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最速148キロ左腕が作った英語テキスト 「君は、アホじゃない」
高校野球で活躍し、今年、マリナーズに入団した菊池雄星投手は、自分の夢のために英語の勉強を続けていました。バスケットボールの八村塁選手も、記者会見を英語でこなします。「僕、アホなんで」。そんな理由で勉強をあきらめている中学球児のため「野球特化型中学英語テキスト」を作った人がいます。自身も最速148キロの左腕の元球児。「君は、アホじゃない」。そんな思いが込められた「球児が開かざるを得ない」テキストの中身とは……?
表紙はユニホームを着たキャラクターのイラストにボールとバット。アルファベットの説明を見ると、Bの欄には「baseball(野球)」、Eの欄には「errors(失策)」、Sの欄には「steal(盗塁)」。ページの余白には、「ボールの縫い目は108個」などと、野球に関する豆知識も書かれています。
そうです。どのページを開いても、野球に関する例文やイラストなどで埋められているのです。
「僕も勉強は嫌いでした。『I have a pen』なんて、おもしろくなかった。でも、自分の好きなことなら、勉強でも興味を持てると思う」
そう話すのはテキストを考案した津口竜一さん(40)です。テキストの名前は「backstage(バックステージ)」。球児を陰から支える、という意味を込めました。
津口さんは大阪市出身。地元の進学校、北野高から一般受験で千葉大へ進み、社会人野球のTDK(秋田)では最速148キロの左腕として、都市対抗野球の優勝にも貢献した「元球児」です。
中学の硬式クラブチームで監督を務める知人から、「文武両道を目指しているけど、『文』の部分をなんとかしたい」と相談を受けたのがきっかけ。
「久々に中学の教科書を開いたら、『こんなにおもしろくなかったか』と思いました。また、勉強が苦手な子に話を聞いたら、『教科書に名探偵コナンのイラストが描いてあるページだけは覚えている』と言ったんです」
その言葉をヒントに、「野球だけの英語テキスト」を思いついた。教科書に沿った内容になっており、途中で飽きないように、イラストや、スマートフォンのアプリでバーコードを読み取ると単語を動画で覚えられるような仕掛けもあります。
このテキストの役割を津口さんは、「子どもの『やる気』をキャッチすること」と言います。
「勉強をやりたくない子は、これすら見ないと思います。でも、そんな子でも、『やってみようかな』と思うタイミングは何度かあるはず。そのときに、興味のないことが書いてある教科書じゃなく、このテキストなら、勉強できるかもしれない」
津口さんはテキスト作成にあたり、シニアやボーイズなど、複数の野球チームを訪れ、中学球児と会いました。「勉強をやらない理由を聞くと、『僕、アホなんで』って言うんです。でも、野球は頭を使うスポーツ。真剣に野球をやっている子は考える力が高い。本気になれば、勉強もできるはずなんです」
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