル選挙カフェ」でした。アウトドア企業の「パタゴニア」が開いたイベントで、選挙や政治について参加者同士が自由に話をするものです。

横浜・関内店では約50人が参加。学生から子ども連れの男性まで、様々な人たちが数グループに分かれ、意見を述べ合いました。深沢さんはイベントが開かれたお店で働いているゼミOGに誘われて、参加したそうです。

各セッションの議題は、「選挙について思うこと」「私たちの暮らしと政治」「投票率を上げるには?」でした。「投票率」では、実際の自分の立場とは関係なく、「選挙に行く派」「行かない派」に分かれ、議論を深めました。毎回、グループのメンバーを変えながらの取り組みでした。

セッション開始前に「自由に意見交換」するけど、「特定の政党や候補者の話題・応援は禁止」との「ルール」が示されます。どこのグループでも、参加者はルールを守り、真剣かつ和やかな雰囲気の中で、話し合いが行われました

パタゴニアが開いた「選挙カフェ」に参加した深沢さん=横浜市中区

パタゴニアが開いた「選挙カフェ」に参加した深沢さん=横浜市中区

「権利ない人たちのためにも」

セッション終了後、各グループからの報告があり、深沢さんは、あるグループの代表としてマイクを握りました。

「投票率」のセッションで「投票に行かない派」から、「投票して、現実が変わるのか、どこに投票したらいいのか分からない」と意見が出たことを紹介。政治家と政治の議論ができるアプリ「PoliPoli」(ポリポリ)をほかの参加者から教えてもらい、「私も使ってみたい」と話しました。

さらに「(投票への)権利がある私たちだからこそ、(18歳未満やこれから生まれてくる人たちなど)権利のない人たちのため投票に行くのは義務なのではないか、との話が上がりました。本当にその通りだなと思いました」と感想を述べました。

「選挙カフェ」に参加し、グループ代表として報告する深沢さん=横浜市中区

「選挙カフェ」に参加し、グループ代表として報告する深沢さん=横浜市中区

家庭での「政治スルー」に変化

深沢さんは、父母と3人暮らし。これまで両親とは、政治の話は「暗黙の了解で、話しちゃいけないみたいなものがあるような感じ」だったそうです。

ところが、「選挙カフェ」への参加を家で話したことにより、この「政治スルー」状況が変わりました。母親、父親とそれぞれ複数回、10分ぐらいずつ、政党ごとの考え方の違いや、何を重視し投票するか話すようになりました。

深沢さんは、大学で文化人類学者、環境運動家として知られる辻信一教授のゼミに所属しています。その影響もあって、重視するのは「国内政治」で、特に「エネルギー政策」に注目しています。かたや父母は共に「外交政策」を重視です。

「お父さんが政治に詳しいことは、初めて知りました。家の中では、政治へのスタンスで私が『マイノリティー』だったことも分かりました」

深沢さんにとっては、うれしい発見と驚きになりました。 

横浜・関内店での「選挙カフェ」終了後、記念撮影におさまる参加者たち=横浜市中区

横浜・関内店での「選挙カフェ」終了後、記念撮影におさまる参加者たち=横浜市中区

インスタでも情報収集

投票に向け、情報収集にも努めました。

アンケートに答えることで政党・候補者と自分の一致度が分かる「毎日新聞ボートマッチ」を試しました。「選挙カフェ」で知り合った人からの情報です。

そこで自分と一致度が高かった四つの党の候補者に注目し、HPを見たり、SNSをチェックしたりしました。インスタグラムでも各党の政策スタンスが分かる情報を入手しました。

18歳で選挙権を得て以降、投票には行っていましたが、これまでは「何となくの義務感だけで足を運んでいた」と言います。

今回、両親と話をし、情報収集もしたことで、「初めて選挙が自分事になった」と振り返りました。

投票を終えた深沢さん。少しほっとした表情を見せた=都内

投票を終えた深沢さん。少しほっとした表情を見せた=都内

大学でのイベント開催に意欲

深沢さんは、これからも選挙情報をSNSで拡散するなど、選挙に積極的に関わって行くつもりです。

パタゴニアが開いた「選挙カフェ」のようなイベントを「私の大学でも開いたら、面白いんじゃないか」とも考えています。

しかし、投票率の低迷が象徴するように、深沢さんと同世代の選挙に対する関心は、高まっていない現実があります。

そんな中で、投票や選挙に「目覚める」と、周囲から距離を置かれてしまい「意識高い系」と思われてしまう心配はないのでしょうか?

「意識高い系と呼ばれることですか? 気にしないですね。周囲の目を気にするよりも、好きなこと、やりたいと思うことをやっていきたいですから」

「確かに私も洋服やファッションに興味がありますよ。けど、そちらでは一時的にしか自分が満たされません。これまで政治について話したり調べたりしたことがなかった分、今回、やってみたら面白かった。社会に踏み込んだ方が、自分が充実する気がします」

パタゴニアは従業員の投票を促すため、参院選の投票日となった7月21日、直営店を閉店した=横浜市中区

パタゴニアは従業員の投票を促すため、参院選の投票日となった7月21日、直営店を閉店した=横浜市中区

きっかけあれば……

20歳の深沢さんは「選挙カフェ」の参加を契機に、選挙や政治を身近に感じることができました。それはどうしてなのでしょう?

7月23日に総務省は参院選での18、19歳の投票率を発表しています。抽出調査の結果は、18歳が34.68%、19歳は28.05%。合計では31.33%です。全体の48.8%よりかなり低く、2人に1人どころか、18歳、19歳の合計では3人に1人も投票に行っていません。

深沢さんはゼミの活動などを通じて、日頃から世の中に関心を持っていました。そこへ、ゼミOGから「選挙カフェ」に誘われる機会がありました。選挙の啓発ポスターや啓発動画、メディア経由ではなく、身近な人から選挙を考える機会の提案があったことは、受け入れやすかったようです。

その「選挙カフェ」では、選挙や政治を強く意識している人たちと出会いました。多くは年上の方々でしたが、選挙カフェでの議論は年代を超え、建設的なものでした。深沢さんの世の中への関心は、ごく自然に選挙や政治に結びついていきました。

彼女が「選挙カフェ」で発言している様子や、選挙や政治について語る口ぶりは、謙虚で自然です。もしかしたら、「意識高い系」なんていう言葉をぶつけた私自身に、選挙や政治を特別なことと構える壁が横たわっていたのかもしれません。深沢さんのような若い世代のしなやかな感性は、周囲が変に抑圧しなければ、そんな壁を自然に乗り超えていくのでしょう。

きっかけさえあれば、若い世代の関心が選挙や政治に向かう事例をもう一つ紹介します。

パタゴニアの東京・大崎店で開かれた「選挙カフェ」の様子。真剣な話し合いが続いた=都内

パタゴニアの東京・大崎店で開かれた「選挙カフェ」の様子。真剣な話し合いが続いた=都内

リピーター、人生2回目の投票へ

パタゴニアが7月19日、東京・大崎の店舗で開いた「選挙カフェ」にも記者は足を運びました。そこでは7月6日の東京・吉祥寺店に続き、2回目の参加となるリピーターのスズキさん(23)に出会いました。

普段は実業団でスポーツに専念する日々を送っており、選挙や政治から縁遠いと言います。パタゴニアの製品や企業理念が好きだったことから、気が向いて吉祥寺店に行ってみました。

同店での話し合いは、非常にためになったそうです。その一方、政治についてあまりに無知で、「ついていけなかった」との思いも抱きました。「自分も話し合いでアウトプットしたい」と考え、この2週間ほど、ネットなどで情報収集を重ね、再度、大崎店の「選挙カフェ」に参加しました。

「選挙や政治について、考え話し合う機会って大事ですよね」

参院選で人生で2回目の投票に行くと語りました。

大崎の「選挙カフェ」でも、話し合った内容について各グループごとの報告があった=都内

大崎の「選挙カフェ」でも、話し合った内容について各グループごとの報告があった=都内

等身大かつ構え過ぎず

深沢さん、スズキさんの例は、はたして特別なのでしょうか? 

記者として20年、様々な国政、地方選挙の報道に携わってきました。記事を書く時、読者に届く表現は常に意識してきたつもりです。

しかし、深沢さんの自然体やスズキさんの謙虚さを目の当たりにして、政治や選挙報道だと大上段に構えてきたのではないかと思うようになりました。選挙報道のあるべき「型」を身につけ、それに縛られてきた部分もあったかもしれません。

パタゴニアが開いた「選挙カフェ」では、参加者は椅子に腰掛け、車座に座りました。グループの輪に入ってみた時、参加者たちは同じ目線で、相手の話をしっかり聞きながらも、フランクに話し合っていることを実感しました。こうした場だからこそ、お互いの言葉が響き合えると感じました。

政治の話をすると、どうしても不平不満のぶつけ合いになり、選挙の話は堅苦しくなりがちです。これまで自分が書いてきた新聞記事のような議論になっていたら、深沢さん、スズキさんが政治や選挙に目覚めることもなかったのかもしれません。

等身大かつ構え過ぎずに、政治や選挙と向き合っていく。シンプルですが、好きな音楽や映画を語るように語っていってもいい、ということでしょう。そして、こうしたスタンスの方が、SNS時代には水平方向でシェアされ、前向きな情報発信につながっていくのだと実感した出来事になりました。

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